第9話

寝ると決意したら一瞬で寝落ちたようで十分な睡眠時間が取れたようだ。寝覚めも良く幾分スッキリしている。服を着替え、浄化クリーンで身綺麗にしたあと軽くストレッチで身体を解す。今日はやる事がいっぱいだ。

異空間を出るとまた全員揃っていた。


「おはよう」


「「「「おはようございます」」」」


「朝食はまだ?」


「「「「はい」」」」


良い返事だな。


「じゃあ食べに行こうか」


俺の後に続く彼らには悪いけど、なんかカルガモの親子みたいな気分だわ。ちょっと可愛い。


「さて、朝食食べながら聞いてね」


今日は周りに人も居ない、時間が早かったのかな。話をするのに丁度良いな。

俺は昨日考えてた予定を話す。

レビーが読み書きの練習や勉強にちょっと不満そうだったけど、概ね了承は貰えたようだ。


「みんなで協力し合いながら進めてって欲しい。あと、パン作り以外は異空間でやってね。みんなが自由に入れるようにしたからさ」


「承知しました。材料等は共有収納に入れておけばよいですね?」


「うん、それでお願い」


「あの、マヨネーズの作り方を…」


「そうだった、まだ教えてなかったね。この後みんな俺の部屋集合な」


マヨネーズの作り方教えてなかったわ。

ついでにケチャップやジャムのレシピも教えとこ。調理するだけだし、レシピがあれば大丈夫だろ。

女将さんに台所借りたいってのも話さないとだな。

予定を話終わりパパっと朝食を終えると部屋に戻って早速異空間に入ってもらう。もちろん全員に個別にドアを出現出来るように調整済みなので、練習も兼ねて実際にドアを出して貰い異空間に入っては閉じる、を実施して貰った。

全員問題なく出入り出来そうだね。


「さて、マヨネーズの作り方だけど、材料は卵黄、塩、植物性油、酢の4つ。これらを油以外でまずは混ぜ合わせる」


俺はマヨネーズの作り方を実演しながら、ノエルがメモ出来るようにゆっくり話す。

こっちの世界にも紙があるが質も悪いし高いんだよね。ノエルには紙を渡したけど、レビーの勉強用はノートサイズの黒板と石灰石で作られたこれも質の悪いチョークもどきで我慢して貰うつもり。ノエルの分も買うようにするか。


っと、余計な事考えてるうちに、良い感じに混ざったぞ。


「このくらい、もったりしてきたら、油を少しづつ入れて更にかき混ぜる。体力というか、筋力が必要な作業だから、みんな手伝ってあげてね」


俺は年長組をしっかり見つめてお願いする。「はい、承知しました」と笑顔で答えてくれるので安心だ。


ぐるぐるぐるぐるかき混ぜて、油を少し入れまたぐるぐるぐるぐるかき混ぜる。

俺はブーストを使ってそれはもう必死にかき混ぜた。

心做しかみんな顔が引き攣っている。気持ちは分かるぞ。だがこれはマヨネーズ作りには欠かせない工程なんだ。頑張ってくれ。


必死にかき混ぜた甲斐もあり、マヨネーズは完成した。


「こんな感じで作っていくんだよ。さ、じゃあやってみよっか」


「は、はい!」


ノエルが緊張しながら材料を用意し、マヨネーズを作り始めた。

俺はその間にケチャップとジャムのレシピを書き出しておく。

やはりノエルだけではかき混ぜ続けるのは無理なようで、オルトに変わり、その後ナジにも変わってやっと完成する事が出来た。


「か、完成しました…」


「うん、ご苦労さま」


レビー以外ぐったりしているな。まあ、無理もない。


「後でかき混ぜる専用の魔導具を作るつもりだから、それまでは自分達が消費する分だけ作れば良いよ」


マヨネーズ作りは大変だからね。

みんなあからさまにほっとし過ぎだろ。


「じゃあ、出かけてくるから。オルトだけ一緒に来てくれる?他のみんなは今日言った事をお願いね」


「あ、パン作りは女将さんに確認すればよろしいでしょうか」


「そうだね。これから話してみるから、後で実施する時間聞いてみて」


「承知しました!」


「ゼン様はこのままダンジョンへ?」


「そうなると思う。新しい人の服とかベットとか、購入よろしくね、ナジ」


「承知しました」


「ゼン様俺読み書き頑張る!」


「お、レビー!頑張れよ!」


大きく頷きガッツポーズ。うんうん、うち子のは可愛いのぉ。

思わずニヤけそうになる顔を必死で堪えて

「じゃあ、行ってくる」と声をかけると

「行ってらっしゃいませ!」と元気な声が返って来た。

そうね、もう1人じゃないんだよね。

感慨深い……


俺は部屋を出て先ずはキッチンスペースに女将さんに会いに行く。話を通し、キッチンを借りるのとパン作りさせて貰う事をお願いする。10日も掛からないとは思うけど、銀貨20枚を支払い、俺がいない間、忙しくない時間にノエルに使わせて貰える許可を得た。その足でこの間の奴隷商に向かい誰を迎えるか思い巡らす。

たかだか2~3日の間ではさすがに新しい人はいないだろうし…


「オルトはどういう人が良い?」


「え?あ、新しく購入する奴隷でしょうか?」


「うん、新しい仲間ね」


「ふふっ、余程奴隷と言う言い方がお好きではないのですね」


拳を口に当てイタズラっぽく笑うオルトに、コホンっと咳払いをして


「こればっかりはね…」


と、苦笑する。

平和な日本生まれ日本育ちだもの、しょうがないんだ。


「どういった方であれ、ゼン様がお選びになる方ですから私どもは信頼に答えるのみです」


むぅ、お前執事みたいな。マジで。言わんけど。


「そうか。まあ、会って話してみないとだしな」


オルトと話しているうちに奴隷商に着いた。

店先にいた店員さん、いや、店主さんにペコッと頭を下げる。

後で知ったんだけど、この方実は店主さんだったらしい…

俺ずっと店員さんって言ってたんだけど、めちゃくちゃ失礼な奴だったじゃん…

あっちの慇懃無礼な店員も、もしかして店主だったのかな…?まあ、あっちはどうでもいいか。


「おや、ゼン様。如何致しました?オルトに、何か問題でも?」


店主さんの顔に少し緊張が走る。


「あ、いやいやそうではなく、もう1人お願いしたくて」


「左様でございますか。では前回と同じように部屋をご覧頂きましょう」


オルトと一緒だったからか勘違いさせてしまったようで、緊張して少し力が入っていた店主さんは、俺達が分かるか分からない程度に軽く息を吐き、温和な笑顔を取り戻すとこの間案内してくれた場所に俺達を通してくれた。


「この前来てから間もないですし、新しい人は来てないですよね?」


一応念の為に確認してみる。


「いえ、新しい奴隷は二人程おりますよ」


店主さんから以外な答えが返ってきた。

いるんだ。


「じゃあ、先に新しい人を紹介して頂けますか?」


「承知致しました、ではこちらへどうぞ」


少し奥へ歩いた先の部屋で足を止め、店主さんは

「ジガン、こちらへ」

と、小窓から話しかけ、中にいた人物とアイコンタクトを取ったあとスっと小窓から離れる。

俺はその空いたスペースに行き小窓から中を伺った。

中には髭面のちっこいおっさんが憮然としたままこちらを睨みつけており、成人男性にしてはかなり小さいのに、筋肉は隆々で、なんというか…豆タンクという印象を受けた。ちょっとびっくりしたせいか、鑑定し忘れてしまい俺は慌て鑑定する。


(鑑定)


名前:ジガン・トレバーズ

年齢:131

LV:15

種族:ドワーフ族

HP:108/108

MP:34/34

攻撃力:59

防御力:65

魔力:36

魔防:16

俊敏:22

幸運:25

スキル:鍛冶師LV5、土属性魔法LV2、ハンマーLV3、(大盾)

状態:左脚負傷、奴隷契約


!!

ドワーフだって!?

どうりで髭面で豆タンクなわけだ……

俺は驚きと興奮でしばらく豆タンクことジガンを凝視してしまう。いやだってドワーフだぞ、そりゃ驚くし、興奮しちゃうだろ!?

初のドワーフ族との邂逅なんだから、そりゃあ感動しちゃうよー!ふぉぉー!


〔マスター、落ち着いてください…〕


う、うん、分かってる。

分かってるよ、ナヴィさん。

俺は心の中の喜びと興奮をなんとか抑え、ふぅーとこっそり息を整える。

気を取り直し鑑定結果を良く見てみると、鍛冶スキル持ちでしかも既にレベルが5!

さすがドワーフ!鍛冶スキルなんて有り難すぎる!

その他にも大盾スキルにも才能があるようだな。

大盾スキルがあれば前衛タンク職として活躍して貰えそうだし、是非仲間になって欲しい!

ステータスは前衛よりだけど、LV15で魔力は36なら魔法の伸び代もありそうだな。

ん?あれ?

131?

…あ、年齢が?

え?131歳?

……

……なあなあナヴィさんや。

ドワーフ族の131歳ってご長寿さんだったり?


〔いいえ、ドワーフ族はエルフ族同様に長命の種族です。平均寿命は300歳~400歳ですので、人族で言うところの20代前半でしょう〕


え、あの髭面で?


〔ドワーフ族は髭が生えて一人前です〕


顔の大半が髭だけど?


〔髭の割合は個人の嗜好によりますので…〕


え?でも顎髭とか凄い事になってない?


〔それも個人の嗜好に…マスター…〕


いや、巫山戯てた訳じゃないからなっ。


「ゼン様、如何なさいました?」


「はっ!あ、すみません!ちょっと驚いてしまって」


店主さんに声をかけられる迄結構な時間が経っていたらしい……

初のドワーフ族との邂逅に興奮を抑えられなかったうえに鑑定結果が素晴らしかったからな。

(まあ年齢に一番驚いたけど。あれで20代前半て)


〔マスター、失礼ですよ〕


あ、はい、ごめんなさい。


「あ、えっと、すみません。俺はゼン・コウダと言います。冒険者ですが、そのうち商会を立ち上げるつもりでして、人材を集めているんです。ジガン、さんで良かったですか?もし良かったら、俺達と一緒に働きませんか?衣食住は心配いりません。働いて貰った分はきちんと給金をお支払いします。あ、あと、仲間はここに居るオルトの他に後3人います。ジガンさんには鍛冶をやって貰ったり、強くなるためにレベルアップして貰ったりと、やって頂きたい事が沢山ありますが、ちゃんと休日もありますし、どうでしょうか」


焦って捲し立てて喋ってしまった…

憮然とした表情だった豆タンク、いやジガンは今度は怪訝な顔になっていた。


「ワシはドワーフじゃ。人族に買われるなどプライドが許さんわ」


ジガンはぶっきらぼうに言葉を吐く。


「1度奴隷契約はして頂きますが、その後従属契約に変更します。俺のとこにいるみんな、ジガンさんと契約完了後に従属契約に変更するんです」


「はあ??何で奴隷契約を従属契約に変更するんじゃ」


「それは俺のわがままというか、俺が奴隷制度が嫌いだからですかね」


「ふーん……1度自分の奴隷にすれば好きにしていいからか?じゃったらなんで後ろの兄ちゃんに直ぐに契約変更しとらんのじゃ。胡散臭いわい」


豆タ…ジガンが更に眉間にシワをよせ訝しる。

ごもっとも。


「詳しくはまだ話せませんが、契約変更の条件に奴隷契約5人ってのが必要なもので…でも条件達成したら直ぐに変更します」


なるべく紳士的に見えるように振る舞いつつ、どう信用を得るか考えていると


「ジガンさん、私もつい最近ゼン様に救って頂きました。私だけでなく、他の者もみな一様にこの3~4日にゼン様と奴隷契約して、救って頂いたのです」


スっとオルトが小窓に近づきジガンに話しかける。


「ゼン様は奴隷に対する考えが普通の方とは根本的に違います。私どもはゼン様にとても優遇して頂いており、今までにない新しい経験もさせて頂いているのです。正直、奴隷として売られる前よりもワクワクもドキドキも止まらない程に充実しているので、ジガンさんにもご満足頂けるものと自負しておりますよ」


どこのセールスマンだよ。

オルトはキラッキラの笑顔でつらつらと話してご満悦の様子である。

ジガンも気圧されているな…

余計に怪しまれるんじゃ。


「ゼン様、ジガンは昨日こちらへ売られて来たのですが、話を聞くに自分の鍛冶の腕前を試すため、質の良い魔石を求めて旅をしていたそうなのですが、運悪く魔物に襲われ怪我して動けなくなり、近くの野宿用休憩場で休んでいる所を盗賊に襲われたそうです。盗賊の目的は商人の馬車だったらしいですが、ドワーフ族は珍しいですからね…目をつけられ一緒に捕らえられてしまったとの事です」


なんとまあ運の悪い…

あれ?でも幸運値俺の次くらいに高かったよね?


「盗賊って何処にでも沸くものなんですね…それにしても、他の人はいなかったんでしょうか。誰も助けてくれなかったんですか?商人なら護衛もいたでしょうに」


「ふんっ、人族など信用に足る種族では無い事なぞ分かっておったが、他の旅人どもはもとより商人の護衛どもも分が悪いと判断した瞬間、ワシを囮にして逃げよったわ」


あらら…

これ最悪じゃんか。人族の心象だだ下がりかよ。

でもまあ、幸運値25だったから余計な怪我もなく、質の高い奴隷商であるここに売られたのかもね。不幸中の幸いか。本人にしてみれば不幸でしかないんだが。


「腕試し、というか鍛冶レベルを上げたいんですよね。だったらやっぱり俺と一緒に働きましょう。質の良い魔石もご用意出来ると思いますし」


ニコッと笑いジガンの様子を伺ってみる。


「……」


ジガンはじっと俺の顔を見つめながら顎髭を撫でる。

髭のせいで機微が分かりにくいな…


「ま、いいじゃろ。鍛冶が出来るんならお前さんに買われてやろう…」


「ありがとうございます!これから強くなって鍛冶レベルも上げて行きましょうね!」


「強く…?」


ボソッとジガンが呟くが華麗にスルーして店主さんに契約変更してもらうようお願いする。

後でジガンの負傷している足を治さないとな。


「もう1人は如何なさいますか?きっと気に入ると思いますよ」


店主さんがいい笑顔で俺にもう1人を勧めてきた。

気に入ると言われてもなぁ…

あまり人を増やすのも、どうなんだろう?


〔マスター、鑑定してから考えてみては?〕


うん、まあそうね。

あまり気乗りはしないんだが…

俺は店主さんの勧めでもう1人にも会うことにした。


「こちらになります。ネラ、ご挨拶出来ますか?」


店主さんは優しく中の人物に声をかけて一際ゆっくり丁寧な仕草で俺に場所を譲った。

何なんだ?

小窓の前に立ち、中を伺う。

幼女がちょこんと座ってこちらを見上げていた。

店主さん…俺別に幼女好きではないんですけど…

チラッと店主さんを見るといい笑顔でこくんと頷く。え、どういう意味?

とりあえず鑑定するか。


(鑑定)


名前:ネラ・エルディアス

年齢:49

LV:1

種族:ハイエルフ族

HP:24/24

MP:40/40

攻撃力:6

防御力:12

魔力:47

魔防:32

俊敏:8

幸運:20

スキル:(精霊召喚)、(癒しの息吹)、(緑蔭の風)、(風属性魔法)、(土属性魔法)

ギフト:精霊女王の愛し子

状態:幼体、正常、奴隷契約

称号:エルフの女王


……

……

……

……


ねえ、ナヴィ…

見間違いかしら?


〔いいえ〕


鑑定結果が間違えてるとか…


〔有り得ません〕


ハイエルフだよ?しかも幼体って…


〔まだ第一次成長期前ということですね〕


いや、称号がさ…

エルフの女王って。

しかも俺と同じでギフト持ちじゃん。

精霊女王の愛し子ってどんなギフトだよ…嫌な予感しかしないんだが…


〔まあ、そうでしょうね。エルディアス大公家の連れ去られた次期女王候補でしょうし〕


なんて?


〔30年前に連れ去られ、どこかに捨てられたエルディアス大公家の一人娘です。エルフは第一次成長期を迎えるまでは、なんの力もない非力な赤子同然なのです。推測するに、成長後は手出し出来なくなるほどの能力を開花させる場合がありますので、第一次成長期前にエルカディア王家の誰かの策略により誘拐されたのでしょうね。現在エルカディア王家にもハイエルフの女王候補はおりますが、ギフト持ちではないですので、王位継承権を巡った政治的策略の結果かと。さすがに次期女王を殺す事も出来ず捨てただけだったようですが、幼子が生き延びたというのも、ギフトや称号のおかげでしょうか〕


ふぁー……

厄介事の臭いしかしないねぇ。

見なかったことにしようか。

そっと店主さんを伺ってみる…

笑みが深い…

なんで?店主さんはこの事知ってるの?

鑑定…


ああ…人物鑑定なんてスキル持ってらっしゃるのね…


〔覚醒前のスキルや称号、ギフトまでは見れないでしょうが、名前と状態にある幼体とで推測、いえ確信しているのでしょうね〕


はぁ……

頭良いねぇ、このランセルって店主さん。

参ったな、なんで俺に押し付けようとしてるんだ。


〔マスターが奴隷に対して無体なマネはしないと確信が有るからでしょう〕


いや、厄介払いしたいだけなんじゃ…


「ランセルさん、スキルで俺の事もあちらのネラって子の事もだいたい事情は分かってるんですね…」


「申し訳ございません。ゼン様が普通のお方ではないという事はお持ちのスキルからなんとなくですが…」


「隠蔽スキルで隠してるのも、その看破スキルで見えてますよね…?」


「凡そは…」


この人侮れないわ。俺は苦笑いするしかなかった。

実際どこまで見えてるんだか。

隠蔽オフ

鑑定


名前:ゼン・コウダ

年齢:16

LV:30

種族:人族

HP:2426/2426

MP:3700/3700(+600)

攻撃力:2657(+40)

防御力:2624(+32)

魔力:2700

魔防:2614

俊敏:2657(+20)

幸運:37

スキル:剣豪LV7、大賢者LV7、空間収納LV-、鑑定LV MAX、聖属性魔法LV7、探索LV3、火属性魔法LV5、風属性魔法LV6、索敵LV7、ステータス補正LV6、MP消費軽減LV6、水属性魔法LV6、土属性魔法LV4、無属性魔法LV7、隠密LV3、HP自動回復LV MAX、MP自動回復LV9、状態異常無効LV-、呪い耐性LV MAX、魅了耐性LV2 、隠蔽LV1(new)、奴隷契約LV1(new)

ギフト:全言語理解、ナビゲート

称号:異世界からの転生者(new)、神からの不遇享受(new)

装備:

ミスリルソード(効果:攻撃力+40)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

探索用ブーツ(効果:防御力+20)

アクセサリー:疾風のピアス(効果:俊敏+20、回避率10%)


「ランセルさん、隠蔽スキルオフにしました。どこまで見えてます?隠蔽スキル発動中の時と変わりませんか?」


どうせ見えてるんだからと、隠蔽スキルを看破出来るランセルさんにはどこまで見えてるのか確認しておくのもいいだろう。


「はい、変わりません。ただただ圧倒されるばかりです」


ふふふと笑ってる時点で圧倒されてるようには見えないけどね…

ギフトや称号は見えないんだよな。

……

ん?称号?

あれ!?称号新しく付いてない!?しかも2こも!?


〔昨日オルト達に話をした時に取得したようです〕


マジか……

なんか影響ある?


〔異世界からの転生者は、マスターの元の世界の情報を多少なり知り得る事が可能になるようです。神からの不遇享受は…聞きたいですか?〕


な、なによ。

マイナスな事象なの?

だとしても聞くよ…


〔神様からの嫌がら…いえ、処遇に多少寛大になるようです…〕


ちょ、ナヴィさん!?

今嫌がらせって言おうとしたね?

っていうか何その称号。神様のクソ野郎にやられた今までの事に多少寛大な気持ちになるだけなの!?

要らんわ!


〔一応不屈の精神や前向きな思考にも影響が出るようですよ…〕


はっ!

クソ野郎にやられた事に感謝でもしろってか。

そもそも不屈の精神とやらも前向きな思考とやらも持ち合わせてねーですけど!?

ナヴィ、称号って消せないの!?


〔無理ですね〕


くっ…

あんのクソ野郎!すっかり忘れてたのに、絶対嫌がらせだろ。

自分が間違えた癖に!棚上げか!

転生させた事を恩着せがましく称号にするとかどんだけ自己顕示欲強めなの!?


「ゼン様?何かご不況を買うような事をしてしまいましたでしょうか」


「いや、ランセルさんのせいではなく、こちらの事情でして。気を悪くさせてすみません。ところで、スキルは見れるようですが、それ以外は見れないのでしょうか」


「え?」


「ネラにはスキル以外に称号がありますが見えますか?」


俺は敢えてギフトの事は言わず、称号が見えるか確認した。


「称号ですか?いいえ、私には見えません。ゼン様は見えるのですね」


「まあ、鑑定レベルがMAXですので」


「なるほど!さすがですね」


ははは…

手放しで喜ばれてもあまり嬉しくはないな。


「それで、どうして俺にネラを?」


称号が見えないとしても、厄介事にしかならないネラを俺に紹介する意図が分からない。

あれこれ考えるのも面倒だし、ランセルさんに直接聞いた方が早いだろう。

ランセルさんは話をするため、俺達を応接室へと案内してくれた。


「申し訳ございません。ゼン様がお強い方である事と、今までの奴隷に対する対応を見て、あなたになら、この可哀想な子をお任せ出来るのではと誠に勝手ながら信頼を寄せてしまいました」


クシャッと泣きそうな笑顔で俺に話す様は、騙そうとか陥れようとかの悪意は感じられない。


「可哀想な子?」


「私はこの子を売りに来た人物とは旧知の仲なのです。30年前森の奥でこの子を拾ったとき、私もその場におりました」


ランセルさんはお茶を一口飲み、じっとカップを見つめていた。

まるでお茶の表面に過去の出来事が映っているかのように…

しばらく見つめていたあと、ゆっくりと口を開いた。


「当時、私達は冒険者でした。あの子の育ての親とは同じパーティーメンバーで、ある依頼の為に森の奥地に足を運んだのです。かなり奥まで進んだ頃どこからか子供の鳴き声が聞こえてきました。声の方向に進むと幼い子供が木の根に縋り付くように泣いていました」


なんか昨日から人の身の上話を聞いてばかりだな…


「その子は私達に気が付くとこちらに手を伸ばし、立ち上がろうとして、気を失ってしまいました。きっと気が抜けてしまったのでしょう。一目見てエルフの子供だと分かりました。特徴的な耳をしてましたから。私は人物鑑定を発動させすぐさま確認しました。飢餓状態ではありますがそれ以外に負傷もなく、異常をきたしているところはなかったのですが…名前が、エルディアスでしたので、不味い事になったとパーティーメンバーに話しました。エルディアスはエルフの国の大公ですからね…何か事件に巻き込まれたのだろうと」


1度言葉を区切りお茶を飲んでは躊躇いがちにまた話し始めた。


「エルディアス家の子供なら、こんな森の奥に一人でいる時点で厄介事である事は明白です。私はメンバーに子供を置いてすぐさまここを去ろうと提案しました。エルフ国の国境からも随分離れた森の奥です。政治がからんでいる事は明らかで、子供を匿って、もしバレたりしたら国家間の問題にまで発展しかねませんから。

でも、メンバーの一人が反対しました…

こんなにも幼い子供を見捨てることなど出来ないと。意見は半々でしたが、結局連れて行くことにしたんです。ですが大っぴらに育てる事など出来るはずもなく、私達は冒険者を辞め、連れて行くことに賛成したメンバーがあの子、ネラを山奥で育てる事になったのです。

ですが思っていた以上にエルフの子供を育てるのは大変でした。何年経っても大きくならないのですから。街に連れて行くことも出来ず、目を離す事も出来ない日々に生活も大変だったようで…

30年経っても、ネラは当時の頃とあまり見た目が変わっていないのですよ。

彼らは身体を壊し、ネラを育てていくことが難しくなりました。そして考えに考え抜いた結果、私を頼ってきたのです。ネラを育ててくれる優しい人を探してくれと…

勝手な言い分でしたが、かつての仲間でしたから無下にも出来ず…かといって、エルフの政治的問題を抱えた幼女を誰彼構わず引き取って貰う訳にはいきませんでした」


「で、俺なんですか?」


「ゼン様なら、大切にしてくれるだろうと…」


ランセルさんは小さく首を振り


「いえ、重荷を下ろしたかったんです。ネラを頼まれてから半年、どんなお客様にも紹介する事はしませんでした。誰でもよかった訳ではありませんでしたから。ですが、ネラを見る度に罪悪感に苛まされる。連れて行くことに反対した事も、彼らと一緒に育てる事も、彼らを援助する事も一切せずに関係を断ち切った自分を責められている気分になり、ゼン様にネラを押し付けたかったのです」


俯き静かに涙を流すランセルさんは「申し訳ございません」と小さく呟いた。

まあ厄介事にしかならない幼女を押し付けようとしたのは腹立たしいけど、俺が諸々気がつくって事も折り込み済みだったような気がするんだよな…


ナヴィどう思う?


〔マスターがネラがエルフだと気付くことは分かっていたでしょうが、エルフ国の大公の娘であるとか、王家の策略により誘拐されて捨てられた等の事情までは気が付くとは思ってなかったでしょう。ネラに対する罪悪感もそうですが、何も知らないマスターに引き取って貰う事にも罪悪感を感じたのでしょうね〕


そうね、まあ、第一次成長期だっけ?それまでは幼女のままだし、スキルも覚醒しないんだろ?でも成長期迎えたら、それはそれで目立つかもだよな。

容姿もだけど能力も他のエルフより優秀だろうから王家とやらに見つかるだろうね。その前に大公家が見つけてくれれば良いけどさ。


〔大公家に戻っても命は狙われるでしょうね…〕


だよねぇ。

エルフの第一次成長期っていつ頃なの?


〔生まれてから50年目の誕生日に成長すると言われています〕


あら、じゃあもうすぐなんじゃないの?

第一次成長期。

スキル覚醒したらレベルアップしてさ、強くなれば命狙われても大丈夫なんじゃない?


〔マスター程度に強くなれれば、ハイエルフ20~30人相手でも、生き残れるでしょう〕


そうね。

じゃあ、引き取って育てるか。

強く育ったら大公家に連れて行けばいいしな。


「ランセルさん、ネラは俺が引き受けますよ。大事に育てますし、強くなってもらいます。で、いつか大公家に連れて行きますね」


「ゼン様!本当でございますか!?」


ガバッと顔を上げランセルさんは喜色を浮かべた。


「引き取って頂けるだけでなく、大公家に連れて行ってくださるなんて!」


「はいまあ、色々聞いちゃいましたしね。何だかランセルさんにしてやられた感がなくも無いですが、多分ネラの成長期がもうすぐだと思うんで。成長して幼女から少女になったら、容姿で狙われるでしょうし、能力も開花するでしょう。そうした場合、隠し続けるのも難しいので、いつかは噂になる。噂が広まれば、王家に見つかる可能性も高くなりますし、弱いままでは命も危ない。なので俺が面倒見ながら強く育てれば、ネラの生存率は大幅に上がると思うんですよね。もちろん俺も全力で守りますし」


つらつらとネラの現状を話した俺に、ランセルさんは大きく頷き俺の手を両手で包み込むように握りしめた。


「ありがとうございます!ゼン様本当にありがとうございます」


俺の手を握りしめたまま、その手を額につけ泣きながら感謝の言葉を綴るランセルさん。

余程ネラの事が気がかりだったのか。

涙でぐしゃぐしゃの顔で手続きをしましょう、と契約変更の話をし、ハンカチのような布で顔を拭いた顔は真っ赤で浮腫んでいた。

この短時間でどんだけ泣いたんだ…

罪悪感半端なかったにしても、やっぱりしてやられた感が強いんだよな…

まあいいか、いつかはエルフの国も見て回るつもりだったんだし。


サクッと奴隷契約の変更を終え、ナヴィが奴隷契約のスキルアップをしてくれてる間にジガンとネラを連れ一旦宿に戻ることにした。ジガンだけならオルトに任せてダンジョンに向かったんだけど、ネラはさすがに説明した方がいいだろう。


「ジガン、ネラこれからよろしくね」


「うむ、良い魔石を頼む」


あ、はい。

ブレてないですね…ジガンさん。


「ネラ?」


ランセルさんからネラはまだまともに話すことも出来ないと聞いたけど…


ナヴィ、これってエルフ特有?


〔エルフは第一次成長期を迎える前までは、ずっと幼い子供のままとは理解しておりますが、ネラは少々特殊かもしれませんね〕


(というと?)


〔幼い頃に誘拐され、森に遺棄された事がトラウマになっているのかもしれません。そのうえ30年共に暮らした育ての親と別れ、またランセル氏とも別れる訳ですから〕


(心を閉ざしちゃってる…とか?)


〔そうなっていてもおかしくはないでしょう〕


俺はネラを抱っこして、目を合わせながら

「俺はゼン、これからネラは俺や俺の仲間達と一緒に生活する事になったんだ。よろしくね」

と、頭を撫でた。

小さくではあったけど、ネラは頷いたように見えた。49歳って事は49年生きてきたって事よな。

5~6歳にしか見えないけど、知識とかはどうなんだろうか。なんとなく、全部分かっているように思えるんだよね…


「オルト、戻ろっか」


「宜しいのですか?ゼン様はこのままダンジョンに向かわれるのでなかったでしょうか」


「最初はその予定だったけど、ネラの事、みんなに話さないとだしね。ジガンはすぐに冒険者登録、パーティー登録出来るけどネラは登録出来ないし、みんなに面倒見てもらわないといけないからさ。一旦宿に戻ることにした」


「おい、冒険者登録とはどういうことじゃ。まさかワシに冒険者なんぞになれって言ううつもりか!?」


ジガンが冒険者登録という言葉に怒りを覚えたようで、俺の服をグイッと引っ張った。前側はネラを抱っこしているので、背中の方を。

カッとなっても分別があるなんて素晴らしい。


「後で説明するよ。こんな往来で出来る話じゃないから。でもジガンにとって悪いことではないと思うよ」


やんわり手を服から外し、にこりと笑んでおく。

説明含めてオルトやナジに任せようと思ってたのになぁ。

そうそう上手くはいかないもんだな…

まだ何か言いたげなジガンを笑顔で躱し、俺は足早に宿に戻るのだった。

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