第35話
重症患者の治癒も終わり、再び騎士舎の総長室に戻るとオルトが地図に何やら書き込んでいた。
「ゼン様、治療は完了されたのですか?」
「ああ、重症患者は皆完治させたよ」
「さすが…僕も水属性のレベルが高ければお役に立てたのに」
「俺も…」
「エイダン、グレイ気にするなよ。普段からあまり回復魔法使わないから仕方ないさ。ああ、今回の殲滅で攻撃系の魔法使って水属性のレベル上げていけば?」
「そうします!」
エイダンとグレイの水属性魔法のレベル、ほんと低いもんね。回復の必要がなかったっていうかノエルやネラが回復しちゃってたっていうか…
二人とも水属性魔法の必要性を十分に理解出来たみたいだし、この依頼が終わった後が楽しみだな。
「それで?地図に書き込んでるのは魔物の位置かな?」
「はい、現在諜報君で確認出来た魔物の位置がこのような卵型になっていますので、私達の位置を等間隔で端から囲むように位置取れば、討伐も容易いのではないでしょうか」
オルトが地図に星印を等間隔に付け「後は誰をどこに配置するかだけです」と言うとニヤリと笑った。
やる気満々だな。
「ありがとう、オルト。エイダンとグレイもありがとな」
俺は3人に礼を言うとフェリックス総長さん達を振り返り地図を見るよう促した。
「現在洞窟に集中している魔物の位置はこの地図に書き込んである通りです。こちらのモニターで状況は確認出来ますので、フェリックス総長達は状況把握に努めて下さい。俺達はこのまま魔物の討伐に向かいます」
「もにた?魔導具か?」
はてな?といった顔でモニターを見るフェリックス総長さん。なんだろう、おっさんの癖にかわいいな。
「ええ、小型のゴーレムを通して得た風景や音声をこちらのモニターで映しています」
「なんと便利な……」
「これは我らでも使用可能か?」
食い付きが良いのはホールデン副総長で、マーヴィン第一師団長は胡散臭そうに見ている。もちろんフェリックス総長ははてな顔で小首を傾げたままである。見た目ダンディーなのにすげぇギャップな。
まあそれは置いといて俺はホールデン副総長に説明する。
「小型ゴーレムの行動基準を使用の度に錬成する必要があるので難しいと思います。ですので、売り出しはしてません」
「売り出してって事は君たちが作っているのか?」
「ええ、まあ」
「冒険者なのにか!?」
「ん〜、冒険者兼商人ですから」
ポカン顔のホールデン副総長、相変わらずはてな顔のフェリックス総長。大丈夫か王国騎士団。
「錬金術スキルが必要という事だろうか」
「ええ、そういう事になりますね」
マーヴィン第一師団長は顎に手をやり深く考え「珍しいスキルだ、うちの団員にはいないか…」と呟いた。
「とりあえずこのモニターで状況は確認出来ますので、皆さんはここでお待ちください。時間がないので俺達は今から討伐に向かいます」
「ゼン殿、軽傷患者の治療は終わったぞい」
ジガン達が戻って来たので地図を見せ印の付いた場所に移動して魔物を討伐する事を告げる。場所は俺が真ん中、左端からネラ、レビー、オルト、グレイ。右端からノエル、ナジ、エイダン、ジガンという並びでそれぞれの範囲を漏らさず殲滅する。全員範囲攻撃は可能なので問題ないだろう。
「じゃあ、行こう」
「「「「はいっ!」」」」
騎士舎を出て瓦礫だらけの王都を抜け目的の場所まで駆け抜ける。途中からそれぞれの位置へと分かれ魔物の最後尾へと辿り着いた。
匂いの影響か、魔物の意識は前方の洞窟に向けられており、やや興奮気味に見えた。
〔マスター、全員所定の位置に着きました〕
(これで千体くらい?少ないね。ま、いいか。ナヴィ、討伐開始だ!みんなに伝えてくれ!)
〔承知しました〕
俺のウィンドストームを皮切りに一斉に魔法攻撃や剣での横なぎ一閃など範囲攻撃が始まる。
洞窟に意識が向いていた魔物達もさすがに攻撃を受けて慌て始めた。
いたる場所からギギィーー!!グオオオオ!!などの魔物の奇声が上がる。パニックになった魔物が互いに攻撃し合い自滅するものもで出始め、俺達の止むことの無い攻撃と恐慌状態に陥った魔物の攻撃で辺りには土煙が舞い上がっていた。
攻撃しながら前進し、魔物包囲網を狭めて行く。
こちらに突っ込んで来る魔物や、手当たり次第に攻撃を繰り出す魔物達。そんな恐慌状態はあっとゆう間に洞窟に群がる魔物全体に広がり、外側の魔物の中には逃げようと闇雲に走り出すものも現れた。もちろん攻撃から逃れる事など出来はしない。全員が索敵をしながら包囲網から抜けようとする魔物を討伐しており打ち漏らしはないからだ。まさに殲滅なのである。
俺達の後ろには死を免れなかった魔物の死体が積み上がっていった。魔物の死体が壁となり、退路を断つ。あちこちで魔法が炸裂し、剣での攻撃による血飛沫が舞い上がる。徐々に両隣のグレイとジガンも視認出来るようになってきた。半分以上は倒しただろうか。
辺りは魔物の血の臭いや焼け焦げた臭いが充満し、その臭いが更に魔物の恐怖を煽る。どうにかして逃げようとする魔物達と怒りと恐怖で俺達を殺そうと向かって来る魔物達が入り乱れ魔物同士の潰し合いが激しさを増した。俺はそんな魔物の状態など気に止めることも無く次々と魔法を繰り出した。
岩肌が近づき、洞窟まで後少しというところ。
魔物の数も残すところ数十体、大して手ごたえのないまま討伐してきたけれど、冒険者達は無事だろうか。チラチラ見えるようになったその洞窟は思ったより入り口が小さく魔物が2~3体並べば身動きが取れない程だった。索敵範囲に見える冒険者達の数は42。全員洞窟内部で確認出来た。ひとまず安心である。
アイスバインドで残った魔物を凍らせ、剣で一閃氷漬けの魔物を砕くと、洞窟の入り口に走り出す。
皆も同じように駆け寄って来た。
「魔物の討伐は終わったかな」
「はい、索敵範囲にはおりません」
「洞窟の入り口に散らばってる魔物の残骸を脇に退けてくれ」
「承知しました」
オルト達が魔物の処理をし始めたのを横目に俺は洞窟の中に入った。
「すみません、救援要請を受けて来たブループラチナムという冒険者パーティです。皆さん無事ですか?」
洞窟に入ると倒された魔物の死骸が十数体、その奥に動く気配を感じ声をかけると、恐る恐るといった感じで数人の冒険者が姿を見せた。
「救援要請?」
「外の魔物はどうなったんだ?」
「ああ、全部倒しましたよ。全員無事ですか?怪我した人は?」
俺は顔を出した冒険者に怪我人の有無を確認すると「どうなっているんだ」など互いの顔を見合わせ外の様子を伺う素振りを見せるだけで、こちらの質問に答えようとしない。
まあ気持ちは分からんでもないが…
「ゼン様入り口の魔物の死骸は外に出し脇に退けておきました。後はそこの数体だけです」
「ありがとう」
オルトにお礼を言いうちのメンバーが全員揃ったところでもう一度声をかけた。
「皆さんもう安全なので全員こちらに来て下さい。怪我人がいるなら治療しますので仰ってください」
「魔物を全て倒したと言ったが本当に?この短時間でか?」
鑑定で声をかけてきた冒険者を確認するとSランクだったので、リーダー格なんだろう。
「ええ、魔物は全て討伐したので、またダンジョンから出てこなければ、今のところ大丈夫です」
「そ……そうか。すまない、怪我人がいるんだ。治療出来ると言っていたな。回復魔法だろうか、ポーションではもう難しいんだが」
「ノエル、ネラ頼む。損傷が激しい場合は言ってくれ」
「はい」
「ん。分かった。個人ならノエルが治療する方が効率いい」
「うん、まずは怪我人を確認しようか」
ノエルとネラは話し合いながら洞窟の奥へと進んで行く。
「あなたがリーダーですか?俺はブループラチナムのリーダー、ゼンと言います。王国騎士団のフェリックス総長から話を聞いて、洞窟に引き付けていた魔物の討伐を行ないました。安全なうちに王都に戻りましょう」
「魔物を討伐と言ったが、千体近い魔物を全て倒したと言うのか?冒険者の討伐隊が組まれたってのか?」
「いえ、俺達ブループラチナムだけですね。道中も護衛しますので安心してください」
「いや、ちょっと待て!Aランクパーティで1体倒せるかどうかの魔物の群れをたかだか9人で殲滅なんて出来るはずがないだろうっ」
リーダーとは違う別のSランクの冒険者が食ってかかるかのように声を荒らげた。
「信じられないのなら外を確認してくださいよ。一面に魔物の残骸が積み上がってますから」
俺は面倒臭いやり取りに少しうんざり気味に答えると、リーダー格の冒険者に向き合う。
「お名前をお伺いしても?」
「あ、ああ…フォレストガードナーのアルクだ。Sランク冒険者の一人で、そっちの怒ってる奴は同じSランク冒険者のフェイト、紅蓮の焔のリーダーだな」
アルクさんはスっと腕を出し握手を求められたので俺も腕を出しその手を軽く握る。Sランクなだけあってしっかりした体躯に人を引き寄せる妙なカリスマを感じた。
外の様子を確認したフェイトさんは顔面蒼白になり戻って来るやいなや「ま、魔物が…残骸が…積み上がってる…ほんとにお前達だけで倒したのか…」と冷や汗をダラダラかきながら俺達を見回した。
「ええ、ランクは低いですけど、単に冒険者のランクポイントが足りないだけで実力は全員Sランク以上ですので」
肩を竦めサラッと答える。
「ゼン様、怪我人の治療が終わりました」
奥からノエルとネラ、そして残りの冒険者達が出てきた。
「全員動けそうか?」
「ん、問題ない」
「じゃあ、皆さんいつまでもここにいる訳にはいかないので王都に戻りましょう。道中護衛はしますが、歩いて移動だと時間が掛かるので、バフをかけますから走ってください。30~40分もあれば王都に着くでしょう。ネラ、全員にバフかけてくれ」
「走るだって!?結構な距離だぞ!それに怪我人だって」
「怪我は治療した。皆元気。ネラがバフかける、問題ない走れる」
「フェイトさん、ネラは全員にバフをかけられるので体力面では問題ありません。俺達は皆さんを王都に連れ戻した後、ダンジョン内の調査に行くのであまり時間を無駄にしたくないんですよ」
戸惑うのはしょうがないし正直警戒もされてるんだろうけど、ダンジョン内に取り残されてる冒険者達が気になるし、あまり時間をかけたくないんだよね。
「皆こっちに集まって。バフかける」
ネラの言葉に半信半疑ながらも冒険者の皆はネラの周りに集まった。アルクさんは割と素直に言う事を聞いて行動してくれるけどフェイトさんのパーティメンバーだろうか、リーダー共々胡散臭そうに見るだけで少し距離を取っていた。
はぁ…面倒臭い。
「あまり離れてるとバフの範囲外になりますよ。走れなければ置いて行きますので、後は自分達で判断してください」
溜息と共に投げやりに言い放ち、ネラに緑蔭の風でバフをかけるよう促すと、顔を見合わせたフェイトさん達も範囲内に慌てて距離を詰めた。
(最初から素直に行動すればいいものを)
やはり突出した力は受け入れにくいのか。
チートが過ぎるのも考えものだな…
「では行きましょうか。先頭はナジとレビー、中間辺りにオルトとネラ、左右にグレイとエイダン後ろはジガンとノエル、殿は俺。少しゆっくり目に走って行こう」
号令をかけ、42人の冒険者達の集団を走りながら護衛する。バフをかけられたと言ってもステータス値は雲泥の差。全力で走る訳にもいかず、彼らの体力を気にしながら俺達はゆっくり走って王都に向かった。
全力なら30~40分だが、帰りは2時間以上かけて王都へと帰路に着いたのだった。
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