第21話 オルトの思い

朝早く、夜も開けきっていない時間に目を覚ます。

相変わらず寝心地の良いベッドは私の睡眠を快適にし、寝覚めの良い朝を迎えさせてくれるのです。

これも全て主人であるゼン様おかげ。

ベッドに起き上がり辺りを見回すと、自分で選んだ家具が居心地のよい空間を作り上げていた。

ベッドから降りてシャワー室へ向かう。

朝の日課だ。

石鹸も自由に使える、蛇口を捻れば暖かな湯が出て身体を綺麗に出来る、トイレ迄備え付けられた信じられない程の便利で快適な部屋。

このような部屋を元奴隷の私達全員に用意してくださった主人がゼン様だ。

ゼン様との出会いはまさに僥倖でした。

最初から私を気遣って下さっていたのですから。

奴隷に衣食住どころか労働に対する賃金の支払いまで提示する人がいるとは。

しかも私は犯罪奴隷でしたのに。

もちろん濡れ衣でしたがそんな事は一度奴隷に落とされてしまえば関係の無い事です。

全てを諦め、ただ決められた期間を苦役に充て生死すらどうでも良いと自暴自棄になっていた時期でした。

誰も信じられず、労働場所へ送られるのを待つだけの日々。今思い出しても少し胸が苦しい…

そんな私の身も心も救って下さったゼン様には感謝しかありません。


シャワーを浴び身綺麗になった身体に綺麗な服を纏い、酒蔵さかぐらに向かう。

中に入る前に前掛けをして、髪が落ちないよう頭巾を被り口元を清潔な布で覆った。

酒蔵は神聖な場所ですから清潔にする事が必須なのです。

私がゼン様に見出して貰ったのは酒造スキルを持っていたから。当時は潜在スキルでしたが。

ですから私は商会を盛り立てる為にも酒作りには一切の妥協は致しません。

とは言え、この酒蔵にもゼン様が作った便利な魔導具や酒造用ゴーレムがひしめき合っており、私の力等微々たるものではありますけれど。

既に商品として売り出されている酒はゴーレムがレシピ通りに作っているので、私は新しい酒の開発を進めています。

もう少しでラム酒が出来そうです。

ジンも試行錯誤中で、これだけ種類があるとは思ってなかったお酒作りに割りとどっぷりハマった気がしますが、正直とても楽しくて。

昨日からお休みを頂きましたので、早朝は酒造に注力して、ノエルの美味しい朝食を頂いたあとは屋台で商品を売り出すつもりです。

ゼン様は休日を堪能するようにと仰って下さいましたが、他店の商品の確認も済みましたし、新しい酒もなかったのでやりたい事がないと言いますか。

商品を売り、蒼銀の月商会の素晴らしさを喧伝したい欲求の方が強いと言いますか。

ゼン様は私達を働かせすぎていると思っていらっしゃるようですが、ご自分の方が働きすぎだと自覚して頂きたいものです。

昨日ナジも言っていましたが、気が付いたら新しい魔導具や店で売り出す商材用の保存瓶が大量に収納庫に積み上げられているのだとか。

錬金術は今のところゼン様しか出来ませんから、いつ寝ていらっしゃるのやら…

正直心配でなりませんね。

今日ナジは商会の資金調達を理由にダンジョンに行く予定です。

本当はゼン様の為の素材集めがメインなのですが、素材を売って資金の一部にする事も含めているので嘘ではありませんよね。

いつも私どもを最優先に考え動いて下さるのですから、とても嬉しい反面、私どもがお役に立てているのか不安にもなるので、常日頃から役立てる事を探してこっそり動いていたりするのです。

そもそも、奴隷として購入したのに、身分を回復して平民に戻して下さっただけでも有り難いというのに、恩恵も与えて頂き更に衣食住も最高レベルで給金も普通とは思えない破格の金額なのですよ?

私がデボアン商会の番頭だった頃の給金は月に銀貨65枚だったのに、今は金貨3枚です。4倍以上です。これには全員がドン引きしていました。

しかも装備品も経費だとか言って高価な物をポンポン購入してくれるのですから、私のご主人様は誰かと比較出来るような方ではありませんよね。

本当に私は僥倖に巡り会えたのです…


ふぅ。

ラム酒も売りに出せるところ迄品質が上がったようです。ゼン様は喜んで下さいますでしょうか。

ああ、ラム酒用の瓶のデザインで新しく瓶が必要になりますね。

ガラス工房を作って下さったお陰で今はゴーレムが作ってくれていますが、新しいデザインで作れるゴーレムが必要です。またゼン様のお仕事を増やしてしまった…

これは早急に錬金術が使える人材を確保しなければ…いえ、私がスキルを習得すれば解決ですね。

一度ナヴィ様にご相談してみましょうか。

さ、そろそろ朝食の時間です。

私はゼン様から頂いた腕時計の魔導具を確認する。

時を刻む魔導具をこのように身体に装着して何時でも確認出来るようにしてくださったゼン様は本当に素晴らしいです。

仕える主人が有能過ぎると誇らしいですけれど、自分の至らなさが浮き彫りになり恥ずかしいですね…

ゼン様に無能と言われ捨てられる事のないように更に精進しなければなりません。

私は決意を新たに朝食を食べにリビングへと向かう。


「ゼン様、おはようございます」


「おはよう、オルト」


さあ、本日も頑張って参りますよ。

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