第15話
ギルドに着くと、受付嬢のレジータさんに犯罪者を捕まえて来たと伝える。レジータさんはオルトとナジに引きづられている男達を一瞥すると、こくんと頷きギルドマスターを呼びに行った。
「犯罪者だって?」
すぐにギルドマスターのベリックさんがボリボリと頭を掻きながら面倒くさそうに声をかけて来た。
「はい、こいつらです」
「何をしたんだ?」
「俺含めてうちのメンバーを拉致して嬲り物にしたあと奴隷として売るつもりだったようです。口振りからして常習犯でしょう」
「あー...お前に手ぇ出そうとしたのか。そりゃ返り討ちだわぁ」
ベリックさんは乾いた笑いで、ははは...と笑う。
「引き取って頂けるんですよね?領主に引き渡して刑を受けさせて下さい」
「分かった。余罪はこっちで調べる。それ迄は地下牢に監禁だな」
「裁判用の余罪確認ですか」
「そういうこった。だいたいこういう奴らは色々罪を犯しているからな。十分に調べて刑を執行して貰わないと」
ギロリと男達をひと睨みしたベリックさんは「おい、こいつらを連れて行け。尋問する」と、ギルドの職員さんに声をかけ「ご苦労だったな。あいつらの事は任せておけ」と請け負ってくれた。
「今日はそれだけか?最近ブループラチナムのパーティからの買取が凄くてな、ギルドはウハウハなんだが」
そう言いながら、チラリと俺達全員を見回した。そんな見られても今日は買い取って貰う素材はありませんよ。
「すみません、今日は買い取りではなく、冒険者ランクアップの試験を受けに来たんです」
「お、Bランクか。丁度今Bランクの冒険者が来てるんだ。そいつに試験の相手頼んでみよう」
「ありがとうございます。あとメンバーもCランクの試験をお願いします、あ、みんな受付で冒険者ランクアップ用のポイント確認して」
大丈夫だと思うけど、念の為ね。
確認の結果、当然ポイントは十分だった。平均5000くらいで、思ったより少ない。俺も確認して貰うが15000程度なので、そんなもんか。ポイントも分配だしな。
「おいおい、全員Cランク試験受けるのか?もしかして全員がゼンレベルとかじゃないよな…」
ベリックさんが嫌な顔をしてうちのメンバーを見る。前回俺が一瞬で終わらせちゃったからなぁ…
「あはは...まあ、どうでしょう」
その場を濁してさっさと試験準備に取り掛かって貰った。だって、結果はきっと前回の俺と同じだしね。
試験が終わった後のベリックさんは20歳も老けた様な風体になってしまったので、今度美味い酒が出来たらお詫びに持ってきてあげようと心に誓ったのだった。すまぬ。
さて、俺の試験はというと、こっちも一瞬で方が付いた。正直ステータス値が違いすぎるからね...
試験相手をやってくれた冒険者の人、自信満々だったのに今や見る影もない状態で...ほんとごめんなさいね。
出来ればAランク試験も受けたいし、メンバー全員Bランクにはなって欲しいんだけど、ここで受けるのは止めておこう…
無事冒険者ランクも上がったし、冒険者パーティ、ブループラチナムとしてもCランク相当の評価になった。これで俺達も一端の冒険者だ。
資金集めの為とダンジョン踏破、それと魅了耐性のカンストも有るからまだまだダンジョンには潜るけど、これで心置き無く商会の基盤固めに注力出来そうだ。
でもこっちに転生してからまだ二ヶ月も経ってないってのに、なんかあっという間にBランクになったよね。商会も上手くいきそうだし、食事も美味しく食べれるようになった。
初めてこっちで目が覚めた時は絶望しかなかったのにな…
努力の結果ってのもあるけど、人にも恵まれたし、運も良かったのかもな。はぁ、ちょっと幸せ感じちゃったりしてるわ…
〔マスター、前向きな思考ですね〕
ナヴィからほくそ笑んだような感覚が流れる…
え...何?
どうした?
〔前向きな、思考ですね〕
ぶふっと笑われた気がする。
ねえ、ナヴィ今笑った!?
〔笑っておりません〕
ちょ、なんなの?
あ?え?待って...
俺のこの気持ち、これって
〔それだけではありませんが、マスターがアスガルディアに馴染めたようで嬉しく思います〕
まあ...ありがとう。
ナヴィにイジられた気もするけど、称号も悪くないな。今俺充実してるし。
正直気分も良い。
ランクアップ試験の後、予定通り盾や防具を買いに行って防具は結局買わなかったけど、良い盾を買うことも出来た。大盾はなかったけどね。
ナジやオルトは市場に行ったので、残ったメンバーは宿に戻り、早速ジガンは鍛治、ノエルはパンを焼きレビーはネラと一緒にお勉強。
なら俺は...錬金術でゴーレム作ろうか。
自室に戻るとナヴィに魔法陣を準備して貰い、メウブル飼育用のイメージを固めて、自動充電機能付きのゴーレムを錬成する。
5~6体作れば十分だろうか。
一度イメージを固めてしまえば後は流れ作業だ。ゴーレム錬成をしながら俺は商会運営について考えを巡らす。
出来れば宿を引き払ってセリスタとリンデンベルドの間に簡易な丸太小屋でも作っておきたい。どっちにも行きやすいし、宿代も掛からないし、一石二鳥な気がするんだけど、勝手に家建てたら不味いよね?それにずっとそこにいたい訳じゃないんだよな...どうするか…
俺は3体目のゴーレムを作りながら拠点をどうするかいい案が浮かばず、手順を誤りゴーレム錬成に失敗してしまった。素材が無駄になっちゃったよ...
〔マスター、リンデンベルド領主から土地を購入すれば購入した土地に建物を建てるのは問題ございませんが、商会として街に店を構えるのでは?〕
それな。
今回のは一時的な場所なのよ。宿代もバカにならないし、もう異空間で生活出来るからさ。
あと、店出すとしたらセリスタじゃなくてもっと大きな街が良いんだよね。
〔王都でしょうか〕
いや、王都の次くらいで良いとこないかな。
〔王都の次ですと、グリンデルバルド領の首都かルトワール領の首都になりますね〕
う〜ん...
セリスタからだとルトワール領のが近いよね。エルフ国との国境もあるんだっけ。
〔ルトワールの首都から離れておりますが、エルフ国との国境の街があります〕
じゃあさ、メウブルの飼育や商材の製造が順調になったらルトワールの首都に店構えようか。それ迄は行商する?馬車買ってさ、魔改造するの。店として陳列棚作って村や街で売りながら移動する。ダンジョンや街の近くに転移ポイント作って転移用の魔導具とリンクさせれば移動も楽に素材は集め放題だよね。
〔良い考えですね。転移ポイントはマスターが認識するだけで大丈夫でしょう。無属性魔法のレベルがもうそろそろMAXとなりますので、転移先登録機能と複数登録を可能とする転移魔導具を作成出来るようになります〕
相変わらずチートだよね。
無属性魔法も、ナヴィもさ。
〔心外ですね。望んだのはマスターですよ〕
あら、そうなの?
俺って貪欲なのねぇ。
〔..……〕
じゃあまあ、先ずは馬車買おうか。
あとオーブンももう一個作ってパンを焼く数増やそう。マヨネーズなんかの調味料も大量に作れるようにしたいよね。ゴーレムで出来ないかな、かき混ぜるのはハンドミキサーだから、油をちょっとずつ入れて、混ざり具合いが確認出来るようなイメージで...
〔可能です。ついでにケチャップやジャム等もゴーレムに作らせれば良いのでは?〕
そうねぇ、今の異空間に地下2階を作って、鍛治場と酒蔵(さかぐら)をそっちに移動させて地下1階に大型キッチンでの製造ライン作るかな。
うぉぉぉ〜!
なんか工場チックでテンション爆上がりキター!
〔マスターの魔導具生成が更に大変になるのですが、これがあちらの世界でいう社畜という現象なのでしょうか〕
え?何?ナヴィなんか言った?
〔いえ、なにも。マスターがやる気に満ちており大変嬉しく思います〕
うんうん、俺すげぇやる気が出てきたよ!
忘れないように、これから錬成する物を書き出しとくかっ!
え〜っと?
メウブル飼育用ゴーレム、ブール作成用魔導具、馬車用陳列棚魔導具、転移魔導具、キッチン用ゴーレム多数、大型オーブン多数、保存効果ありとなしの保存瓶大量に、極小マジックバック多数、魔導コンロ多数...商材用の鑑定カード多数...商材用の魔導ライト多数...あれ?なんか錬金するの多くない!?
〔魔力は十分なので、錬成可能ですよ〕
あ、はい。
頑張ります...?
あれ?
翌日、広くて大きなベッドで寝たからか、錬金疲れもなくスッキリした状態で俺は馬車を買うためにナジと一緒に馬車を扱う店に訪れた。正確には馬車ではなく荷車というらしいが。
ヒュージラカンで引くこの荷車は全て木製で箱型になっており、窓も付いている。後ろが扉になっており、荷物の出し入れや人が乗り降り出来るようになっていた。
店主の紹介で幾つか見せて貰った中で、一番大きく頑丈な荷車を購入する。ナジも気に入ってくれたので間違いはないだろう。
荷車を引くヒュージラカンも一緒に購入し、俺達は宿を引き払って荷車でリンデンベルドまでの道程の半分辺りにある野営地まで移動した。
しばらくはここで商会運営に必要な準備を進めていくつもりだ。
ナジとレビーはメウブルの仕入れ、オーク狩り。
オルトは酒造に集中。
ジガンはナジと自分の武器と大盾の鍛治。
ノエルはパンやマヨネーズ等の作成。
俺はひたすら魔導具作成。
たまにみんなで石鹸に必要なラードや木灰製造、ダンジョンでの耐性スキル上げ。
ネラには異空間から出ないように言い聞かせていたが、ノエルのお手伝いをしたり、俺の錬金中は隣で勉強したりとネラもネラで忙しい。
1ヶ月程が過ぎ、大量のラードやオーク肉、木灰が用意出来たので、一斉に石鹸を作る事にした。
先ずは灰汁作り。
木灰を入れた樽に水を入れ浸出させて灰汁溶液を取り出し、火にかけて煮込み結晶化させていく。
当然時間短縮の為に浸出には無属性魔法で時間を進め、結晶化も大量の灰汁液を使用するので、時短は必須だ。
ラードも熱を加え塩析して余分な汚れを取り除き、人肌程度にしておく。
水に結晶化させた灰汁を加えこちらも人肌程度に温める。ガラスで作った大きなボウルに灰汁液と1.2倍の油脂(ラード)を加えハンドミキサーを作って手動でゆっくりかき混ぜる。クリーム状になったら型枠に流し込み時間を進めて型枠から外したらまた時間を進めて乾燥させる。
完成だ。
「以外と面倒だな」
「ですが、ゼン様のおかげで半日も経たず出来ましたね」
にこりとオルトが言う。もう慣れたものなのか、誰も驚かない。
「ちゃんと石鹸になってるのかな」
試しに一つ水に濡らして泡立ててみる。
「おお、泡がっ」
ナジが驚いてくれたので、石鹸を渡し「泡立てみて、で、こんな感じで手を洗ってみて」とお願いした。
言われた通り石鹸で泡立てたあと、そっと石鹸を置いて手を擦り合わせた。
水で石鹸を洗い流してあげると「ゼン様!手の汚れが落ちてます!」と大喜びだ。
うむ、成功だな。
「これさ、混ぜ合わる時に香料を入れたら良いと思わない?」
「確かに!良い香りのする石鹸なら、富裕層の女性に更に需要が有りそうですね」
「この石鹸だけでも売れるのは間違いないですが、香り付きなら尚更ですよ」
オルトもナジも凄い意気込みだ。
今まで風呂に入っても、石鹸がある訳ではなかったからね。結局浄化(クリーン)の魔導具も使ってたもんな。
「じゃあ、次は香料を入れたのを作ろう」
「はいっ」
みんなやる気で嬉しいね。
「ノエルとレビーは石鹸を紙に筒んでくれ。包み方はこうだよ」
俺は実践してみせ、後は二人に任せる。
意外にレビーが器用だった。
石鹸作りはオルトとナジに任せ、もちろん時間短縮はナヴィにフォローしてもらうつもり。俺はジガンと一緒にオーク肉でベーコンを作ることにした。ソーセージも作りたかったんだけど、腸に詰めるのがな...
ただこっちのブルストって言われてるソーセージはちょっと臭みがあるんだよね。
女将さんが作る腸詰は美味しいんだけど、多分あれって茹で肉にレバーペーストを加えて焼いた物だよね…
ソーセージは燻製加工しながら加熱処理させていく物だと思うけど、こっちのは燻製加工がされてないただ茹でたものなんだろうな。
まあ、ソーセージは置いといて先ずはベーコンだ。
香りの良い燻製チップを準備してあるので、オーク肉を時間短縮で塩漬けにして、なんちゃって燻製器で加熱。燻製チップから煙が立ち上りいい具合に燻されている。
「ふわ〜良い香り」
ノエルが燻製チップから漂う香りに、鼻をくんくんさせる。
「香ばしい匂いもする!」
レビーは燻されているオーク肉の香りが気になるようだ。
ふふふっ、ベーコンも成功の予感だな。
「ゼン殿、これはまた酒が進みそうなものじゃの」
ジガンがニヤリと笑ってエールを取り出した。
このエールはオルトと一緒に品質改良した酒だそうだ。
ベーコンも出来上がったので、みんなを呼んでさっそく振舞ってみた。
「うむ、やはり酒に合うわい」
ジガンは早速ベーコンを肴にエールを飲みだす。
「オーク肉の旨みが凝縮されてますね!」
「これも売れますよ!」
オルトもナジもベーコンは商材として認識したようだ。
ノエルは「これお料理の幅が増えそうです」とこれまた嬉しそうで。レビーとネラも美味しそうに頬張っている。
うむ、美味しい食べ物は幸せになるよね。
ベーコンもゴーレムで大量生産出来るようにしますかね。
後は酒なんだけど、この1ヶ月の間に本格的な酒蔵が作られており、ビールと呼べるところまで出来ているのだ。オルト曰く、もう少し品質改良したいそうで、まだお披露目はされていない。
それに、ウイスキーやワインにまで手を出しているそうで、何ともあちらの世界の情報を上手く活かしているなぁと感心しきりなのである。
〔マスターが取得した
それを活用出来るナヴィのおかげだよ。
ほんと感謝しかないよ。
〔マスターをサポートするのが私の役目であり、存在意義ですので感謝など不要です...〕
あるぇ〜?なんか照れてるぅ?
〔……チッ〕
え!?今舌打ちした!?
〔いいえ〕
舌打ちしたよね!?
〔しておりません〕
...舌打ち……
〔しつこい〕
!!!
ナヴィが反抗期...
〔……はぁ〕
ご、ごめんなさい...
さ、さて!
今日は石鹸も作れたし、ベーコンも上手くいった。
メウブルの飼育も順調で、ブール作成も問題ない。
キッチン製造ラインも稼働中で、売り出す商材達の在庫も十分確保出来ている。
後はオルトの酒のみだ。実質完成しているようなものである。
もう少し石鹸とベーコンを作ったら、本格的に蒼銀の月商会の活動開始だ。
な!ナヴィ!な!?
〔そうですね〕
まだ少し不貞腐れてるナヴィをよそに、〔不貞腐れていませんが〕
「さあ皆、後ちょっと作業を続けて、今日の分終わらせてしまおうか!」
「はいっ!」
ジガンだけまだ酒に後ろ髪引かれてはいるが、みんな各自の作業に戻っていった。
「ジガン、ベーコン作るよ」
「うむ...興が乗って来たんじゃがしょうがないのぉ」
しぶしぶベーコン作りを再開したジガンを手伝いながら俺は商人としての活動に夢馳せるのだった。
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