第2話

ふわ〜あっ!

デカい欠伸を一つ、伸びをして、シャワーを浴びようとベッドから起き上がった俺は、見慣れない部屋に身体が硬直する。


「あ、ああ、そっか、異世界転生したんだっけか…」


はぁ…

デッカいため息を一つ。

夢オチでも何でもなく、現実であるこの状況に

はぁ…

俺はもう一度ため息を吐いた。

とりあえずシャワーを浴びたいのだが、見回しても風呂場など無く、どうやらこの世界にはシャワーなどという便利設備はないようで、大賢者様曰く、お湯を使って濡れタオルで拭く、もしくは水浴びするかのどちらかだそう…

浄化クリーン魔法を使って綺麗にすることも可能だが、そもそも浄化は聖属性魔法なので使える人は少なく、また当然貴重なので余程の事でも無い限り浄化魔法で身綺麗にはしないそうで。

うーん…でも浄化魔法覚えたいな…

身綺麗にするのは社会人の基本だし。


〔スキル 聖属性魔法を習得しました〕


〔聖属性魔法LV1 浄化クリーンが使用可能です〕


「ん?」


〔マスターの要望を元に聖属性魔法の情報を収集、習得。浄化魔法を覚えましたので使用可能です〕


大賢者さんや…

今なんて?


「そう簡単にスキルやら魔法やらって習得出来るものなのかね…」


〔可能です。私は《ナビゲート》の権能の一部であり、マスターが必要とする情報の収集や必要とする能力を実現させるための機能となってます〕


もはや便利過ぎて怖いんですけど…


まあいいか。

出来るようになったのだから使うまで。


「ところで魔法ってどうやって使うの?

よく小説とかでは長ったらしい詠唱なるものが必要だったりするじゃん?」


〔詠唱不要です。「浄化」と自分に唱えるだけで使用可能です〕


ああ、そうなんだ。

俺は早速「浄化」と唱えてみた。

一瞬キラキラした光が身体を包み、スっと消える。


「おお、なんかスッキリした!」


浄化魔法は身体だけでなく、服まで綺麗にしてくれるようで、昨日土埃で汚れていた部分まで綺麗さっぱり落ちていた。


身綺麗になったが朝ごはんにはまだ早い時間であるため、俺はこの世界での今後の人生について考える事にした。


そもそも異世界転生を希望した訳でもないし、異世界転生=冒険者になって無双する!という厨二病的思考も持ち合わせていないのだ。

年齢16歳らしいけど、中身45歳のオッサンだからね。

正直途方に暮れるしかないのだが、来てしまったものはしょうがない。

この世界で生きていくしかないので、生きる為に足掻いてみよう。


って事で質疑応答タイム!

教えて大賢者さん!


「まず、16歳という年齢で働く事は出来るもの

?」


〔可能です〕


「16歳で付ける職業は?」


〔アスガルディアでは15歳で成人となるため、どのような職業も可能です。

ただし、専門職になる為には師匠に師事する必要があり、弟子として十分に学んだ後独り立ちするのが一般的です。

ただ弟子入りは師匠となる人物に才能を認めてもらう必要があり、成人前凡そ1年かけ準備するそうです〕


「専門職と専門職以外の見分け方は?」


〔いわゆる職人と呼ばれる職業に就いているのが専門職で、鍛治職や、細工職、魔導具等を作る職人も専門職となります。

専門職以外は商人や店の店員、農民などでしょうか〕


「へー、商人って専門職じゃないんだ」


〔商人は誰でもなれますが、商売のノウハウや商人としての知識、暗黙のルールなど必要な情報が多いため、こちらも先ずは商会に入って知識を得た後に独立する事が多いです〕


〔各地を巡る商人としてではなく、街で商品を売るだけなら、商業ギルドに登録すれば、商会に入る必要はありません〕


「なるほどねぇ。とはいえ、いきなり商人は無理だなぁ…。どっかの店で雇って貰うか?」


〔マスターの能力であれば、冒険者ギルドに登録し、冒険者として魔物の討伐で得た素材や魔石を売れば当面の生活に不自由はないと思われますが〕


「えー、俺に魔物討伐とか無理よー」


なんか大賢者さんが冒険者推して来るけど、暴力や争いなどない平和ボケした日本出身の俺に魔物討伐ってハードル高過ぎて、選択肢にも入ってなかったんだけど。


〔ですがマスターの保有している剣豪のスキルは剣での攻撃に特化しておりますし、大賢者のスキルは全ての魔法属性を覚える事が可能なスキルです。

アスガルディアで生活していく上で荒事に巻き込まれる可能性を考慮すると、能力を伸ばすためにも魔物討伐によるレベルアップは必須事項かと〕


「と、言われても…メンタル的な部分は強化されないじゃない?今魔物と向き合って戦える自信なんて1ミリもないのよ、俺」


〔マスターはアスガルディアに来る直前暴漢と戦っていたわけですから、メンタルも問題ないと思われます〕


「いや、それ酒に酔った勢いだったし、人間と魔物じゃそもそも比べる対象にならないよね」


〔問題ありません〕


その強気はいったい何処から…

大賢者さん引く気がないんですが…


うーん…

俺はベッドに横になって、商人、農民、どっかの店の店員、一応冒険者について自分が出来そうか考えてみる。

いや、その前に異世界転生について考える方が先か?

中年のオッサンではあるが、独り身だった事もあり、それなりに人気の異世界転生ものはマンガや小説で読んではいたんだ。若い部下達との円滑なコミュニケーションの為にね…へっ。

いくつか読んだ話では、ほぼ転生後チート能力での無双だったんだよな…

やれ魔王を倒すだの、やれ人助けに精をだすだの。

そっち路線以外だと、やっぱりチート能力を遺憾無く発揮してのスローライフ、または日本の知識無双だったか。


えー…俺コッチで何したらいいのよ……


「大賢者さんや、コッチの世界には魔王やら勇者やらはいるのかね?」


〔魔王は討伐されてから600年ほど経っており、現在勇者と呼ばれるものは存在しておりません〕


魔王いたんだ。

討伐されちゃってるんだ。

そっかー、じゃあやっぱり無双ものは需要も無さげだな。

まあ、魔王居ても無双などせんが…


となるとスローライフ路線かなぁ。

のんびりまったりとか良いかも。

ってなると農業?

うーん土いじりした事ないし、異世界に来て速攻農民暮らしってのも味気ない気がしないでもないよねぇ。

土地を得てからの領地開拓とかもあるけど、そもそも土地ってどうやって手に入れるの?

とう言うか、領地開拓やら領地経営やらハードル高過ぎて無理。


知識チートもねぇ、家と会社の往復人生で何かに熱中する事もなかったし、雑学も特に持ってないし…


うーん…

そういや起業するの一時は真剣に考えてたっけ。

小さな会社で良いから自分の力を試したくて、起業セミナー受講しまくったな…結局は資金を工面できず諦めたけど。

まあ、その起業活動が原因で離婚したから結果辛い思い出しかないんだが…

でも中堅企業の万年係長だった俺としては、社長ライフって憧れちゃうのよね。

社長ってこっちの世界では商会の会長とかか?

なら、最初は商人で儲けてゆくゆくはでっかい商会の会長になれたら最高じゃないかね?


「商人なんていいんじゃない?」


まあ、全くのノープランだけども、どうだろうか、大賢者さんや。


〔マスターの希望であれば、全力でサポート致します。商人として活動するならば何を商材に致しますか?〕


「商材…商材かぁ。えーなんも思いつかないわ」


〔活動資金も必要となりますが、現在の所持金は金貨10枚と銀貨7枚に銅貨1枚のため、少し心許ない金額ですね〕


手厳しいね、大賢者さん…


〔先ずは冒険者として活動し、魔物の素材や魔石を売って資金を貯める事をお勧め致します〕


「どうしても冒険者推してくるんだね…」


〔手っ取り早いので〕


手っ取り早いのか…

まあ確かに1泊銅貨8枚で1月分だと銀貨24枚必要で、今の所持金だと3年は持つんだけど、商材の仕入れとか、初期費用を考えると確かに心許ないよねぇ…

ちなみにこのアスガルディアは1ヶ月は30日で、12ヶ月で1年だそう。

日本みたいに29日や31日なんてないので1年360日だそうだ。

1日の時間は日本と同じで24時間。

通貨は

白金貨1枚 = 金貨1000枚

金貨1枚 = 銀貨100枚

銀貨1枚 = 銅貨10枚

銅貨1枚 = 鉄貨 5枚

の価値になり、鉄貨はあまり使われないんだとか。

そういやジジイ白金貨は入れてくれてなかったな、ケチくさいわー。

白金貨1枚入れといてくれれば初手から商人になれたのに、マジ使えねー。


そろそろ朝ごはんの時間だろうか。

俺は部屋を出て階下の食堂へ向かい、パンとスープにサラダというシンプルな朝食を食べると、大賢者さんの勧め通り先ずは冒険者ギルドで登録する事にした。


宿屋を出て大通り沿いにしばらく歩く。

盾に剣がクロスした看板。ここが冒険者ギルドか。

大きく開かれた入口にウェスタン映画に出てくる様なスイングドアが備え付けられており、外から中の様子が伺える。

朝の早い時間だというのに、中は割りと混雑しているようだ。

なんか場違い感半端なくて嫌だな…

扉の前で尻込みしていたら


「おら、邪魔だ、退けっ!」


と、ガタイの良い冒険者らしい男に突き飛ばされ、扉ごと中に押し込まれてしまう。


「あっ、ととっ」


俺はタタラをふんで何とか転ばずに踏みとどまったものの、


「扉の前で突っ立ってんじゃねーよ!」


と更に突き飛ばされてしまい、結局見事にすっ転んだ…

うう…恥ずか痛い……

冒険者ってみんなこうなの?まあ、イメージ通りっちゃそうなんだけど。


「痛たた…」


そう言いながら起き上がった俺は、一番空いてそうな受け付けの列に並び、ギルド内を見回した。先ほど俺を突き飛ばした男が目に留まる。そいつは俺等居なかったかのように掲示板らしいものを凝視しては多分仲間であろう男二人と何やら会話に勤しんでいた。

他の冒険者達も同じように掲示板凝視からの仲間うちとの会話。

やっぱり何奴も此奴もみんなガラ悪いっつーかむさ苦しいっつーか…

だから嫌なんだよ冒険者…

マナー溢れる大人な俺には合わないよね。

心の中で愚痴っていたら


「次の方どうぞ」


と、声を掛けられ、俺の番かと慌てて受付嬢の前に駆け寄った。


「本日はどのようなご要件でしょうか」


丁寧な口調だけど事務的な対応に役所の窓口を彷彿とさせる。


「冒険者登録をお願いします」


「では、こちらの用紙に必要事項を記入して、この水晶に手を置いて頂きます。その後ギルドカードに血を1滴垂らして頂き、手続き料として銀貨1枚お支払い頂きますと、手続き完了になります」


俺は言われた通り用紙に記入していく。

名前、年齢、得意職。

得意職は冒険者として自分が基本は何で戦うかを書くもので、剣なら前衛職、魔法なら後衛職(魔法)、索敵やら後方支援が得意なら支援職と書けば良いそうだ。

俺は何が得意とかも分からないので、大賢者さんの言う通り前衛職と記入した。


「では、こちらの水晶に手を置いて下さい」


(大賢者さんや、これって俺のステータス情報がバレちゃうもの?)


心の中で大賢者に確認する。

声に出す訳にもいかないしね。


〔いいえ、名前、年齢の他に犯罪歴を確認するだけのものです〕


(おお、そうか、良かった…)


いや、スキルやらギフトやら見られたら面倒臭いことになりしうだし、個人情報保護的な観点でも、勝手に見れるのは不味いもんな。

俺は大賢者さんの回答に安心して水晶に手を置いた。


「はい、問題ありません。では、このギルドカードに血を垂らして下さい」


差し出されたギルドカードと針を使って血を垂らす。

この針衛生的に大丈夫なの?

なんか怖いから後で指に浄化魔法掛けておこう…


血を垂らしたギルドカードは一瞬輝き、光が収束するとカードの表面には俺の名前ゼン・コウダと冒険者ランク「F」の文字が浮かび上がった。


おお、なんか感動。


「このギルドカードはゼンさん固有のカードであり、身分を証明するものとなります。紛失した場合、再発行には銀貨2枚が必要となりますのでご注意下さい」


「はい、分かりました」


ギルドカードの再発行って何気に発行手数料2倍なんだ…

まあ、無くすなよって事なんだろうな。

その後俺は冒険者ギルドに付いて説明を受け、早速依頼を受けるべく、依頼掲示板に向かった。

そこは朝賑わっていた場所で、ギルドからの依頼は目の前の掲示板に朝イチで張り出されるのだそうだ。依頼は当然早い者勝ち、そのため朝早くにもかかわらず冒険者達は我先にと依頼書を奪い合う。

ランクFの俺は常駐依頼を受けるつもりなので当分その奪い合いに参加するつもりはない。

先ずはどんな依頼があるのかじっくり眺めてみる。


ほうほう。薬草採取か。

異世界あるあるだな。

ヒーリング草10本で3銅貨、それを3セット。

報酬は合計9銅貨。

エドリ草10本で4銅貨ってのもあるな。


(ヒーリング草は回復ポーションの薬ってイメージだけどエドリ草は何の薬になるんだ?)


〔毒消しポーションの原材料です〕


へー、毒消しポーションかー。

これも異世界あるあるだよねー。

ふーん、ヒーリング草の依頼とエドリ草の依頼を受ければ合計報酬は銀貨1枚と銅貨3枚か。

贅沢しなけりゃ生きていく事だけは出来そうかな。

まあ、宿代と昼飯食ったら1銅貨も残らなそうよね。生活に必要なものを買い揃えようとしたらマイナスだわな。


(常駐依頼に討伐系ってあるのかね?)


〔スライム、ゴブリン、オークにグレイハウンド等の討伐があります〕


ゴブリンやオークは分かるけどスライムまであるんだ。


〔スライムは討伐というより、倒した後のスライム粘液の収集依頼になります。これは魔導具作成に必要な薬液の材料です〕


へー、スライム材料になるんだ…異世界って不思議。

どれどれ、ゴブリン討伐は1体討伐毎に3銅貨。オークは1体5銅貨、グレイハウンドは1体6銅貨で討伐した数分報酬貰えるのか。


(グレイハウンドってどんな魔物?)


〔グレーの毛並みを持った四足歩行の魔物で、攻撃はキバや爪だけですが、素早い事と普段は2~3頭で行動していますが、時々仲間を呼ぶため少し厄介な魔物です〕


狼みたいな感じかな?小さな群れで行動してるけど、周りに他の群れもいるって事かね。討伐報酬が他より高いのも分かる気がするわ。

スライムの方は粘液1瓶5銅貨、こちらも集めた粘液の本数分か。


(本数って事は集めるのに瓶が必要なのか?)


〔スライム粘液用の専用小瓶が必要です。ギルドで貸出もしてますが、10本セットで5銅貨の貸出金が必要です〕


って事は借りたらスライム1匹以上は討伐して粘液取らないとマイナスかよ。


〔スライムはどこにでも居ますが、討伐後の粘液採取に多少慣れが必要でしょう。慣れれば1日採取で10本分の粘液は確保可能です〕


(10匹討伐で、銀貨4枚と銅貨5枚が最大報酬って事ね。ちなみにゴブリン討伐って平均何体くらいになるものなの?)


〔1日で5体程度です。ゴブリンは討伐報酬は1体3銅貨ですが魔石も1つ3銅貨ですので、合わせて買い取りしてもらう事で1体6銅貨が見込めます〕


平均5体討伐して報酬は銀貨3枚ね。ゴブリン以外も討伐したら報酬はもう少し高くなるって事か。

なるほどねぇ。

まあ、定番はやはり薬草採取だよね!初日だし!

常駐依頼は受付で受注する必要はなく、現物を渡せば報酬くれるそうなので、俺は薬草採取をするために街門に行き仮入街許可証を返却、そのまま門を出て街道を逸れ森に向かった。

大賢者さん的には不満っぽいんだけど、何事も経験ってね。

しばらく歩くと開けた場所に辿り着き、早速その辺の草に鑑定を使ってみる。


ケーレイ草:草の一種。効能効果なし。

ダエン草:草の一種。効能効果なし。

シベンドレイ草:毒草の一種。主に腹痛を引き起こす。


どれがヒーリング草とか分からんわ…


〔スキル 探索を習得しました〕


「え?」


〔探索スキルにより半径50メートル四方を一気に探す事が可能です〕


大賢者さん…俺の気持ち汲み取ったのか新しいスキル習得しちゃいました…

ありがとう。


「探索」


俺は大賢者さんが習得してくれたスキルを使ってみる。


「うぉっ」


あちこちにヒーリング草やエドリ草が見つかった!

探索スキルすげー!


大賢者さんに採取方法を教わり、ヒーリング草10本を纏め、その辺に生えている柔らかい草の茎を使って束にする。

エドリ草も同じように束にしていき取り尽くさない程度で採取を終えた。


「ふぅー、なんか集中しちゃったな。結構な量になったけど、大丈夫だよね?」


俺は独りごちて採取したヒーリング草とエドリ草を空間収納へ放り込む。

常駐依頼以上の採取が終わったけど、まだ昼前。

お腹も空いて来たので俺は街に戻る事にした。


冒険者ギルドに戻り、受付で本日の採取結果を査定してもらう。

ヒーリング草10本の束が3セット×3で90本 27銅貨

エドリ草10本の束が5セットで50本 20銅貨

合計報酬は銀貨4枚と銅貨7枚。

うん、1日の稼ぎとしてはまあまあではないだろうか。


俺は報酬を受け取り、昼飯の為に市場に向かった。


「おー美味そうな匂いがあちこちから」


市場は街の中心部にあり、広場のようになっている。そこに屋台が立ち並び、肉、野菜をはじめ手軽に食べられるサンドウィッチのようなものや串焼きなどが売られていた。

俺は早速肉や野菜がめいっぱい挟まったピタパンのようなのを一つと、串焼きを購入する。両方合わせても銅貨6枚なら安いのだろうか。


「んまっ!」


早速串焼きに齧り付き肉汁が口いっぱいに広がる。

行儀は悪いが歩きながら頬張りあっという間に食べ切ってしまった。

味付けは串焼きはシンプルな塩味、ピタパンは塩味に香草が利いてピリッとした辛味も後から追いかけてくる。どっちも作り立てのアツアツで十分満足のいく昼飯だった。


「市場はざっと見たけど、まだまだ時間あるな。あ、着替えとか必要だし、討伐に向けても武器がいるよな」


〔職人通りに衣類店や武器屋、防具屋等があります〕


お、さすが大賢者さん。

俺はMAPを確認して職人通りに向かい着替えやら下着やらを買い込む。

残念ながらタオルは日本のようなふかふかなものではなく、ガサガサした綿と麻の混じったようなもので、ちょっとガッカリしたのは内緒だ。

武器屋では所謂ロングソードと呼ばれる長剣を選び、予備のナイフも一緒に購入した。

はっきり言ってロングソードなんて使える気がしないが、大賢者さんが言うには今の俺のステータスで十分に使いこなせる重さと長さなんだそう。

確かに握った感じ重いとは思わなかったけど、ホントかなぁ……


「防具はどうしようか」


〔皮の胸当て、初心者用のブーツ、剣やナイフ等を吊せるベルト等はあると良いかと〕


「なるほどな、じゃあ防具屋行くか」


いやー出費が嵩むねぇ。

今日稼いだ銀貨4枚なんて衣類だけでなくなったし、ロングソードなんてそれだけで銀貨10枚よ。

防具屋で購入した分を合わせると、本日の出費合計銀貨40枚だし。

まだカバンやら薬やらも購入予定だから今日だけでどれだけ出費してしまうのやら……


(なあ、大賢者さんや。俺は空間収納持ちなんだしカバンなんて要らなくない?)


〔空間収納は希少なスキルである為、あまり大っぴらにしない方が良いでしょう。マジックバックを購入し、普段はそちらから出し入れしているように見せかける事をお勧めします〕


ふーん、なるほどなぁ。


(あでも、今日ギルドの受付で空間収納からヒーリング草とか出しちゃったけど……)


〔受付嬢の意識を逸らしておきましたので、マスターが空間収納から出した所は見ておりません。今のうちにマジックバックを購入しておけば特に問題ないでしょう〕


ふぁー……

大賢者さんマジ有能。


(ところでマジックバックっていくらくらい?お高いんでしょ?)


〔容量や機能によりますが、中古の小容量で時間停止機能なしなら銀貨50枚もあれば購入可能です〕


「高っ!」


〔中容量で時間停止機能付きなら中古で金貨100枚程ですので、お手頃価格です〕


あ、はい。すみません。

でも中古で金貨100枚ってどんだけよ。


〔時間停止機能が付くものはダンジョンでしか手に入りません。そのため容量が大きければ大きいほど希少性は上がり、大きさによっては白金貨数枚になる物もあります〕


(ふえー、マジックバックによっては随分と高額になるんだなぁ。じゃあ容量制限ナシの時間停止機能付き空間収納スキル持ちの俺って、かなりレアだったり?)


〔レアですね。注意が必要です〕


おぉぅ。

気をつけよう……


(そういや時間停止機能が無いものはダンジョン産じゃないの?)


〔魔導具として作成される物がほとんどです。偶にダンジョンからもアイテムとして出るそうですが、ハズレ認定されてます〕


不憫……マジックバックよ強く生きろ…


魔導具屋を覗くと大賢者さんのお勧め通り良さげなマジックバックがあったので銀貨62枚で購入。

予定より高かったのは小型とはいえ、昔オッサンがよく持ってたセカンドバッグを少し小さくした位の大きさがあって、ベルトに吊るす事が出来るタイプだったから。

剣の反対側に吊るせば使い勝手も良さそうだ。

後は回復ポーションや毒消しポーション等を数点銀貨2枚分購入し、俺は宿屋に戻った。


本日の出納。

収入:銀貨4枚と銅貨7枚

支出:銀貨105枚と銅貨6枚(ギルド登録料含む)

残高:金貨9枚 銀貨6枚 銅貨2枚


うん、すげー出費だな。初期費用だとすれば…まあ、許容範囲か。


「なあ大賢者ー、明日は討伐の常駐依頼を受けようと思ってるんだけど、俺まだ魔物に遭遇した事ないよね。何処に居るものなん?」


〔マスターには昨日から魔物避けの効果が付与されておりましたので、魔物が避けておりました〕


「あーそういや神様のやつがそんな事言ってたねぇ。あれ?でも効果は1日程度って言ってたけど?」


〔はい、1日程度ですので、本日の午前中は効果が続いておりました〕


アバウトかっ!

まあ、あの草原で目を覚ました時の時間なんて分からんし、1日程度がキッカリ1日なんて事もなかったって事ね。


「効果ってまだ続いてるの?」


〔いえ、もう効果は切れました〕


じゃあ明日からは討伐出来るのか。


「ねえ大賢者さんや。ホントに俺ゴブリンとかと戦えるの?剣豪なんてスキルあっても剣の振り方一つ分からんよ。それに出来れば先ずは遠距離攻撃からやりたいんだけど」


〔剣豪スキルがあれば、自然に剣で戦う事が出来ますので心配ご無用です。遠距離攻撃でしたら攻撃魔法があります。火属性魔法、風属性魔法辺りがよろしいかと〕


〔スキル 火属性魔法を習得いたしました〕


〔スキル 風属性魔法を習得いたしました〕


おっと…ポンポンとスキルを覚えるな…


「ステータス・オープン」


名前:ゼン・コウダ

年齢:16

LV:1

種族:人族

HP:34/34

MP:25/25

攻撃力:29(+15)

防御力:28(+18)

魔力:12

魔防:9

俊敏:10

幸運:37

スキル:剣豪LV1、大賢者LV1、空間収納LV-、鑑定LV MAX、聖属性魔法LV1、探索LV1、火属性魔法LV1(new)、風属性魔法LV1(new)

ギフト:全言語理解、ナビゲート

装備:

ロングソード(効果:攻撃力+15)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

初心者用ブーツ(効果:防御力+6)


やたらとスキルが多いな……


「火属性魔法で使える魔法というと、ファイアボールとか?」


〔火属性魔法LV1で使用可能な魔法はファイアボールです。また風属性魔法LV1はウィンドカッターが使えます〕


「攻撃魔法って練習必要だよね…」


〔聖属性魔法 浄化と同じように対象に向け唱えるだけですので、練習は不要です〕


「え、そんなに簡単に使えるの?」


〔スキル 大賢者で魔力操作や魔力感知など魔法使用時に最適化を行うためマスターは唱えるだけで魔法の使用が可能となります〕


いやほんと大賢者さん半端ないっすね。


(何から何までありがとう)


〔《ナビゲート》の権能ですのでお気になさらず〕


あ、はい。


レベルアップのためとはいえ正直気は乗らないが、何時までもLV1のままって訳にもいかないし、明日からは魔物狩って討伐報酬ゲットしながらレベルアップに勤しむか……

はーやだなぁ…

……グゥ……

嫌だなんだと言っても腹は減るんだね。

俺は1階の食堂で本日の夕飯を楽しむことにした。

メニューは、と言っても選べる訳では無いのだが。塩味の強い野菜と肉の煮込み、それから焼いた腸詰、パン、豆を煮込んでペースト状にした物に刻んだハーブが入っているフムスのようなもので(ファムと言うらしい)ボリュームもあり十分に満足出来そうだ。

煮込み料理は塩味がキツいがその分パンも進む。ファムはそのまま食べても良いし、パンに塗っても良い。腸詰のパリッとした歯ごたえと香ばしく噛めば噛むほど旨みが出てくる肉肉しさも後を引いた。

俺は脇目も振らずガツガツと全部食べきってしまい


「ああー美味かったぁー!」


と、腹を撫でる。


「美味そうに食べてたけど、気に入ってくれたみたいで嬉しいねぇ」


宿屋の女将さんが声をかけてくれた。


「いやほんと美味しかったです!特に腸詰!あ、あとファムも!全部女将さんの手作りですか?」


「あはは、そうだよ。腸詰もファムも自慢の料理でね。ここいらじゃ一番の味さ」


女将さんはニコニコしながら他にも自慢の料理はあるから期待してくれと言いながら奥のキッチンスペースへと戻って行った。

他の料理も期待出来そうで今後の夕飯も楽しみだな。

食後のコーヒーという訳にもいかないので、腹を満たした俺は部屋に戻り明日の為に早々に休むことにした。



おはようございます。

朝です。

気が重い朝です。

気が重いので、当然足取りも重いです。

俺は今街に入った時に通った門とは別の門から出て森に向かって歩いています。

大賢者さんのナビで魔物が見つけやすい所へ移動中なのです。


森に入り15分程経った頃だろうか。

索敵スキルに反応が。

距離にしてまだ50m程先ではあるものの、しっかり2つの反応がある。

え?索敵スキルはどうしたのかって?

昨夜俺の寝てる間に大賢者さんが覚えてくれてたさ。用意万端ですね、さすがです。


俺は2つの反応に向かって慎重に歩を進める。

緊張で吐きそうだ……

背中もじっとりと汗ばみ、心臓が早鐘のように打つ。俺は深呼吸を繰り返し、距離を確認しながら近付いていった。


(見えた!……アレがゴブリン?)


〔はい、ゴブリンですね〕


おれは木に隠れてそっとゴブリンと思われる2体の魔物の様子を伺った。


ゴブリンはお子様くらいの大きさで緑色の肌に醜悪なお顔をされており、腰に粗末な布らしき物を纏っただけのヌーディなお姿。手には木の棒を持って「ギャッギャッ」とお話しされておりますが、全くもって可愛くありませんね。

俺は緊張を解すため、わざとゴブリンとの初邂逅に少しおちゃらけてみる。

……おかげで少し緊張も解けたようだ。

それにしても、攻撃しても罪悪感とかで苛まれる事はなさそうなのは良かったけど、2体同時に相手取って戦える気がしない。


(なあ、大賢者さん。先ずは魔法で遠距離攻撃するとして、連続して攻撃出来るのか?1回使ったら次魔法使えるまで時間かかるとかない?)


〔ございません。連続で使用可能です〕


(そうか。じゃあウィンドカッターで斬り裂けるかやってみるか)


俺は魔法攻撃の後すぐに戦えるようロングソードを右手に構え左手を向かって左側のゴブリンに翳すと


「ウィンドカッター!」


と唱える。


シャウッという音と共に風の刃がゴブリンに向かって放たれた。


「ギャッ!」


悲鳴と共にゴブリンの身体が上下に分断され、近くにいた右側のゴブリンの左腕も斬り飛ばされる。


え?なんで!?真っ二つ!?


「ギャギャガギャギャアーー!」


右側のゴブリンが驚きとも怒りとも思えるような悲鳴を上げ、俺を見つけると無事な右手に握られた木の棒を振り上げながらこっちに向かって走り出して来た。


「うわぁ!ウ、ウィンドカッター!!」


慌ててもう一度ウィンドカッターを唱えるも、慌てたせいか狙いがずれ、ウィンドカッターはゴブリンの脇腹を切りつけた。

ゴブリンは数歩走り続けたが前のめりに倒れ動かなくなる。


「……た、倒した?」


『レベルアップ致しました』


脳内にメッセージが浮かび上がり、何となく身体が軽くなったように感じる。

今のでLVが上がったのか……


「ちょ…ちょっと大賢者さん…ウィンドカッターの威力凄すぎない?俺のイメージとだいぶ違うんだけど……」


俺のイメージは、ウィンドカッターはゴブリンの身体を少し切り付けて弱らせる程度の威力だろうから補助的なものだったのよ。

トドメはロングソードで切り付けようと思ってたしね……

なのに、真っ二つにしちゃうってどういう事よ。


〔マスターは元々賢者のスキルを持っておりましたので、魔法での攻撃力は通常の1.5倍でした。現在賢者は大賢者にスキルアップしておりますので、3倍の攻撃力となります。また、ステータスの魔力値もLV1の段階から高いのでゴブリン程度なら一撃で屠れます〕


屠れちゃうんだ。一撃で。。

ていうか、大賢者にスキルアップしたからか、なんか諸々凄い事になってるよね?元々の賢者スキルについて知らんけど、凄い事になっている気がして仕方ないんだが…

まあ倒せたんだし、良いのかな……

俺はなんだか騙されてるような、おしりがむず痒いような、何とも言い難い感覚を無視してレベルが上がったステータスを確認する事にした。


「ステータス・オープン」


名前:ゼン・コウダ

年齢:16

LV:2 (+1)

種族:人族

HP:46/46(+12)

MP:30/38(+13)

攻撃力:37(+23)

防御力:34(+24)

魔力:21(+9)

魔防:14(+5)

俊敏:15(+5)

幸運:37

スキル:剣豪LV1、大賢者LV1、空間収納LV-、鑑定LV MAX、聖属性魔法LV1、探索LV1、火属性魔法LV1、風属性魔法LV1、索敵LV1(new)

ギフト:全言語理解、ナビゲート

装備:

ロングソード(効果:攻撃力+15)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

初心者用ブーツ(効果:防御力+6)


えー……

なんか1レベル上がっただけなのにステータス値の上がり方エグくて引くんですけど……


「大賢者さんや……幸運以外の全ステータスが凄い勢いで上がってるんだけど、これって普通なの?」


〔スキル 大賢者の能力の一つに、レベルアップ時の補正として幸運値以外の全ステータス値+5UPがある為です〕


「え!そんなのあったの!?」


慌てて俺は鑑定で大賢者を確認した。


大賢者:ギフト《ナビゲート》により生成された自我を持った成長型スキル。アスガルディアのあらゆる情報を収集し、知識の最適化を行う。

ギフト《ナビゲート》と相互互換する事で持ち主と意思疎通を円滑に行える。

魔力操作、魔力感知、無詠唱、命中補正などの最適化により魔法使用時の負荷を軽減する。

成長補正として、レベルアップ時に幸運値以外の全てのステータス値に+5が付与される。


「大賢者さん……チートが過ぎませんか?」


〔+5の補正値以外に成長補正用のスキルが別途必要と思慮します。生成、習得を行います〕


「ちょ、更に補正させるってのか!?」


〔はい、今のままですとMPの成長率が悪く魔法使用時に影響が出ます〕


「え、十分だと思うよ!?」


〔スキル ステータス補正を習得しました〕


〔スキル MP消費軽減を習得しました〕


「2個覚えちゃってるけど!?」


何なの!?

大賢者さん暴走してませんか?

俺は慌ててステータスを確認した。


スキル:剣豪LV1、大賢者LV1、空間収納LV-、鑑定LV MAX、聖属性魔法LV1、探索LV1、火属性魔法LV1、風属性魔法LV1、索敵LV1、ステータス補正LV1(new)、MP消費軽減LV1(new)

ギフト:全言語理解、ナビゲート


……増えてるね、スキル。


「鑑定」


ステータス補正:レベルアップ時、幸運値以外の全てのステータス値にスキル大賢者の持つ補正値×LV分を加算する。


MP消費軽減:魔法使用時のMPを20%軽減する。

またMP+100、魔法発動速度上昇10%、命中率補正10%を付与。


ねえ、どういう事?

大賢者さんは俺をどうしたいの?

鑑定で確認したスキルがとんでもなさ過ぎて、なんでこんなことになってるのか理解が及ばず正直言って怖すぎる。


「なあ、これって何が目的?」


〔何か問題がありましたでしょうか〕


「いや、問題ありすぎでしょ。俺別にチート望んだ訳でもないし、冒険者として無双したいとかも言ってないよね?なのに、なんでこんな如何にも無双してくれと言わんばかりのスキル覚えたりするんだよ。なんか裏があるって疑うし、大賢者がほんとに俺のギフトの機能かどうか信じられなくなってきたわ」


〔マスター申し訳ございません。ご質問の意図が理解不能です〕


「この先俺をどうしたいの?チートスキルをこんなに覚えて俺に何をさせたいんだよ!」


俺は度重なる大賢者の勝手なスキル習得に、俺の意思に関係なくどんどん異世界転生を決めていった神様のヤローが重なって、モヤモヤを通り越して怒りが込み上げ大賢者に詰問していた。


〔マスターは私にとって唯一無二の存在です。私が覚醒した時、既にマスターは貴重なスキルである剣豪、賢者、空間収納などを保有されており、マスター御自身が強くならなければ悪意ある誰かに利用されてしまう可能性がありました。利用されるだけに留まらず、最悪命を落としてしまう事も有り得ます。命に関わらずとも奴隷契約を結ばされ、死ぬまで貴重なスキルを酷使させられるかもしれないのです。私はマスターのギフトであり、マスターの為に存在するスキルです。マスターをサポートする事が使命ではありますが、それ以前にあらゆる悪意からマスターを護る事を最優先とし、マスターに危害を加えられないようにしたいのです〕


「……な……ちょ、大賢者……」


俺は大賢者の説明を聞いて思考停止した。

ショックを受けたのだ。

頭をガツンと殴られたような衝撃だった……

希望して転生した訳でもない、与えられたスキルが貴重な物だなんて意識もない、いきなり別の世界で生きていくことになった、それは余りにも現実離れしていて、覚悟も何も出来ていなかった……

だから自分の置かれた状況を正しく理解などしておらず、覚醒したギフトに頼れば良いのだと、ただ安穏と構えたままどこか現実世界ではない、まるで夢でも見ているような感覚でいたのだ。

まさか自分のスキルがどれも貴重で、人によっては悪意をもってそのスキルを利用しようとする。ましてや、場合によっては命さえも奪われるなど考えもしなかった。

甘かった、いや、足りてなかったのか色んな事が……

そうだよな、日本ですら他人を利用する、搾取するなんて日常的だったじゃないか。ただその悪意が命に直結しないだけで……

ここは日本じゃない。

俺はこの世界アスガルディアの事が何一つ分からない。けれど、ここが俺にとって現実世界になってしまった。なら、知らなければならない。

このアスガルディアで生きていくこと、それしか出来ないのだから……


「ふぅ……」


俺は大きく息を吐き出し、これまでのふわふわした感覚を振り払う。


「ごめん、大賢者。俺、覚悟が足りなかった。別の世界で生きるって事もきちんと分かってなかった……今までの常識なんて通じる訳もないのに、ただ何となく日本と同じだと漠然と考えてて……大賢者は俺の為に色々フォローしてくれてたのに、ほんとにごめん」


俺は素直に謝った。

自分の覚悟の無さも、大賢者を疑った事も、大賢者に頼りっぱなしだった事も全て。


〔マスターが謝る必要などございません。私の説明が不足しておりました。申し訳ございませんでした〕


「大賢者が謝る事は無いよ、ほんとごめんな。あと、これから色々教えてくれな、相棒」


相棒……するって口から出た。

相棒か、自我が有るんだから一人の人格って事よな?


「なあ、大賢者。自我=人格があるって事で良いのかな?」


俺はふと疑問に思った事を聞いてみる。


〔独立思考を可能にするため疑似人格が形成されております〕


「ふーん。そっかぁ、じゃあ名前必要じゃない?」


〔!!〕


なんか大賢者さんから驚きとも興奮ともいえる感情を感じるんだが……


「必要って事で良いよね?……じゃあ、ナビゲートから取って『ナヴィ』ってどうよ」


〔ナヴィ……ナヴィ……〕


安直過ぎたかな……


〔マスター!ありがとうございます!とても嬉しいです〕


おお、良い反応。ウキウキした感情らしきものを感じる。

大賢者、いやナヴィはことのほか喜んでくれたようだ。


〔ではマスター、放置しているゴブリンの死体から魔石を採取致しましょう〕


大賢、、ナヴィがテンション高く俺に言う。

すっかり忘れてたけど、ゴブリン倒したんだった……

俺は言われるままにナイフを使って魔石を取り出す。大抵の魔物は心臓の横に魔石があるそうだ。


「ううぅぅ、血でベットベト……手を洗いたいから川とか、あ、浄化でいいか」


俺は浄化魔法を唱えゴブリンの血で汚れた手やナイフを綺麗にした。


〔スキル 水属性魔法を習得いたしました〕


「え?急に?」


〔マスター、聖属性魔法は希少なのでゴブリンの血を洗い流すだけでしたら今後人前で使う事も考慮し水属性魔法でよろしいかと。また、魔石に浄化魔法を使うのは魔石の魔力が変質する可能性がありますのでお勧め致しません。〕


「マジか」


あっぶねー、魔石にも浄化魔法かけるとこだったわ。

浄化魔法ってそうよね、浄化するんだもんね。余り便利に使うものじゃないか、はは。


〔スキル 土属性魔法を習得いたしました〕


「ちょ、今度は何!?」


〔ゴブリンの肉は食べられず有用な素材も取れませんので、死体は穴を軽く掘ってそこで燃やしてしまうのが暗黙のルールとなってます。放置しておくと他の魔物のエサになり、魔物の繁殖を助長させる原因になります〕


おぅふ。

エサ撒きダメ絶対。


「どのくらいの深さと広さが必要?」


〔2体ですので1m程度の深さで同じく1m四方の広さでよいでしょう〕


ナヴィに指示された通りの穴をイメージして俺は「ディグ」と穴を掘る魔法を唱えた。


「おおーイメージ通りじゃん」


目の前には1m四方の穴が出来ていた。

ゴブリンをその穴へ投げ入れ「ファイアボール」を放つと、穴の中のゴブリンは勢いよく燃え上がりあっという間に炭の塊になってしまった…


「ベリー」


穴を埋める魔法を唱えゴブリンの炭の穴を埋める。

ここまでが魔物討伐のルールだそうな。

意外とやる事は多いんだね……

うん、魔法って便利な。


俺は辺りを見回し、開けた場所を探す。

まだゴブリンとの初邂逅を終えたばかりだが、何かと疲れたため(主にメンタルが)昼休憩を摂ることにしたのだ。

森の中の少しだけ木々がない場所に座って一息つく。空間収納から、朝早い時間から開いていた屋台で買った具材がたっぷりサンドされたパンを取り出し一口齧った。

うん、やっぱりここは日本じゃないんだよな……

基本的に食事は素材の味を活かした塩味のみ。それに香草で風味を付けているだけのごくシンプルなものばかりで、このパンも昨日とは違う屋台で買ったけど、同じような味だ。口に馴染んだ味はこちらでは見かけなかった。

さっきはゴブリンを魔法で倒した。

グロい死体も炭化した死体も俺がやった事で。

夢でも何でもなく、コレは歴とした事実なんだ。

俺はパンを飲み込むたび、索敵に検知される魔物を確認するたび、ここはアスガルディアで異世界なのだと思い知る。

ナヴィは強くならなければ危険が及ぶかもしれないと言っていた。

なら弱いうえに平和ボケした危機感の薄い俺のままでは、きっとすぐに誰かに騙されたり、良いように使われたりするんだろう……

うん、当面の目標はレベルアップをしつつ、冒険者ランクのランク上げだな。低ランク冒険者は扱いが悪いだろうから。商人の件はある程度強くなってから考えよう。


「なあ、ナヴィ。冒険者ランクってどうやって上げていけばいいの?」


〔ギルドの依頼を受注して成功する事でランクアップに必要なポイントを稼げばDランク迄は上げる事が可能です。Cランクからはポイントの他に実技試験が必須となり、ランクに見合った強さを提示する事で合格となります〕


なるほどね。Cランクは中堅以上の実力が必要らしいから、常駐依頼等の簡単な依頼だけでは上がれないって事かな。


ちなみにランク毎に必要なポイントは

Eランク:100

Dランク:500

Cランク:1000

Bランク:10000

Aランク:50000

Sランク:500000

だそうだ。

Cランク迄はポイントは何とかなりそうだけど、冒険者としての実力がある程度ないと合格出来ないし、Bランク以上はポイント稼ぐのも簡単にはいかないらしい。

なんせゴブリンの討伐ポイントは1体1ポイント、オークは1体3ポイント、グレイハウンドは1体5ポイントなので高ランクの魔物討伐や護衛等の長期間の依頼等をこなしていかなければポイントを稼ぐのもままならない。魔物のランクが上がればその分危険も増す為、Bランク以上の冒険者は少ないらしい。


「ナヴィ、効率的にポイント稼ぐ方法ってあったりする?」


〔ダンジョン探索をお勧めします。階層毎に違った魔物が出現しますし、素材集めにも良いので、レベルアップに必要な経験値、冒険者のランクアップ用ポイント集めが出来かつ金策も同時に出来る為、冒険者に人気です〕


「ダンジョンか、そんなのもあるのか」


〔但しダンジョンは危険ですので、ソロの場合は冒険者ランクがD以上、パーティであればEランク以上と制限されております〕


マジかー、俺の保有スキルは秘密にしといた方が良いだろうし、そもそもパーティとか無理だしな。MMORPGとかもほぼソロだったのよ。チームにすら入ってなかったボッチ勢だからね。


「じゃあまずはこの辺の魔物討伐でDランク、その後ダンジョン探索に切り替えてBランク目指す事にする」


そう決意して、立ち上がると魔物討伐を再開した。

索敵に引っかかった魔物を手当り次第狩っていく。魔法での遠距離攻撃はもはや作業と化していた。

LVも3に上がり、そろそろ剣豪スキルを試してみようと索敵に引っかかったゴブリンに気付かれないよう一気に距離を詰めロングソードを上段に構えた瞬間、俺は綺麗に肩口から斜めに斬り裂いていた。

ゴブリンは背中からパックリ斜めに分かれ絶命した。


「わぁ……剣豪スキルのおかげだよね、袈裟斬りって言うの?ほんとに自然に動けたわ……」


〔剣豪スキルは固有の攻撃技を覚える他に基礎となる技をLV1から使え、スキル保有者が剣の初心者であっても達人のように動けるようになるスキルです〕


「そ、そうか」


大賢者の全属性魔法習得可能でなおかつ魔法発動時の補正機能もえげつないと思ってたけど、剣豪スキルもやっぱりえげつないわ……

剣なんて握ったことすらなかったのに、まるでずっと研鑽を積んできたかのような動きなんだものな。


〔マスターこの調子で剣での攻撃に慣れていきましょう〕


「そうだな」


その後もゴブリンやオーク、グレイハウンドなどの魔物を狩ってレベルアップしながら実戦経験を積んでいき、LVが5に上がった所で街へと戻った。

冒険者ギルドで討伐の納品と魔石や素材を売り払う。オークやグレイハウンドは解体もお願いした。自分で解体する時間が勿体なかったからだけど、マジックバック小には、ちと量が多いので容量は中サイズと誤魔化しておく。

今日は銀貨34枚に冒険者ポイントは40ポイントも稼ぐ事が出来た。この調子なら後2日も有ればEランクに上がれそうだ。

俺は宿屋に戻りステータスを確認する。


名前:ゼン・コウダ

年齢:16

LV:5(+3)

種族:人族

HP:118/137(+91)

MP:56/223(+185 スキル MP消費軽減の補正値含む)

攻撃力:121(+99)

防御力:111(+95)

魔力:109(+88)

魔防:93(+79)

俊敏:99(+84)

幸運:37

スキル:剣豪LV1、大賢者LV1、空間収納LV-、鑑定LV MAX、聖属性魔法LV1、探索LV1、火属性魔法LV1、風属性魔法LV1、索敵LV1、ステータス補正LV1、MP消費軽減LV1、水属性魔法LV1(new)、土属性魔法LV1(new)

ギフト:全言語理解、ナビゲート

装備:

ロングソード(効果:攻撃力+15)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

初心者用ブーツ(効果:防御力+6)


「LV5なのに凄いステータス値だな……」


ナヴィが言うには今の俺はCランク相当の実力だそうでステータス値はLV20〜25くらいの数値になるらしい。まあここまで綺麗にステータス値が上がる事も無いので実戦経験さえ積めばCランク冒険者にもそうそう負けない強さなんだと。

LV5なのにね。


「あ、そうだ、気になってた事があったんだ。水属性魔法にヒールがあるんだけど、回復魔法って聖属性じゃないの?あと、魔法の属性ってこれで全部?」


水属性魔法を覚えた時に使えるようになってたヒール。属性が違う気がして聞きたかったんだよ。


〔ヒール等の回復魔法は水属性で覚える事が可能です。但し覚えられる魔法は回復魔法のみであり、毒や麻痺、混乱等の状態異常の回復や、ステータス低下のデバフ解除等は聖属性魔法となります。聖属性はホーリーアローやターンアンデットのようにアンデット等の不浄な者を消滅させる効果を持った魔法を多く覚える事で希少性が高いのですが、状態異常やデバフの解除魔法を覚えられる属性である事からより希少性が高くなっているのです〕


えぇ……聖属性魔法ってそんな希少性高いの?


〔魔法は、火、水、土、風、聖の他に無属性を含めた六属性で成り立っており、無属性魔法では身体強化や結界系魔法、次元系の魔法を覚える事が可能です。マスターのMPも増えたのでそろそろ習得しても身体への負担も無いでしょう〕


「…無属性魔法って覚えると身体に負担が掛かるものなの?」


ナヴィの説明に俺は恐る恐る聞いてみる。


〔いえ、一気に全属性魔法を覚えると魔力酔いを起こすのと、無属性魔法はMP消費が多い魔法がほとんどでしたので、マスターのMPが増えるまで習得を控えていただけです〕


ナヴィ曰く、ファイアボールやウィンドカッターのMP消費は3(MP消費軽減スキルのお陰で今は2だ)、それに比べて身体強化のブースト、結界のシールドの消費MPはそれぞれ6と8も必要な為、ある程度MPに余裕ができないと覚えた所で使えなかったので、優先度を下げていたんだそうだ。

ところでさ、無属性魔法ってどうなん?身体強化はよく聞くけど、結界とか次元系とかって普通に使う魔法?


「なあナヴィさんや、無属性魔法ってもしかして……」


〔聖属性魔法以上に希少です〕


ああ!!やっぱり!!


ガクッと項垂れた俺にナヴィが追い討ちを掛ける。


〔賢者スキルは全属性魔法を習得可能なスキルでしたので、大賢者へのスキルアップに関係なくいつかは習得する事になったかと〕


「くっ……」


〔スキル 無属性魔法を習得いたしました〕


ああ!容赦ねえな!


ナヴィは俺への気遣いもなく早速無属性魔法を習得してしまった……

これで全属性魔法習得。

まさに賢者、いや大賢者だよ……

まあどのみち神様のクソ野郎のせいで、俺のチート化は確定してるんだ。今はとにかく強くなって魔法も色々使いこなせるようにならないと。

特に無属性魔法の次元系魔法って、転移とか覚えられるみたいだし、異次元空間も作れたり、攻撃魔法も覚えるらしいから魔法のLV上げて使用可能な魔法を増やしていこう。

単純に面白そうってのもあるけど、覚えて損はないからな。

まずは2日でEランク、さらに10日~12日程度を目安にDランクを目指そう。

そこから俺は魔物を狩って狩って狩りまくり、2週間ほどで無事にDランクに上がることができた。

受付嬢さんからは「新人冒険者としては異例の速さでのランク昇進です」と言われ、一瞬ギルド内がザワっとなった。俺は返事もそこそこにさっさとギルドを出て明日からのダンジョン探索の準備をするため市場へと足を運ぶ。ちょっと感じ悪かったかな、俺。

目立ちたくなかったってものあったんだけど、連日結構な数の討伐報告に討伐した素材の引き取りもお願いしてたこともあって、チラホラとこちらを伺う視線が居心地悪かったんだよ……受付嬢さんの余計な一言でちょっと注目されてしまっただろうか…何も起こらないと良いのだが…

それでも目標期間の2週間でランクも上がり、ダンジョン探索前にレベルも17になったのだ。さっきのギルドのザワつきなど正直どうでも良くなる程には気分が高揚していた。金貨も4枚以上稼げたし、軍資金は潤沢である。

先ずは食料確保だ。干し肉等の携帯食料では味気ないし、量的にも少ない。せっかく空間収納があるのだから色々買いこんでダンジョン内でも美味しくご飯を食べたいのだ。

大事よ、食事。

俺は屋台でお気に入りのパンやら串焼きやらスープやらとアレこれ買いこんでいく。果物も少し高いが炭水化物や肉ばかりでは飽きるだろうから、そのまま齧れそうな物を幾つか買った。

他に日持ちしそうな野菜や干し肉、黒パンと呼ばれるカッチカチのパンやチーズも一緒に購入した。

これらを使って簡単な料理を作るためだ。

ダンジョン内には魔物が入ってこれないセーフティエリアが数カ所あって、長期間探索する場合、大抵の冒険者はそこを拠点にしたり寝泊まりしたりする。俺もそういった場所で寝泊まりするつもりなので、他の冒険者の目を誤魔化すためにダンジョン探索に必要な物資の調達は必須なのだ。

その為、塩や鍋、木製の食器類に炭等、料理に必要な物も買いこんでいく。

他にはテントだろうか。地べたにそのまま寝るのはちょっとね……

俺は職人通りにいき、テントや毛布数枚、大きめの麻袋も数枚一緒に購入する。

あとは装備類の新調だな。

この2週間でロングソードも解体用のナイフもボロボロだ。皮の胸当てはそこまででもないが、初心者用ブーツはだいぶ痛んでいる。

軍資金はまだまだあるし、ちょっといい物を買う予定だ。

俺は武器屋に入り吟味する。

ロングソードは所謂鉄剣だった。今回は最低でも鋼の剣は欲しい。


「すいません、長剣はここにある物で全部ですか?」


一通りみたがピンとくるものがなく、俺は店主に声を掛けた。


「おう長剣が欲しいんだな。なんだ、ここに出てる奴はお気に召さねえってか」


「あ、いや。ちょっとピンとくるものがなくて。少し高くても良いので他にもあれば見せて頂けないでしょうか」


「ふーん。ちょっと待ってろ」


そう言って店主は店の奥へ入っていく。しばらくすると腕に数本長剣を抱えて戻ってきた。


「今うちにあるもので性能の良い長剣はこのくらいだな。これはバスタードソードで鋼を使ってるからちょっと重いんだが、切れ味は良い。こっちはミスリルソードで軽くて切れ味も耐久性にも優れた業物だが、まあ値もそこそこする。で、これが魔法が付与された魔剣だ。ミスリルと魔鉱で作ってるから当然値が張る。それぞれ金額は銀貨55枚、金貨2枚、金貨10枚だ」


「金貨10枚!?魔剣って高いなっ!」


俺はちょっと魔剣に惹かれてたが金額の高さにビックリして思わず叫んでいた。


「ま、兄ちゃんには無理だろうな」


店主がニヤニヤして魔剣を撫でる。悔しいが確かに俺では到底買えないわ……


(ナヴィバスタードソードとミスリルソードだとどっちが良いと思う?)


俺としては耐久性も高いミスリルソードが良いのだが、剣の善し悪しなんて分からんので、ナヴィのお勧めを聞いてみた。


〔ミスリルソードは耐久性にも優れておりますが、魔力との相性も良いですので、マスターの魔力を剣に纏わせれば魔剣のように使用する事は可能です。ただ魔鉱が含まれて無い分使用する魔力が多くなりますが、今のマスターのMP量なら全く問題ございません〕


(え、そうなの?じゃあ、ミスリルソード一択じゃん)


〔はい、それでよろしいかと〕


「じゃあ、ミスリルソードください!」


俺はミスリルソードを購入した。金貨2枚は痛手だが、そんなものまた稼げば良いのだ。

早速ミスリルソードを腰に佩き、ボロボロになったロングソードを買い取って貰う。鉄剣なので鋳潰せば材料になるのだ。エコだね。

俺は武器屋の店主に礼を言い、ブーツを購入するため防具屋に向かった。既に稼いだお金はなくなったが、ブーツだけは買い換えないとなので貯金から持ち出しになる。

金貨9枚と銀貨数枚。手を付けたくなかったが仕方ない。防具屋で探索に向いた頑丈な割に柔らかいブーツを銀貨20枚で購入し、ついでにローブも銀貨60枚で購入する。高いが耐熱耐寒仕様なので仕方ない。これでダンジョン探索に必要な物は全て整った。あとは明日に向けて身体を休めるだけだな!

俺は宿屋に戻り夕食を摂ったあと、浄化魔法で身体を清める。ゆっくり休んみたいんだが、買い物中ずっと纏わり付いていた嫌な視線を思うと、あまり気を抜く事も出来なそうだ……

ふぅ……


(なあ、ナヴィさんや。来ると思う?)


〔宿屋に侵入して迄襲って来ることはないでしょう。明日の朝、宿屋から出た所で囲まれると思慮します〕


そっかぁ思慮しちゃうかぁ……やっぱ何かしら難癖つけられるんだ……

面倒くさいったらないよね。

とりあえず今日は何も起こらないそうだからステータス確認したら寝よう。


「ステータス・オープン」


名前:ゼン・コウダ

年齢:16

LV:17(+12)

種族:人族

HP:754/909(+772)

MP:588/1285(+1062 スキル MP消費軽減の補正値300含む)

攻撃力:881(+775)

防御力:853(+760)

魔力:883(+774)

魔防:843(+750)

俊敏:862(+763)

幸運:37

スキル:剣豪LV3、大賢者LV3、空間収納LV-、鑑定LV MAX、聖属性魔法LV2、探索LV2、火属性魔法LV2、風属性魔法LV3、索敵LV3、ステータス補正LV3、MP消費軽減LV3、水属性魔法LV2、土属性魔法LV2、無属性魔法LV2

ギフト:全言語理解、ナビゲート

装備:

ミスリルソード(効果:攻撃力+40)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

探索用ブーツ(効果:防御力+20)


うん、相変わらず凄い伸びだよね。MPなんて1000超えちゃったよ。ステータス値のみなら既にAランク相当だからハッキリ言ってその辺の冒険者数人相手でも余裕で勝てるだろう。使用できる魔法も増えたし、ダンジョンのソロ探索も問題ないとナヴィのお墨付きを貰ったし、後は金策だな!


〔スキル練度を上げる必要がありますので、金策は二の次ですよ〕


なん、、だ、と……


(ナヴィさん、俺の心読んだ?)


〔いえ、読んでません〕


……

……ナヴィさん、嘘ついたね?


〔ついてません〕


(ほらやっぱり!俺今質問してないぞ!)


〔……マスターからの思念はダダ漏れですので、読む必要もありません〕


!!!

そんな!?俺の思念ダダ漏れなのかよ!!

どうする!?俺のプライベート!!私的感情の漏洩をどうすれば!?


〔マスター……思念の共有を阻もうとするのはマスターのサポートに支障をきたす恐れがありますので、諦めてください〕


……

多感な16歳なのに……


〔精神年齢は45歳ではなかったでしょうか?〕


……

そうだけど……

全部の考えというか思ってる事とか知られるの恥ずかしいんだよ!


…そもそもナヴィはスキルで俺が保有してるんだから俺の一部なんだよな……思念思考が伝わらない方がおかしかったよね。まあいいよ。そうそう変な事考えないし、考えててもスルーしろな。


〔善処します〕


どっと疲れた…

とにかく明日の為に寝る。

おやすみ。


〔おやすみなさい、マスター〕



おはようございます。

朝です。

朝シャンならぬ朝クリーン(浄化)をして、スッキリサッパリ目覚めも良くいつも通り軽めの朝食を済ませて宿屋を出たゼン・コウダです。

ええ、はい、今絶賛絡まれておりまする。


「おい、何とか言えや、ああん」


「何とかと言われても」


むさ苦しい4人の冒険者が前後左右、俺を囲んでいます。

昨夜ナヴィが言ってた通り朝から絡まれてて草。


「ルーキー、凄い勢いで冒険者ランク上げたのお前だろ?いつも大量の討伐報告してるんだって?ならその大量の素材やらが入るマジックバック持ってるよな、容量でかいんだろ?」


男はニヤニヤしながら俺の腰に付けているマジックバックを舐めるように見た。


「そうだとして、それがあんた達になんか関係あるのか?」


「ルーキー、舐めた口聞いてんじゃねえぞ。新人にはご大層な物は不釣り合いだろ。だから俺たちが貰ってやるっつってんだよ」


「カツアゲ?」


「昨日お前ぇが色々買ってたのも知ってんだ。それも俺らが使ってやるから渡しな」


左側の男が俺のミスリルソードを見て言った。


「欲しけりゃ買えばいいだろ。泥棒じゃないんだから人から盗るなよ、ああ、無理やり貰おうとしてるんだから乞食の方か」


「てめぇ!ふざけてんのかっ!!」


俺の言葉に一瞬で男達の顔に朱がさした。


「はっ!たかだかDランクになったばかりのど新人が!ちょっと先輩冒険者を立てるってこと覚えて貰おうか!」


そう言い放つと目の前の男は拳を振り上げ向かって来た。


(遅っそ)


思わず心の中で言葉が漏れる。心の中で良かったわ、口に出してたらちょっと可哀想だもんな……

俺はスっと横に躱しついでに腹に軽くワンパン入れておく。


「グッ!!」


くの字になった男はそのまま膝から崩れ落ち


「コノヤロー!」


左側にいた男が剣を抜いて斬りかかってきたのでそれも躱して剣を持っている方の手首を捻って投げ飛ばし、俺の背後を取ろうとしていた右側の男の腹に蹴りを一つくれてやる。蹴られた男は綺麗に振っとんで行った。

俺は後ろにいる残った男に向き直り、


「どうする?殴られる?蹴られる?それとも転がってるお仲間担いで消え去る?」


と、聞いてみる。


「きっ、消え去ります!!」


後ろにいた男は俺の言葉に慌てて仲間を立ち上がらせ、一人で歩けない者には肩を貸し足早に去って行く。もちろん男達は悔しそうに立ち去りながらもクソっ!とか覚えてろ!とか悪態をつくのは忘れない…言わずにおこうと思ってたけど、言動が雑魚いんだよね…


なあ、ナヴィ。今の奴らはどのくらいのレベルか分かる?


〔マスター……そういう時の為の鑑定スキルなのですよ〕


あ……

そうか……

人相手に使わないから……うっかりしてたわ。


〔今後は習慣付けるとよいでしょう。私の方で鑑定した結果をお伝え致します〕


ナヴィが鑑定してくれてるなら俺鑑定しなくて良くない?


〔マスター、御自身で鑑定する方が行動時の選択肢が増えますし、何かあった時でもよりスムーズに判断可能となります為、労力を惜しまず習慣付ける事をお勧め致します〕


はい、ごめんなさい。仰る通りです。

俺は素直に謝った。


〔彼らの冒険者ランクは皆一様にCランクではありましたが、LVは18~26、リーダーと思われる男が一番レベルは高いものの、マスターがLV5だった時のステータス値より低かったので、冒険者歴が長いだけの底辺の冒険者と推測されます〕


言い方……

まあでも、あれでCランクって確かに微妙だよね。

何一つ怖いとかヤバいとか警戒する必要性感じなかったわ。荒事苦手な俺なのに。

ナヴィの言う通り今後はちゃんと鑑定するようにしよ。相手のスキルとか確認しておいた方がいざ戦うってなった時に有利だしね。

さて、これで難癖イベントは終わっただろうし、ダンジョンに行くか。

俺はさっさと街門を抜け、街道を外れると身体強化の魔法と新たに覚えたスキル隠密を使ってダンジョンまで一気に走り抜けた。途中冒険者パーティを何組か街道で見かけたり、索敵範囲に魔物もいたりしたが無視だ無視。ダンジョン迄は徒歩で1時間近く掛かる距離だが、身体強化の魔法のおかげで10分も掛からず辿り着いた。

ダンジョン入り口の手前100m辺りで誰も居ない事を確認してから街道に出ると、隠密スキルを解除する。これで身体強化でぶっ飛ばして来たことは誰にもバレないだろう。

ダンジョンの入り口には冒険者ギルドの職員が立っておりダンジョン入場を管理している。管理小屋には交代要員も居るようで24時間体制で出入りをチェックするそうだ。冒険者のダンジョン探索予定日数を管理し、報告日数から2日以上経過した場合は冒険者の救出依頼を出す為だ。所謂冒険者救済措置ってやつだな。Eランクのパーティや駆け出し冒険者達は、自分達の力量を見誤りがちでダンジョン脱出のタイミングを逃し危機に陥りやすいらしい。もちろん救出依頼が不要な場合は予め不要である事を報告しておけば予定日数を過ぎても自己責任となる為救出依頼が出される事は無い。ベテラン冒険者パーティ等はダンジョン探索の予定日数は時と場合で変える事もよくある為、救出依頼は不要とする事が多いそうだ。下手に救出依頼で救出されたら自分の財産の半分を救出報酬として支払わなければならず、支払う報酬がない場合は冒険者ギルドの規定額をギルドに借金という形で肩代わりして貰う事になる。どうやっても支払い義務が発生するのだ。命には変えられないにしてもかなりの痛手だし、ギルドに借金なんかしたら冒険者家業を続けられないような傷を負っていた場合は借金奴隷に落ちる事もあるらしい。

その為駆け出し冒険者やCランクでも冒険者によってはダンジョン探索は予定日数以内に済ませる事が当たり前になっていた。

俺はソロだし、ランクもDではあるがダンジョン探索の予定日数等あまり考慮してなかったし、なんならしばらくはダンジョンに潜っているつもりだったので救出依頼は不要とする事にした。

俺はダンジョンの受付をして貰うため冒険者ギルドの職員に声をかける。


「すみません、ダンジョン探索に来たのですが…」


「なんだ?お前一人か?」


「はい、俺ソロなんで」


「ギルドカードを見せろ」


職員さんに言われる通りギルドカードを見せる。


「Dランクか。ダンジョン探索の予定日数は?」


「特に決めてないです」


「それだと、救出依頼を出す目処が判断出来ないぞ。Dランクソロなら普通は1~2日だな」


「あー、その救出依頼ですが不要でお願いします」


「は?Dランクのくせに随分と不遜な事を言う奴だな。ダンジョンを舐めるな、死にたいのか!」


「いえ、舐めてる訳では無いです。ただ自己責任と言う事で。実際救出されても報酬支払えないですし」


嘘だけど。

払えるけど。

俺はダンジョン探索に余計な縛りを付けたくない。職員さんがおこだけど関係ないよね。


「装備は軽装だが、マジックバック持ちか?」


「ああ、そうですね。必要な物は全て持ってます」


「うーん…その歳でマジックバック持ちか。分かった、救出依頼不要で予定日数なしで良いんだな」


「はい、ありがとうございます!」


ギルドの職員さんは渋々ながら承諾してくれ、ダンジョンの入場手続きをしてくれた。

俺はお礼を言って見た目洞窟のようなダンジョンの入り口から中に入る。真っ暗かと思ったけど、うっすらと辺りが見えるくらいには光がある。どうやらヒカリゴケという苔がダンジョンの洞窟に生えておりその苔がうっすらと発光している為、灯りが無くても見えるようだ。

いよいよダンジョン探索開始だ。当初はダンジョンに来るなんて全く考えてなかったのに、今はちょっとワクワクしてる。強くなったからってのもあるけど、少しはこの世界に慣れたのだろうか…


ダンジョン1階層。しばらく歩いて遭遇した魔物はゴブリン3体。サクッと倒し魔石を取る。ダンジョン内の魔物は倒すとダンジョンに吸収されるので、埋める必要はないのが嬉しい。ただ解体しないまま持ち出す事は出来ず、手早く解体しないとダンジョンに吸収されるので、倒した時に落とす魔石のみになる残念な結果になるらしい。偶にアイテムもドロップするらしいが、目当ての素材は時間との勝負なのである。まあ、ゴブリンは解体しないから気にする必要はないんだけどね。

俺はサクサク魔物…と言ってもゴブリンだが狩って行き2階層への下り階段を見つけた。このダンジョンは地下50階層とも言われており、未だ踏破されていないのだとか。ギフト《ナビゲート》のおかげでこの世界に来てすぐMAP機能が追加されたんだけど、ダンジョン内でもMAP機能が使えるようで、迷う事もなく最短距離で進む事が出来る。これぞまさしくチートだと思います、はい。

俺はMAPを確認しながらどんどん先へと進んでいく。2階層は数は増えるものの、出てくる魔物はやはりゴブリンで3〜5体が連携しながら襲ってくるかんじだ。3階層になるとゴブリンアーチャーが出るようになり4階層はゴブリンメイジも出てくるようになった。どちらもサクサク狩れるので、俺にとっては何も変わらないのだが…

5階層からはグレイハウンドやオーク、たまにオーガも出没するようになったが特に苦戦もしなかった。どんどんと階層を下りゴブリンジェネラル、オークキングなどの上位個体とも遭遇するが、やはりサクッと狩って先に進んだ。

他の冒険者パーティも見かけたが、慣れているのだろう、上手く連携しながら戦っており楽しそうに軽口を叩きながら戦っている様は少しだけ羨ましい気もした。少しだけね。

そして俺は10階層に辿り着いた。階層ボスが君臨するフロアだ。大抵のダンジョンは10階層毎にボス部屋があり、ボスを倒して進んだ先の階層はガラリと雰囲気が変わったりするらしい。

俺はボス部屋へ突入する前に身体強化の魔法をかけた。ナヴィ曰くボスはオーガキングだろうとの事だ。今の俺なら問題ないらしいが、初のボス戦なのだ、しっかり準備してから臨みたい。ヘタレじゃないぞ。慎重なだけなんだ。


「ふぅ…。よし、行くか!」


俺は気合いを入れてボス部屋の扉を開け中に入る。そこにはオーガキングが1体、部屋の奥で仁王立ちしていた。


「グギギギィーッ!」


オーガキングが叫ぶ。

殺る気満々の様子だな…

俺は剣を構えたままオーガキングに向かって走る。身体強化した俺の踏み込みは一瞬で距離を詰めオーガキングを下段から切り上げた。


ザウっ!という音と共にオーガキングの身体は斜めに分断される。


「……あれ?」


まずはジャブのつもりだった。軽く下段から切り上げて後ろに下がってオーガキングの様子を伺うつもりで……


ドサッ


オーガキングは床に倒れ消えていく。

呆然と見ていたらオーガキングの死体が消えた跡にはドロップアイテムが現れた。


「なんで?」


〔マスターのステータス値で身体強化魔法まで掛けたのですから当然の結果です〕


「あ、え?ボスだよ?オーガキングだよ??」


〔マスター、オーガキングは鑑定されましたか?〕


「え、あ、そういや鑑定してないわ!」


〔オーガキングのステータス値は攻撃力が149、防御力が125でマスターの1/4以下でした。身体強化した状態での攻撃に耐えられる筈もございません。鑑定は習慣付けるように申し上げた筈ですが……〕


ご、ごめんなさい。


どうやら俺は初のボス戦にテンパっていたようだ……

ナヴィに普段から鑑定するように言われてたのに、初めてのボス戦で一撃入れる事しか頭になかった。やっぱり戦う事に向いてないんだよな…

オーガキングが150前後のステータス値だったなら、明らかに過剰攻撃だよ。


〔次回から鑑定して戦略を立てるように致しましょう〕


はい、そうします…


俺は気を取り直してドロップアイテムを確認する事にした。

ドロップアイテムは2つ。

ピアスと大斧か。どれ早速鑑定してみよう。


疾風のピアス:装備すると素早さと回避率を上げてくれる。

効果:俊敏+20、回避率10%


俊敏を上げてくれる装備はありがたい。俊敏は少しでも高くしたかったし、回避率も上げてくれるってのも何気に嬉しいよな。でもピアスかー。俺あっちの世界でもピアスなんてした事ないんだよな…


なあ、ナヴィ。こっちでは男もピアスって付けたりするの?


〔ピアスは身体強化アクセサリーとしてはあまり一般的ではありません。ダンジョンでしか手に入らない事と効果も低いからですが、今回のアイテムは+20の俊敏効果がありますのでレアと言って良いでしょう。装備しますか?〕


レアかー、レアって言葉には弱いんだよねぇ。でも耳に穴開けるんだよな…痛いよな……


〔一瞬ですから痛みは少ないと思います〕


そうかな?

うーん…ちょっと保留。

もうひとつは大斧か。


オーガキングの大斧:装備すると攻撃力を大幅に上げるが回避率がやや下がる大斧。耐久性に優れ命中補正がある為、攻撃が当たりやすい。

効果:攻撃力+30、命中補正10%、回避率-5%


攻撃力はそこそこだけど俺は使わないし、回避率下がるのもちょっとな。命中補正があるからそれなりの金額になるかもしれんし、これは売りだな。

俺はピアスと大斧を空間収納にしまい先に進むことにした。ボス部屋は入ってきた入り口の反対側にも出入口があり、その先は小部屋に繋がっている。

真ん中に腰くらいの高さの台があり、その上に宝箱、右側に地上への帰還用魔法陣と、左側に11階層へ下る階段が設置されていた。宝箱にはこの小部屋へ転移出来る指輪が入っており、指輪があれば何度でも戻ってくる事が可能だ。ボス戦で疲弊した場合は右側の魔法陣から地上に戻ることが出来るようになっている。大抵の冒険者はボス戦後、指輪を取得すると地上に帰還し、後日11階層から再スタートするそうだ。

俺は戻る必要も無いのでそのまま11階層へと進むことにした。もちろん指輪はゲット済みである。

11階層への階段を下りフロアに足を踏み入れると、ガラリと風景が変わり草原が広がっていた。


「うわー、一面の草原だ……しかも空があるよ。まるで最初に目が覚めたあの草原みたいだな。湖がないのが惜しいわ」


俺は10階層迄の洞窟ダンジョンから青空の草原ダンジョンに変わった11階層に、思わず感嘆の声を出した。

ナヴィが言うには11階層から20階層迄は草原のフロア、深い森のフロア、湿原フロア、荒野フロアがあり15階層に、セーフティエリアもある事とフロア毎で出現する魔物も違う為、冒険者に人気のある階層帯なのだそう。

索敵スキルにも魔物以外に冒険者パーティがチラホラ引っかかっているので、確かに人気があるのだろう。

ここではグラスランドブルという牛型の魔物とアルクシープと呼ばれる羊型の魔物が主流で、肉や毛皮、羊の魔物の毛が高値で取引される為、冒険者の多くはこの2種類の魔物をメインに狩りをしているそうだ。

俺もさっそく索敵に引っかかったグラスランドブルを狩りに行く。見つけたグラスランドブルは牛より全然大きいサイズで、角も立派だった。


「鑑定」


名前:-

種族:グラスランドブル

LV:31

HP:201

MP:48

攻撃力:89

防御力:67

魔力:63

魔防:44

俊敏:45

スキル:突進LV4、土属性魔法LV2


へえ、突進は分かるけど、土属性魔法も使えるのか。LV2だからストーンバレットとかかな。


グラスランドブルは俺を視認すると「ブモォォーー!」と嘶きこっちに向かって突進してきた。魔物って大概好戦的だよな……

肉が美味しいらしいので俺はウィンドカッターでサクッと首チョンパして土属性魔法を応用してクレーンのように吊り下げてから手早く解体する。吊り下げは血抜きも出来るし解体もし易いので一石二鳥の解体方法だ。解体し終わった魔石や肉等を空間収納にしまい次の獲物を狩りに行く。

ある程度狩ったら次の層へ降りるつもりなのであまり長居はしない予定である。

俺はサクサク狩って解体してを繰り返し12階層へと向かった。


冒険者パーティが11階層より多いな。


索敵で検知された冒険者パーティが多い為魔物の数も少ないようだ。それだけ狩られているんだろう。

俺は魔物の取り合い等の面倒事に巻き込まれるのはごめんなので、さっさと次の階層へ降りる事にした。

13階層は森林フロアで、鹿型魔物のビックホーンディアや熊型魔物のジャイアントグリズリー、猪型魔物のクレイジーボア、植物型魔物ではトレントやマッドマッシュ等が生息している。こちらも素材として高値で取引されるが危険度も高い為、冒険者パーティはCランクでも中堅以上の実力が必要だ。そのため索敵でもそれほど多くの冒険者パーティは検知されなかった。とりあえず索敵で引っかかった魔物を手あたり次第狩って行く。正直レベルも大して上がらないし、素材剥ぎの作業である。

それでもこの13階層で1レベルは上がり今の俺はようやっとLV22になった。オーガキングまでの戦いでLVが3上がり11階層で1レベル、13階層で1レベルが上がったのだ。俺は14階層もサクッと狩って15階層のセーフティエリアを目指した。

ちょっと休憩したいし、腹も減ったしね。

15階層は洞窟のような内部に広い空間が広がっており、高さもあるため閉塞感はあまり感じられない。周りを見た感じ好き好きに場所を取ってテントを張り、煮炊きしながら身体を休めているようだった。

俺も空いているスペースのあまり人が居ない場所を選んでテントを張ると、さっさと中に入って休むことにした。ブーツは脱いでテントの中の端っこに置く。盗まれるかもしれないしね。

空間収納から毛布を数枚取り出し、座りながら身体とブーツを浄化魔法で綺麗にしたらそのまま横になって一息吐いた。

割りとぶっ続けで15階層まで進んで来たしね。昼飯すら食ってねーわ。

とりあえず飯食いながらステータス確認するかな。

俺は毛布の上に座り直し、空間収納からサンドウィッチとスープを取り出して食べ始め、


「ステータス・オープン」


と、現在のステータスを確認する。


名前:ゼン・コウダ

年齢:16

LV:22(+5)

種族:人族

HP:1256/1445(+536)

MP:1840/2223(+938 スキル MP消費軽減の補正値400含む)

攻撃力:1394(+553)

防御力:1368(+547)

魔力:1420(+537)

魔防:1362(+519)

俊敏:1378(+516)

幸運:37

スキル:剣豪LV5(+2)、大賢者LV4(+1)、空間収納LV-、鑑定LV MAX、聖属性魔法LV2、探索LV2、火属性魔法LV3(+1)、風属性魔法LV4(+1)、索敵LV4(+1)、ステータス補正LV4(+1)、MP消費軽減LV4(+1)、水属性魔法LV3(+1)、土属性魔法LV3(+1)、無属性魔法LV3(+1)、隠密LV1(new)

ギフト:全言語理解、ナビゲート

装備:

ミスリルソード(効果:攻撃力+40)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

探索用ブーツ(効果:防御力+20)


ふむ、ステータス値も相変わらずの爆上がりだが、スキルLVも軒並み上がったな。

そういやピアスどうすっかな…俊敏値1378ってすげー速いよね。でも、俊敏値って攻撃回避にも直結するし…ピアス……ピアスなぁ……


なあ、ナヴィ、ピアスの穴ってどうやって開ければ良いかな?

とりあえず聞いてから考えよう……


〔無属性魔法を応用してピアスホール分だけ耳に穴を開けるのが痛みも少なく出血も少ないと思われます〕


え、無属性魔法でそんな事出来るの?


〔可能です〕


……

痛くない?


〔痛みはかなり少ないでしょう〕


男がピアスしてても変じゃない?


〔特段目立つ事もありません〕


ピアスホール、ナヴィが開けれる?


〔魔法の発動を私が行うという事でしょうか?〕


うん、自分じゃちょっと勇気がね……


〔……可能です〕


今呆れたよね?


〔いいえ〕


……絶対呆れたくせに……

だって怖いじゃんか。耳に穴開けるんだよ!?

でも、痛み少ないらしいし、ナヴィが穴開けるの出来るなら、俊敏も回避率も上がるピアスは装備しときたいし……

よし、ナヴィ!お願いします!!

俺は意を決してナヴィにピアスホールを開けてもらうようお願いした。


〔……無属性魔法を行使します〕


ナヴィの言葉と共に一瞬で耳に穴が開いた。

痛みは……ない……


〔マスター、ピアスを装備して浄化魔法で耳の穴を浄化してください。それで炎症も起こらないでしょう〕


「お、おお。ありがとうな」


俺は早速ピアスを付けて浄化魔法を掛けた。

自分の見た目が分からないのでピアスがどうなっているのかもよく分からんが。

あ、そういやこの世界に鏡ってあるのだろうか?


〔ございますよ。希少ですので貴族や富裕層にしか流通しておりませんが〕


あるんだ……


俺、こっちに来て3週間くらい経つけど自分の姿まともに見てないんだよね。特に顔……

見る方法無いのかね?


〔無属性魔法で鏡のようなものは作成可能です〕


え、マジで?


〔マジです〕


無属性魔法って優秀過ぎね?


俺はナヴィに教えて貰った通り無属性魔法で鏡のような、姿を反射出来るものを作ってみた。

ちゃんと顔が写っているようだ。

俺は恐る恐るその鏡のようなものを覗き込む。

そこには、青みがかったグレーの瞳に鼻筋の通った高い鼻、薄い唇は一見酷薄そうな印象だが唇の左下にある小さなホクロがその印象を和らげ、目に掛かるか掛からないかくらいの位置で藍を含んだ銀色の髪がサラリと揺れていた。ひと目見ただけで美少年と分かる顔立ちは、気品さえ滲み出している。


え……


俺は自分のほっぺたをムニムニ摘む。

すると鏡に写った顔も同じようにムニムニ摘まれており、写った顔が自分なのだと改めて認識した。


なあ、ナヴィさんや。俺の顔ってもしかして目立つ?


〔整った顔立ちですので好事家には注意が必要ですが、冒険者としての地位を固めれば問題ございません。また、冒険者として活動する分には容姿の善し悪しはさほど影響しませんが、場合によっては多少なり他の冒険者から嫉妬による妨害等があるかもしれません〕


場合によるってなんだよ……

って言うか、好事家ってなに?何に注意するんだよ!!

まあでも目立つ訳じゃないならいっか。俺こんな美少年に転生してるなんて思ってもなかったわ…

もう一度鏡で顔を確認する。ブルーグレーとでも言うのか青にも灰色にも見える瞳が印象的だった。耳にはちゃんとピアスが付いており、半透明の青の石が耳たぶにキラリと光り、ルーンが刻まれた銀の細いプラント部分がシャラリと揺れる。悪目立ちするかと思ったデザインだったが、自身の顔によく似合っていた。

慣れるまで時間がかかりそうだ……

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