第27話

ナントローモのダンジョンは階層こそは少ないけれど、フロアの広大さは群を抜いており、1階層降りるのに最短距離でも2日はかかる。

例えば1階の草原フロアには川や崖等もありそれぞれのフィールドで出現する魔物も違っていた。

冒険者は普通1フロアを4~5日かけて魔物を狩ったり素材採集したりしながら階を降りていき、大体3フロアで終了してダンジョンから戻る。

広大が故に、1フロア毎に階層を降りる階段と地上に戻る転移陣が設置されているのだ。

先達の功績によるフロアマップはナントローモのダンジョンでは必須であり、それがないと安全に休憩出来る場所やフロア移動もままならない。

当然フロアマップは冒険者ギルドが管理しており、高額な金額で売りに出されていた。

ナントローモのダンジョンで稼ごうと思ったら先ずはマップ代を稼ぐ事から始めなければならないのが冒険者の常識なんだとか。

俺にはMAP機能があるので不要だけれどもな。

ちなみに俺の恩恵を得ているうちの子達もMAP機能は使えるのでやはりナントローモのマップは不要である。


グレイとエイダンを伴ってナントローモのダンジョンに足を踏み入れると、情報通り草原フロアが広がっていた。

索敵スキルを起動すると何組かの冒険者パーティーが引っかかる。その内のひとつはオルト達だ。

自分達のレベルアップもしつつ魔物の素材やダンジョンにしかない鉱石や素材を取りに俺達より先にダンジョンに入っていった。沢山取ってきますね!と、全員いい笑顔だったよ。

オルト達が早速魔物狩りを開始したようで、グレイとエイダンのレベルが一つ上がった。ブループラチナムとしてパーティー登録されているメンバー全員に経験値が分配される為、俺が狩らずとも経験値は貰えるのだ。まあオルト達は素材採集がメインなので俺がサクサク倒していかないと、レベルの上がりに時間がかかるため、頑張るつもりだ。

とはいえ、自分が倒した方が分配される経験値は多いので、ある程度レベルが上がったらグレイとエイダン各自に倒して貰うけど。

MAPを確認し、近くに魔物が何体か居ることを告げると俺は護衛ゴーレムを配置し二人を伴って魔物に近づいて行った。

大型の牛型魔物が3体、こちらに気付き戦闘態勢を取っている。


(鑑定)


名前:-

種族:バーストキャトルロウ

LV:20

HP:810/810

MP:154/154

攻撃力:365

防御力:220

魔力:245

魔防:189

俊敏:114

スキル:突進LV5、土属性魔法LV4、火属性魔法LV5


あらまぁ、セリスタのダンジョンにいるグラスランドブルの上位種かな。強さはボス部屋のミノタウロスよりも強いんじゃない?

これは確かにBランク冒険者のパーティーじゃないと無理だわな。1フロア目でこのレベルなら普通の冒険者はあまり深くまで進めないのでは?

とりあえずオルト達なら一撃レベルだし、ほっといても大丈夫だろうけど、鑑定スキルがないからちょっと心配だな。何人か鑑定スキル覚醒すると安心なんだけど...


俺は今にも突進してきそうな魔物を見やり、さっとグレイとエイダンがゴーレムに守られていることを確認すると、一気に踏み込んで3体のうち真ん中のバーストキャトルロウの首に一刀を入れ、身体を捻りながら左のバーストキャトルロウの首を一閃。最後に右のバーストキャトルロウをウインドカッターで首チョンパと流れるような動きで仕留めた。

グレイ達を見る鑑定とレベルも上がったようだ。

二人を近くに呼び、仕留めた魔物の解体を教えていく。びっくりしていた様子はあったものの、教えた解体方法を身につけようと残った2体のバーストキャトルロウを解体していった。エイダンは躊躇していたので、ほぼグレイが解体していたのが気になるが…

レベルが10になったら自分で倒せるようになってもらいたいから、セリスタのダンジョンに行くか。最初はやっぱりゴブリンからのが良いよな。

そのまま索敵で引っかかった魔物を次々と狩って行き、順調にレベルも上がっていく。魔物が強いだけあって経験値も多いのかあっという間にレベルが10になった。

実感が湧かない二人だったが、エイダンに弓を番えて貰うと、しっかりと弦を張れるまで力が強くなっている。

グレイも振ることが出来ずにいた両手剣を難なく構え、横薙ぎに振るうことも容易く出来ていた。


「いい感じだね。じゃあそろそろ実践に移ろうか」


「実践...」


「そんなに心配しなくても、先ずはゴブリンからだから大丈夫だよ」


オロオロするエイダンと違いグレイはまるで達観したかのように「ナントローモのダンジョンにはゴブリンなんていないのですが」と呟きながら辺りを見回している。


「セリスタのダンジョンに行くから、一旦ダンジョン出るよ」


俺はそう言うと二人を伴って転移した。

無属性魔法もカンストしているので、ダンジョンでの転移も簡単に出来るのだ。とはいえ好き勝手に転移すると目立つので、さもダンジョンの転移陣を使いましたよ的な感じにカモフラージュするため、転移先はダンジョンの転移陣の転移先と同じ場所だ。

ダンジョン管理のギルド職員にダンジョンから出た事を報告し、人気の無い所まで移動してセリスタのダンジョン内に転移した。

もうセリスタで素材を売ったりしないので、いちいちダンジョンに入るのをギルド職員に報告しない事が多い。皆んなは俺の設置した転移陣での移動になるので地道に報告して貰っているのだけどね。


セリスタのダンジョン1階層。

ゴブリンだけのフロアなので今のグレイとエイダンなら攻撃を受けても軽い怪我で済む。

安心して魔物との戦いに挑んで頂きたい。


「ここで少し魔物と戦う事に慣れようか。ゴブリンだけだし、今の二人のステータスなら怪我もほとんどしないはずだよ」


俺は安心させる為にも笑顔で戦い方をレクチャーし始めた。


「先ずはエイダン。ゴブリンがいたら弓を番えてよく狙う事。狙いが定まったら射る。慣れてきたら攻撃してくるゴブリンに自分も移動しながら射る事が出来るようになろう」


「は、え?は、はいっ」


「大丈夫、今のステータスなら対応出来るからね」


ブンブンと首を縦に振りキョロキョロと辺りを見ては弓を持つ手に力を入れる。

エイダンはどうにも争う事が苦手に見える。

でも、ノエルだって震えながらもゴブリンと戦ってたし、頑張って貰いたい。いくらステータスが高くなっても危険が迫った時に動けなければ最低限自分の身を守る事すら出来ないし、どう動けば良いかも分からないままだと仲間への影響度合いも読めないうえに、戦況に大きく影響するのだ。戦う事に慣れて貰う為にも実践を積むしかない。

ファイト!エイダン!

精一杯フォローはするからね!


「グレイ、両手剣は思うように動かせる?」


次に俺はグレイに戦うコツを教える。


「はい、大丈夫そうです」


「グレイは前衛として戦う事になるから、敵の攻撃を受けやすい。だからきちんと敵の動きを見て避ける、いなす、受ける、からの攻撃。これらを瞬時に判断して対応していくことが大事だよ。もちろん先制攻撃も出来るならどんどんやって良い。剣の使い方としては上段に構えての袈裟斬り、下段からの逆袈裟斬り、中段からの薙ぎ払いなどが基本かな。両手剣だから片手剣とは多少違うだろうけど、スキルを覚えれば技も覚えられるので、それまでは今の動きで実践してみて」


俺は剣豪スキルで使える基本技をレクチャーして、後は両手剣のスキルを何とか覚醒して貰う事に期待する。

多分覚醒すると思ってる。じゃないと両手剣なんて選ばないもんね。普通。


索敵をするまでもなく、早速ゴブリンが現れた。

まだ気づいていないようなので、これはエイダンにが攻撃するのに丁度いい。


「エイダン、あそこにゴブリン見える?まだこっちに気付いてないから、先にこっちから攻撃してみよう」


「えっ!ぼ、僕が!?」


エイダンは俺の言葉にひゅっと息を呑み、ガチガチに固まって俺を凝視した。

え…だってさっきも説明したよね。

俺はこくんと首を縦に振るとエイダンはガチガチのまま弓を番えてゴブリンに矢を向けた。

身体が強ばっているのか弦をきちんと張れていないし、指もブルブル震えている。

エイダンの視線はゴブリンを見てもいなかった。

指が震えて弦を掴んでいられなかったのだろう。

矢が指から離れゆっくり弧を描いてゴブリンの斜め後ろにポスっと突き刺さる。


「グギャッ!」


驚いたゴブリンが悲鳴を上げた。


「ああっ!す、すみません、ぼ、僕…」


エイダンはゴブリンの悲鳴に半ばパニックになりゴブリンを凝視したまま後退った。


「大丈夫、落ちついて」


もう一度深呼吸させてから弓を射るよう指示をしようとしたら


「グギャギャギャギャーッ!」


こちらの攻撃に気づいたゴブリンが奇声を上げながら走ってきた。


「ヒィッ!」


ゴブリンが迫って来た恐怖からかエイダンは弓を落としてへたり混んでしまう。

立ち上がって逃げなければゴブリンの良い的だ。

エイダンの目の前に迫ったゴブリンは手に持っていた棍棒を大きく振り上げた。俺は手を出そうか迷ったものの、ゴブリンの攻撃はグレイが両手剣で凌いでくれたのでそのまま見守る事に。


「おいっ!エイダン立て!」


グレイがゴブリンの攻撃を両手剣で受けながら座りこんで動かないエイダンを叱咤した。


「グ、グレイ…あ、あぅ…こ、腰が」


「いいから立て!俺がゴブリンの攻撃を引きつけるから、お前は弓で攻撃しろっ」


グレイはちょこまかと動きながら棍棒で攻撃を続けるゴブリンを両手剣で上手くいなしている。

う〜ん、凄く良いシーンなんだけど…今の二人のステータスなら攻撃受けてもかすり傷だろうし、剣の一振りでゴブリン倒せちゃうんだけどな…

多分グレイもゴブリンの攻撃が手応えないって分かってると思うんだけど…

あっ!アレか!

二人で協力してゴブリン倒すことでエイダンに自信を付けるとかいうパターンかっ!

なるほどなるほど。

なら、引き続き観察に徹しよう!


「グ、グレイ…ご、ごめん」


「いいから立てっ!」


グレイの叱咤に立とうとするも足が震えて上手くいかない。


「なら、座ったままでいいからゴブリンを攻撃しろ!」


エイダンは言われたままに弓を番えてゴブリンに弓を向ける。射る瞬間ギュッと目を瞑り、矢は明後日の方向に飛んでいった。


「エイダン落ち着け!」


「ヒッ!」


弓を放り投げ頭を抱えて蹲るエイダンに「チッ」と舌打ちしたグレイはゴブリンを薙ぎ払い、一刀のもとに切り捨てた。


「エイダン、ゴブリンは倒した」


グレイの一言に蹲っていたエイダンは恐る恐る顔を上げ辺りを見回し、血まみれで倒れているゴブリンを見つけて「ヒィッ」と小さく悲鳴を漏らした。

すぐさまグレイに顔を向けると「ごめんなさい!ごめんなさいっ」と真っ青な顔で謝り続ける。


「俺にじゃなくて、ゼン様に謝れよ」


すげなくグレイが言い放つ。

エイダンは更に顔色を無くし、俺の方へゆっくり近ずいて頭を下げた。全身が震えている。


「す、すみ…すみませんでした…ぼ、僕、生き物を殺める事に…て、抵抗があって…相手が魔物だと、頭では理解してたのに、い、いざ殺すんだってなったら…恐ろしくて…」


エイダンは震えながら腕を胸の前でギュッと握り、俯きながら小さな声で謝った。


「ん〜まあ、確かに嫌だよね。命を奪う行為は抵抗あるのよく分かる。でも人間も人間でなくても命を奪って生きてるのが自然の摂理というか事実だからね。動物の命、植物の命、俺達は目の前の命を奪ってようやく生きていくことが出来るんだ。魔物は人に危害を及ぼすし、素材として使えたり、食べることも出来たりする。だから討伐する。それは魔物にとっても同じで俺達は餌だったりするわけじゃん。一方的に殺してる訳では無いから罪悪感は要らないと思うよ。まあ、なんて言うか、間接的でも直接的でも命を奪ってきたからこそ今生きてるんだから、慣れるしかないよね。ああ、レベルアップの為の余計な殺生に抵抗があるのかな。でも、ダンジョン内の魔物はある程度間引かないとスタンピードの原因になるからねぇ…それにスタンピードが発生した場合、戦えなくとも、せめて生き残れるくらいまでは強くなっておかないと。街中まで侵入された時に動けないしさ」


優しく慰めて貰えると思ったのか、全く気遣う事の無い俺の言葉に、エイダンは驚きのあまり膝から崩れ絶望的な表情になっていた。


ちょっと嫌味だったかな。

命を奪う行為が正しいとは言わないけど、だからってただ殺されるのを待つだけなら邪魔にしかならないからねぇ。大した怪我にならないように、パワーレベリングでステータスを上げて、わざわざ最下級のゴブリンとの戦闘をセッティングした訳だけど…

強くなった実感がなかったのか、強くなったからこそ余計に自分の一撃でゴブリンが死ぬから躊躇ったのか。

どちらにせよ、レベルが1でも倒せるような魔物相手にこれでは困るのだ。


「次はグレイがメインで戦ってみよう。今のは1体だけだったけど、2~3体で行動してるゴブリンもいるからね。複数体を相手取った戦いにも慣れていこう」


「はい」


エイダンとは正反対に落ち着いて戦闘に臨むグレイ。返事も簡潔で無骨な戦士ってイメージだな。

しばらくダンジョン内を進むと2体のゴブリンに遭遇した。

グレイは躊躇する事なく先制攻撃で一方のゴブリンを袈裟斬りで倒し、一度距離を取って残ったゴブリンの動きを注視する。ゴブリンが攻撃しようと動いたところで振り上げた腕を狙って切り落とすと、そのままゴブリンを真っ二つに叩き切った。

完璧だ。


「グレイ、戦闘センスあるな。ゴブリンとはいえ複数体相手に無駄のない良い動きだったよ」


俺は素直に賞賛する。

少し照れたのか「ありがとうございます」とだけ小さく呟いて先を進んだ。

ちょっと耳が赤くない?

俺はグレイの耳を見てほくそ笑んだ。

しばらくはグレイに雑魚ゴブリンではあるが複数体相手での立ち回りや、弓、魔法の攻撃手段を持つ魔物、といってもゴブリンだけど…との戦闘に慣れて貰うため半日以上戦い続けて貰った。


「そろそろお昼にしようか」


ちょっと遅くなったけどお昼ご飯にする事にした。

セーフティーエリアじゃないけど少し窪まった所に毛布を敷き結界と隠密スキルを発動しておく。

これで魔物にも冒険者にも検知されることもない。

今日のお昼ご飯は屋台で仕入れた塩味ベースのサンド系や串肉、野菜スープだ。

サンド系を2つペロリと平らげたグレイは串肉も2本あっという間に胃に放り込み、野菜スープも一気に飲み干した。


「まだまだ有るから遠慮なく食べてね」


俺はそう声をかけるとグレイは空間収納からピタパンとブルストが挟まったパンを取り出し、ケチャップやマヨネーズをそれぞれにかけると大口で頬張っていく。

ガタイが良いから食欲も旺盛だね。

空間収納は俺が許可を出しているのでグレイ達も共有部分は自由に出し入れ出来るようになっている。

食料や錬金素材なんかは共有部分に保管してあるので、何時でも取り出し可能なのだ。

グレイの食欲に比べエイダンはあまり食欲が無いようだった。

グレイが戦っている間も後ろからじっとその様子をみては、ゴブリンが切られる瞬間ギュッと目を瞑り視界を閉ざしていた。

命を奪う事も、奪われる瞬間を目にするのも怖い事だ。気持ちは分かる。俺だって平和な日本で45年間暮らしてきたんだから、魔物と戦うなんて正直ビビり倒してたわ。

でもなぁ、殺らなきゃ殺られるのがこの世界なんでしょ?人の命の重さはこっちのが軽いじゃん。

身を守れないでどうやって生きていくのか…街中にいれば100%安全な訳でもないんだし、エイダンにはもう少し戦う事の意味を理解して欲しいと思うのは俺のエゴだろうか。

戦闘に向いてないのだから、解放してあげた方が良いのかもね。従属契約はさすがに切れないけど、恩恵とかは契約内容を見直せば消せるんじゃないかね。

ナヴィ出来そう?


〔可能ですが、もう少し様子を見ましょう。少しづつではありますがエイダンが戦う事を考え始めています〕


へぇ。

なんかアドバイスしてるの?


〔ほんの少しだけですが。それと、このまま戦う事が出来ないようではマスター達と一緒には居られないので、ナントローモの街に置いていかれること。従属契約の内容は見直し、マスターの恩恵は無くなるが、マスターのスキル情報や蒼銀の月商会の商材レシピについては話せないこと。餞別に少しお金は貰えるが、その後の生死についてこちらは関知しないことを伝えました〕


まあそうね。

従業員じゃなくなるから、退職金として少しお金は渡すけど、今のところ成果がないからあまり多くは無理かな。

エイダンは薬屋で働いていたんだし、すぐに職は見つかるでしょ。

ナヴィが話してるなら、今日は様子を見るよ。

俺はピタパンを口に放り込み果実水で飲み込んだ。


食事休憩を終え、引き続きグレイに戦闘を続けて貰う。グレイの動きにキレが出てきたので鑑定したらスキル 剣闘士を習得していた。


「グレイ!戦闘用のスキル習得したんだねっ。剣闘士だなんて凄いスキルじゃないか」


「はいっ!スキル覚えてから随分動きやすくはなりましたし、俺に合ってる気がしてます」


グレイは嬉しそうにそう言って笑った。

剣闘士スキルは両手剣専用のスキルらしく、攻撃だけでなく剣を使った防御技やパリィ(受け流し技)も覚える攻守共に優れたスキルとの事だ。

階層を下りゴブリン以外の魔物も出てくるフロアで5体の魔物が一斉にこちらに攻撃を仕掛けて来た。

グレイは攻撃を躱しながら一体一体順に倒していく。そこに脇道から6体目のオークがいきなり出現し、グレイに襲いかかった。グレイは検知出来ておらずオークの攻撃はグレイを捉えていた。

ドシュッ

6体目のオークの腹を貫通した矢が壁に刺さった。

グレイの危機にエイダンがオークを射たようだった。

震える足を拳で何度か叩くと後ろに数メートル下がる。

深呼吸を繰り返し、再度弓を番えた。

じっと魔物とグレイの動きを確認してグレイから距離を取った魔物に、ヒュンッと矢が飛んでいく。

ドシュッ

矢はゴブリンの首に突き刺さりゴブリンごと壁に縫い付けた。


「うおっ、びっくりした!エイダン!攻撃するなら声掛けてくれっ」


驚いたグレイが最後の1匹を倒してエイダンに向き直り「でも助けてくれてありがとうな」とエイダンに感謝を伝える。

エイダンは「グレイが危ないって思ったらつい……」と蒼白な顔で呟き、そして「僕も戦う!」と大きな声で宣言した。


「エイダン、戦えるの?」


「はい!申し訳ございませんでした!これからは僕もちゃんと戦いますっ」


真剣な眼差しで戦うというエイダン。

俺は、ならばと1階層に戻り先ずはエイダン1人で戦えるかを試す事にした。

弓使いは中、後衛なので本来は前衛に攻撃を受けて貰いながら戦うけれど、1人で対処出来ないのは困る為、先ずは1人での戦い方を覚えて貰いたいのだ。

最初はもたついていたけれど、結果は合格。1人で複数体相手でもきちんと対応出来るようになった。

これならばグレイと組んで実践経験を積ませられるだろう。

今日はこれで終了にして、明日からまたレベルアップに励んで貰う事にした。

俺は「二人ともよく頑張ったね」と労い異空間のドアを開けると、ノエルが夕食を用意してくれているのか美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。

三人顔を付き合わせ、つい綻ぶ口元に「ヨダレ出てるよ」等の軽口を叩き合う。

今日も美味しいご飯が幸せな気持ちにさせてくれて、ちょっとギスった心を癒してくれた。

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