第36話

無事に冒険者達全員を王都に戻し、後のことはフェリックス総長さん達に任せ俺達はスタンピードが発生したダンジョンへと向かった。

千体の魔物が出てきたのだから、中にいた冒険者がどうなったのか、またダンジョン内に異変がないか確認が必要だと思ったからだ。

ダンジョン入り口は一斉に魔物が出てきた事により多少崩れてしまってはいるものの、ダンジョンの性質上修復し始めていた。反対に管理小屋等の外部に建設されていた建物は見る影もなく酷い状態…いや跡形もない、と言った方が適切な状態だった。

王都のダンジョン入り口付近は簡易的ではあるが店が建ち並んでいると聞いていた。スタンピードの被害は宿屋、飲食店、道具屋など店とそこで働いていた人達、管理小屋に派遣されていたであろうギルド職員も一切合切を飲み込んだのだろう…

土と血や肉が混ざった嫌な臭いは瓦礫すら見当たらない程にすり潰された残骸らしい物からも数日経っていても色濃く残っている。

俺はそんな無惨な残骸を視界から極力外し、思考からも除外して、ダンジョン入り口へと入った。

こんなのあっちの世界では有り得なくて、さすがに異世界だとしても俺の豆腐メンタルでは耐えきれなかったのだ……


「ダンジョン内部はどうなってるか分からないから、二人一組で動くこと。1階層ごとにくまなく調査するために諜報君を放ってくれ。放ち終わったら1組だけ残って他は下の階層へ移動、諜報君を放ってまた移動。2階層毎に誰かが残って、残った組は少しでも異変があったらナヴィを通して連絡してくれ。あと、冒険者の生存確認もお願いね」


俺は入り口に入って1階層への階段前で注意事項を述べた。出来る限り冒険者は救出したい。


「ゼン様は誰と組まれますか?9人ですから一組は3人になりますが」


オルトがもっともなことを言う。

だが俺は組まない!

すまない、ボッチで行動したいんだ。と言うか、転移陣を作ったり諜報君を作成&行動基準への錬成をしながらみんなが活動するのをモニターで見るつもりなんだよね…


「このダンジョンは30階層の作りで、階層の広さは数時間あれば階層移動の階段まで辿り着けるくらいだと思う。皆には2階層毎に調査担当を決めて、諜報君を放って欲しい。階層移動時に何かあった時用に転移陣を設置する事。調査が終わったら一番下層の転移陣に転移カード(転移したい転移陣を選択して移動するための転移起動用のカードで、設定先を10個から30個にグレードアップした優れものである)で移動後、更に下層階層へ行ってまた諜報君を放って2階層毎に調査して欲しいんだ」


「なるほど。諜報君で2階層単位で調査すれば時間短縮になりますね」


「ああ、モニターは俺の方で確認しておくよ。まあ、ナヴィも見てくれるだろうし見落としはないだろうからね」


〔……他力本願〕


うん、俺はナヴィがいないと何も出来ないと自負している!


〔……自負しないでください…〕


まあいいじゃない。相棒だろ?


〔仕方の無い人ですね…〕


俺のフォローをナヴィが請け負ってくれる事も決まり、2階層毎にナジとネラ、オルトとグレイ、ジガンとエイダン、レビーとノエルのペアで回復魔法が使えるメンバーが分散したなかなか良いペアリングで調査することに。

早速1、2階層で諜報君とナジとネラが調査を実施し始め、他のメンバーは下層階へ向かう。

俺はモニターを見つめながら小さな異変も見逃さまいと集中した。

視線はモニター、手は転移陣や諜報君の錬成と器用にこなしていく。

今のところ1階層には異変と思しき所はない。

冒険者の姿も見えず、一旦2階層のモニターを確認する。

1、2階層は草原エリアに岩山があり諜報君が岩山に沿って飛んでくれていたこともあり、チラッとだが冒険者らしき影が見えた。


「ナヴィ、ナジ達に岩山に向かって貰って。索敵で確認して冒険者が居るか確認を」


〔承知しました〕


すぐにナジ達が俺の指定した岩山近くに移動した。索敵の結果、冒険者パーティらしいため岩山にある洞窟に入り冒険者の救出を行う。今のところスタンピードは収束している事を告げ、自力で移動出来そうなら王都へと戻って貰うよう伝える。

ナジ達の確認によると幸いな事に大きな怪我も無いため、自力で戻れるとの事だった。


「ふぅ。生きている冒険者が見つかって良かった」


〔はい、上手く隠れる事が出来たようですね〕


その後も3、4階層、5、6階層、7、8階層と、オルトペア、ジガンペア、レビーペアが階層毎に調査して行く。

俺もナヴィもしっかりとモニターを確認し、異変や冒険者を探していった。

さすがに全員レベルやステータス値が高い為、下層階への移動は大して時間はかからない。その分調査はじっくりやってくれているのでとても頼りになると感心していたら5階層のモニターを確認していたナヴィが気になる物を見つけた。


「どうした、ナヴィ?」


〔マスター…あの辺りの土を掘り起こしてみる必要がありそうです〕


「5階層だからジガン達にお願いするか」


〔伝えます〕


ジガンとエイダンがナヴィが示した場所に着き、怪しげな場所を掘り起こして貰った。

しばらく掘り起こすと中から禍々しい気配を放つ魔石のようなものが現れたため、ジカンに共有格納場所に入れてもらう。

俺はその魔石を空間収納から取り出すと、鑑定を試みた。


魔精錬石

効果:魔物を発生させる効果を持つ石


魔物を発生させる石だって?


(ナヴィ、こんなもの普通にあるの?)


〔いいえ、自然界にこのような石は存在いたしません〕


ってことは、人工的に作成されたものってこと?

誰が・・


〔この石はほとんど効果をなくしておりますのでスタンピードの要因かもしれませんが、今すぐの脅威はないでしょう。

ただ、問題はこのようなものを人工的に作成し、ダンジョン内部に埋めた者がいるということです〕


うん。

あ、ジガン達に調査に戻るよう伝えてくれ。

あと皆にもこのことを共有してほしい。


俺は、ナヴィにジガン達に調査に戻るよう伝えてもらい、他の階層のモニターを確認することにした。

この魔石一つでスタンピードを起こせる程の魔物を発生させられるとも思えない。

たぶん、もっと沢山の石がダンジョンに埋められていると思われる。

悪用されないためにも、こんな禍々しい石は探し出して廃棄すべきだ。


情報をナヴィが共有してから、5階層より下層階で合計で20個以上の魔石が見つかった。

ナヴィ曰はく、1つの魔石で大体50体の魔物を発生させられるそうだ。

魔石の動力はダンジョン内部の魔素と呼ばれる魔力の元。

放っておけばまた魔素を取り込んで魔物を発生させるらしい。

これは、ダンジョンの性質を上手く利用した計画といえるだろう。

本来ダンジョンは内部の魔素を利用して、魔物を自然発生させることができる。

正直仕組みはわからないけど、この世界のダンジョンの成り立ちがそうなっているのだから深く考えても仕方がない。

多少の誤差はあれど、ダンジョン内部の魔物の数は一定数になっており、冒険者が狩りを行っても時間経過により魔物はまた発生するのだ。

もちろん冒険者による狩りがなされなければ、その分魔物の数は増えるが飽和状態になったとしても魔物同士の縄張り争いや上位種による魔物同士の戦いで自然淘汰されていくらしいのだが。


ところがこの石は魔素を取り込み効果が最大になると、効果が切れるまで一気に魔物を発生させてしまう。

こんな石がダンジョン内部に20数個、それが一斉に魔物を発生させスタンピードを引き起こした。

王都のダンジョンは30階層。あまり冒険者が潜らない深い階層に魔石は多く埋められていた。

魔素を取り込んだ魔石は一斉に魔物を発生させ、魔物達は自然発生した魔物をも引き連れ階層移動を行いダンジョンから溢れたというのが真相のようだ。

計画的に引き起こされたスタンピードといえるだろう。

一体誰が何の目的で・・・

この世界には魔法なんてものが存在する。魔法には魔力が必要で、魔力には魔素が必要だ。

魔素は自然発生するもので、ダンジョン内外に問わずありふれたものらしいが…その濃度で魔物が発生するのだとか。

ダンジョンはその魔素が比較的濃いのだそうだ。それを利用してスタンピードを起こす意図は何なのか…

俺は魔素を使い果たした魔精錬石を眺めながら真相に辿り着けないもどかしさにギリッと思わず歯ぎしりし、知らず握りしめていた拳の力を抜いた。


調査に3日を有したが、原因もその脅威も取り除く事はできた。

ただ、根本的な脅威は取り除けてはいないので、それをどうするか・・だが。。


はぁ・・・

これ以上は俺達がすべきことではないように思う。

冒険者ギルドなり、王族なりが然るべき手段をもって調査すべき事案だ。

俺はみんなにダンジョンを出るよう指示を出し、王都に戻ることにした。

このことを話すのは気が重いけれど・・

だって、絶対ブループラチナムに指名依頼がきそうだろ?

冒険者は手段の一つであって、俺は商人なんだよ。

商売がしたいんだ。

ああそうだ。

諜報君たちの回収も忘れてはいけないな。あと、転移陣もか。


(ナヴィ)


〔既に伝えてあります〕


さすがです!ナヴィ様!



ダンジョンから撤収した俺達は、居住空間のダイニングでノエルのおいしい食事に舌鼓を打ちながら

ダンジョンでの調査結果について話合った。


「ゼン様。いやな予感がしますね」


「オルトもそう思う?」


「あのような魔物を発生させる魔石など、聞いたことはありませんし、ダンジョンに埋めておくことでスタンピードを引き起こせるなど脅威でしかありません」


「もし、他のダンジョンにも埋め込まれているのであれば・・・」


「一斉にスタンピードが発生し得るということじゃな・・・」


オルトだけでなく、ナジやジガンも今後起こりうる事態を予想していた。

俺も、これで終わるとは思えない。


「リオンテールにはさ、いくつのダンジョンがあるんだろう?」


〔大小合わせて13ほどでしょうか〕


「13か・・」


「ゼン様、この間起きたオークのダンジョンのスタンピード、あれももしかしたら」


「うん、その可能性は高いね」


いやな予感はどんどん強くなる。


「はぁ・・・そこは調査しておくか」


「ゼン様。俺、ちょっと思ったのですが・・王都のダンジョンのスタンピードも、オークのダンジョンのスタンピードもダンジョンの魔素濃度を測ったとは考えられないでしょうか」


ナジが顎に手をやり、一点を見つめ考えながら話出した。


「ダンジョンの魔素の濃度によって魔石に溜まる時間が違うことを試していたのなら、ダンジョン毎に魔石を埋める日数を計算しながら埋めて、一斉にスタンピードを発生させたりしないでしょうか」


ナジが蒼白になって俺を見た。

俺もその考えはあり得る気がしている。

得てしていやな予感というものはよく当たるものだ。


「王都のダンジョンよりも強い魔物がいるダンジョン・・いや、ダンジョン毎の魔物の強さがわかるものってある?」


「冒険者ギルドなら把握しているのではないでしょうか」


「そうだな。明日、朝から王都に戻って王国騎士団、冒険者ギルドと話合おう」


気が重いけれど報連相は大事だし。

ダンジョンに取り残された冒険者達の件は最初に見つけた6人だけって事も報告しないと。

……管理小屋が無くなったからどれだけの冒険者がダンジョンに居たのか不明だけどな…


はぁ…

せっかくのノエルの料理なのに、味がしない。

大して動いてもいないのに疲労は蓄積しているようだ。

食事を終え自室に戻るとベッドに倒れ込む。

考えたくはないけれど、明日報告を済ませたらオークのダンジョンを調査しよう。

ああ、ハイデルワイスの店はまだ当分開けれそうにないし、従業員のみんなに事情を説明しないといけないだろうか…

頭の中で色々やる事を整理したいのに…眠気が一気に襲いかかってくる…

瞼を閉じ身体の力が抜けると俺は眠りの中へと吸い込まれていったのだった。

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