第7話

自分の部屋に戻ると何故かナジだけでなく、全員が揃って待っていた。


「え、なにどうしたの?」


「商材の紹介があるかと思いまして、こちらでお待ちしておりました」


「あーそうなんだ。呼ぶまでゆっくりしてて良かったのに」


「いえ、気になっておりましたので」


オルトはちょっとワクワクした感じだし、ナジは何故かソワソワしている。年少組も期待に満ちた目を向けてくるので、みんな少なからず興味があるようだ。


「異空間」


俺は異空間のドアを出し、みんなで入ると先ずは今日買ったソファとテーブルセットを置いて全員が座れるように整えると、徐に酢、マヨネーズ、パン、イースト菌をテーブルの上に出す。


「今あるのはまだこれだけ。でも作りたい物は沢山あって、みんなで色々作っていきたいと思ってる」


「これはパンですか?」


「うん、食べてみて、驚くと思うよ」


オルト達はパンを手に取った瞬間その柔らかさに驚き、口に入れてまた驚いた。


「柔らけえー!」


「わーふかふかだあ!」


「なんという…」


「ほのかに小麦の香りと甘みが感じられ、柔らかいのに噛み締める度に旨みが口の中に広がっていく…こんなパンは初めて食べました…」


珍しくナジが饒舌だ。


「気に入ったか?」


「はい!こんな柔らかくって美味しいパン初めて食べました!」


ノエルは目をキラキラさせてパンと俺を交互に見つめてそう言った。ナジもブンブンと首を縦に振る。


「このパンはコレ、このイースト菌をパン種に混ぜて30分程寝かせておくと、イースト菌が発酵してパン種に空気を含ませてくれるんだ。パン種が膨らむことで焼いた時にふかふかになるんだよ。あと、こっちのパンも食べてみて。これにはブールも入っているから、より一層パンの風味を味わえると思う」


4人はブール入りを口に入れると目を剥いてパンを凝視し、そうかと思ったらあっという間に食べきってしまった。


「ブールの塩気と小麦の甘みが調和して先程のパンよりも旨みを強く感じましたし、何より口当たりが滑らかでとてもしっとりしていました」


「うん、ブールはパンに欠かせない存在なんだよ。保存方法が難しいからあまり流通してないし、随分高いから手が出しにくいけどね」


「ブールを入れただけでこんなにも味が変わるなんて!ゼン様は素晴らしい知識をお持ちなのですね」


「俗に言うチートだけどね」


「ちーと?」


「ああいや、何でもない。ノエルにはこの2種類のパンの他に、このマヨネーズやまだ作ってないケチャップ、ソース、ジャム、それに新しい料理を覚えて貰うつもり。食生活は大事だからね」


「はい!頑張ります」


「次はマヨネーズなんだけど、これは調味料なんだ。野菜にも肉にも合う万能調味料!」


俺は空間収納から肉と野菜がたっぷり入っているクレープを取り出し、皿の上で4等分にする。そこにマヨネーズを乗せてみんなに食べるよう皿を渡した。


「んんっ!なんだこれ、すげぇ美味い!」


1番にレビーが反応した。


「いつもの肉と野菜の香草炒めなのに、まろやかさと濃厚な味わいがあります!ゼン様、この調味料は素晴らしいですよ!」


オルトも気に入ってくれたようだ。夕食後なうえに、パンも2つ食べてるからクレープは4等分にしたんだけど、どうも物足りないみたいだな。


「まだ食べる?」


無言で首を大きく縦に振るナジ。レビーもオルトも輝きを放つ程の笑顔だし。ノエルがお腹いっぱいで追加を悩んでるみたいだが、構わずクレープを4つ出し、それぞれの皿に載せると「どうぞ」とマヨネーズの瓶を中央に置いた。

ナジ達が思い思いにマヨネーズを載せている間、俺ブレンドのお茶を入れる。カップに注ぎお茶を配ってからまた酢やイースト菌、これから作るケチャップ等の説明をしていく。みんな真剣に聞いてくれてこれから作るのを楽しみしてくれた。

まあ、先にレベルアップだけどもな。


一通り説明も終わったので、異空間の中で全員に浄化(クリーン)をかけておく。


「そのうち風呂場を作るから、そしたら毎日気軽に風呂に入れるよ。楽しみにしてて」


「風呂まで作るのですか…」


ちょっと呆れ顔になったオルト。なんで?風呂は必須でしょ?

明日の朝、食堂で朝食を摂ったらまた俺の部屋に来てもらう事にし、オルト、レビー、ノエルはそれぞれの部屋に戻って行った。ゆっくり休んで欲しい。


「ナジ、ベッド使っていいよ。俺は異空間のソファ使うから」


「え!?ゼン様がベッドをお使いください。私は床で寝ますので」


「いやいや何言ってんの?床でなんてダメでしょ。俺は異空間でちょっと作業したいんだよ。だから気にしないでベッド使って」


「ですが…」


渋るナジをベッドに座らせ俺はさっさと異空間に入ってドアを閉めた。

これでナジもベッドを使うだろう。

さて、異空間を快適空間にする為に…先ずは全員の部屋を作って、トイレとキッチンが必須だよな。

異空間の広さってこれが限界なのか?


〔いいえ、広げる事は可能です〕


おお、そうなのか。

縦にも?


〔可能です〕


2階とか3階層構造に地下とかも?


〔可能です〕


マジで!?やっぱすげぇ便利な。


〔異空間はマスターのイメージ通りに作れます〕


イメージ…イメージか……

なら、こんな感じ…か?

脳内で地下1階、3階建ての広い家をイメージし、異空間を変形させていく。

1階には広めのキッチン、後でデカいオーブンと冷蔵庫を設置するスペースを確保し、コンロを3つは置けるように調理台と水場を整え、収納棚も作っておく。壁とかも自在に作れるから非常に便利だ。

買ったテーブル達をキッチンの近くに配置し、リビングにはソファを置く。

壁を作り、廊下を作って奥側に銭湯並の大きな風呂場と、ついでにシャワー室も付けておく。

廊下の手前側にトイレを3つ。反対側は倉庫だ。

もう1つリビング側から奥へ行ける廊下を作り、2階への階段と、地下への階段を設置した。

2階は野郎どもの個室だ。ウォークインクローゼットも完備した10畳程の部屋だ。ベッドを置いてもまだ十分な広さがあるし、あとは好きに家具を置いて貰おう。一応客間も含めて6部屋作っておいた。

3階は、廊下を挟んで手前側にノエルの部屋と反対の奥側が俺の部屋だ。ノエルの部屋には個室の風呂とトイレも設置しておく。女の子に共同のトイレとか風呂はダメでしょ。

同じような部屋をノエルの部屋の隣と俺の部屋の隣にも作っておいた。女の子が増えるかもだしね。

そして俺の部屋は1番広くして作業部屋と広めの風呂とトイレも当然作っておく。部屋の主だもの、いいよね、このくらいの贅沢…。

最後にみんなが使える作業場として地下に広めの部屋を作っておく。ここは今後いろいろ改造していく予定なので、一旦放置である。

こんなもんかな。

野郎どもからトイレを部屋に付けてと言われるかな…女子だけ贔屓してって非難されたらどうしよう…ナヴィどう思う?


〔共同トイレの他に各部屋に付けてあげても宜しいのでは?〕


やっぱりそう思う?

下水処理場作るし、トイレの魔道具いっぱい作る事になるけど、トイレはプライベート確保した方が良いか。

ナヴィの意見を採用し、トイレを各部屋に設置した。これで不満は出ないだろう…

…ついでにシャワー室も付けておくか。風呂は大浴場を使って貰うとして、サッと汗を流すだけとかでシャワー使いたいかもだよね…

なんかすげぇ至れり尽くせりじゃね?

魔道具しこたま作る事になりましたね、はい。

今日はここまでにしておくか。

さすがに疲れたわ。

俺はソファに寝転ぶと一気に睡魔に襲われた。


翌朝、まだ眠気と戦いながら朝クリーンで目を覚まし、昨日の成果を眺めてふと思う。この空間、真っ白よね。家具が彩りを与えてくれてはいるけどさ。異空間の壁とかに色を付けられるかはおいおい試していこうかね。

やりたい事はまだまだあるなーなんて呑気に考えながら異空間から出ると何故か全員揃って待っていた。


「おはよう。みんな早いね。もうご飯食べたの?」


「おはようございます。ゼン様。朝食はまだ食べておりません」


「そうなの?もしかして待っててくれてた?気を遣わないでいいのに」


オルトがいい笑顔で答えてくれるが、先に食べててくれて良かったんだよ。


「いえ、みなゼン様と一緒に食べたいと思ったようでして」


「あらやだ、嬉しい事言っちゃってー」


俺は照れ隠しにおばちゃん風に左手を頬に、右手をパタパタ振っておいた。


「じゃあご飯行こっか」


サクッと朝食を食べて装備品の買い出しをしないとなのだ。


俺たちはいつものシンプルな朝食をサクッと頂き少し早いが職人通りにある武器防具の店に向かった。

それぞれに合う武器や防具を購入し、ざっと上から下まで眺める。


「うん、みんな良い感じだね」


「ゼン様ありがとうございます!俺絶対強くなる!」


「俺もどこまで出来るか分かりませんが、精一杯頑張ります」


「自分は年齢的に厳しい気もしますが…頑張って短剣を使いこなせるようになります」


「ありがとう、みんなには成長補正が付与されてるから、普通の冒険者より強くなるから安心して」


俺はニッコリ笑うと不安気なノエルの頭をポンポンする。


「ノエル大丈夫だよ、君には魔法の才能があるんだ。だからそんなに心配そうにしないで。慣れるまでは俺がちゃんと守るから」


さっきから不安と緊張が見て取れたノエルも俺の言葉に安心したようで、グッと杖を握り締めて強く頷いた。14歳の女の子に急に魔物と戦って強くなれなんて、いくら何でも怖いよね…


「さて、装備も整ったし、低級魔物を狩りに行こう。最初は直ぐ戦うんじゃなくて俺が戦うのを見てて。で、しばらくしたらみんなに魔法を覚えて貰うから、少しづつ練習していこう」


ノエル、ナジ、オルトはそれぞれ魔法の特性を持ってるし、レビーもレベルが上がれば魔法を覚えるかもしれない。奴隷契約した後、なんとなくだが魔法を覚える事が出来る気がしてるんだよな。

とりあえず全員のステータス確認しとくか。


(鑑定)


名前:オルト

年齢:27

LV:4

種族:人族

HP:33/33

MP:28/28

攻撃力:21(+10)

防御力:41(+32)

魔力:20

魔防:17

俊敏:23

幸運:10

スキル:風属性魔法LV1(new)、土属性魔法LV1(new)、短剣術LV1(new)、(酒造)、(二刀流)

恩恵:ステータス補正(低) LV1(new)、無詠唱LV1(new)、魔力操作LV1(new)、魔力感知LV1(new)、魔法命中率LV1(new)、言語理解LVー

状態:正常、奴隷契約

称号:犯罪奴隷(濡れ衣)、ゼン・コウダの奴隷

装備:

ゴブリンダガー(効果:攻撃力+10)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

探索用ブーツ(効果:防御力+20)


名前:ナジ

年齢:20

LV:3

種族:人族

HP:30/30

MP:24/24

攻撃力:12(+3)

防御力:40(+32)

魔力:27(+7)

魔防:18

俊敏:22

幸運:8

スキル:商人LV1、火属性魔法LV1(new)、風属性魔法LV1(new)、(槌術)、(盾術)

恩恵:ステータス補正(低) LV1(new)、無詠唱LV1(new)、魔力操作LV1(new)、魔力感知LV1(new)、魔法命中率LV1(new)、言語理解LVー

状態:正常、奴隷契約

称号:ゼン・コウダの奴隷

装備:

初心者の杖(効果:攻撃力+3、魔力+5)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

探索用ブーツ(効果:防御力+20)


名前:ノエル

年齢:14

LV:1

種族:人族

HP:18/18

MP:21/21

攻撃力:8(+3)

防御力:38(+32)

魔力:14(+5)

魔防:8

俊敏:17

幸運:12

スキル:水属性魔法LV1(new)、風属性魔法LV1(new)、(料理)、(杖術)

恩恵:ステータス補正(低) LV1(new)、無詠唱LV1(new)、魔力操作LV1(new)、魔力感知LV1(new)、魔法命中率LV1(new)、言語理解LVー

状態:正常、奴隷契約

称号:ゼン・コウダの奴隷

装備:

初心者の杖(効果:攻撃力+3、魔力+5)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

探索用ブーツ(効果:防御力+20)


名前:レビー

年齢:13

LV:1

種族:人族

HP:19/19

MP:12/12

攻撃力:14(+6)

防御力:38(+32)

魔力:5

魔防:8

俊敏:19

幸運:15

スキル:剣士LV1(new)、(風属性魔法)

恩恵:ステータス補正(低) LV1(new)、無詠唱LV1(new)、魔力操作LV1(new)、魔力感知LV1(new)、魔法命中率LV1(new)、言語理解LVー

状態:正常、奴隷契約

称号:ゼン・コウダの奴隷

装備:

初心者の剣(効果:攻撃力+6)

皮の胸当て(効果:防御力+12)

探索用ブーツ(効果:防御力+20)


(なあ、ナヴィ。全員にゼン・コウダの奴隷って称号が付いてるんだけど?しかも潜在スキルが覚醒してる)


〔マスターとの奴隷契約で取得したものですね。この称号によりマスターからの恩恵を受ける事が可能となり、ステータス補正のスキルを付与出来ました。また成長するにつれ、マスターが保有する他のスキルも習得しやすくなるでしょう。潜在スキルも契約の影響で覚醒したようですね〕


(へぇ、じゃあ恩恵って別に区分けされてるスキルってもしかして俺との奴隷契約で得たスキルってこと?)


〔はい、マスターとの奴隷契約、または従属契約などの繋がりが切れた場合は消滅するスキルです〕


(ああ、だからレビーの冒険者登録の時に書けなくなるって言ってたのか。っていうか、俺との奴隷契約で潜在スキル覚醒するわ、恩恵スキル付与されるわ、俺の保有スキル覚えられるわ、《ゼン・コウダの奴隷》って称号、優秀過ぎやしないかね)


「ん?ナジ、せっかく杖を買ったけど、君にはメイス系の槌の方が良かったかもしれないね」


「え?」


「ああ、今鑑定したんだけど、槌術を覚えられそうなんだよ。あと盾術もだな。装備買い直そうか。オルトも二刀流のスキル覚えられそうだし、短剣もう一本買っておこう」


そう言うと俺はササッとメイス、盾、短剣を購入し、ナジとオルトに渡しておく。


「ノエルは杖術覚えられそうだからこのまま杖で大丈夫。レビーも風属性魔法覚えられそうだぞ」


全員呆気に取られているが、無視して森に向かうことにした。慣れてください。


森に着いたので、早速索敵で魔物の位置を探る。前方2時の方角80m先にゴブリンが2体。11時の方角100m先にはグレイハウンドが3体だな。


「ゴブリンとグレイハウンドが近く、と言っても80m先にいるから、狩りに行こうか。なるべく気配を消して近づくよ、みんなは初心者だからね」


そう言うとゴブリンに向かって歩き出す。みんなも後を付いて来るけど、かなり緊張しているのが見なくてもわかる程だ。


「そんな緊張しないでよ。戦うのは俺なんだし」


少し笑いながら声をかけみんなの緊張を解し、ゆっくりゴブリンに近づいていく。20m程の距離になっただろうか、まだゴブリンはこちらに気づいてはいないようだ。


「先ずは剣でゴブリンを倒すけど、打ち合いと言うかゴブリンの攻撃を受けたり避けたりしながら、どんな風に戦うかを見てもらうので、じっくり戦いを見ててね」


「はい!」


「レビー、魔物の近くで大きな声は……」


俺がそう言い終わる前にゴブリンがこっちに気づき


「ギャギャギャガギャー!」


と、うるさい奇声を上げながらこっちに向かって走り出した。


「わー!ゼン様ごめんなさい!」


レビーが驚いてその場に立ちすくむ。


「大丈夫、レビー、俺が戦うとこちゃんと見てなよ?」


俺は走ってくるゴブリンの1匹に足を掛け転ばせると、もう1匹の胴に一閃。上下に別れたゴブリンはその場にドシャッと倒れた。


しまった、一瞬過ぎた……


転んだゴブリンが起き上がり、俺に向かって棍棒を振り上げる。スっと横に身体をズラして躱しゴブリンが反転するのを待つ。

馬鹿の一つ覚えのようにまた棍棒を振り上げながら向かって来るので、俺は剣で棍棒を受け、その剣を下に向けて棍棒ごとゴブリンの攻撃をいなす。

ゴブリンはたたらを踏んで前のめりになるもまたしても突っ込んできた。


「いいかーみんな、相手の攻撃を良く見る事が大事だよ。受けられる攻撃なら受けて、受けきれなさそうなら、躱したりいなしたりして相手のスキを伺う事。無理に攻撃したり突っ込んだりしないで、魔法でスキを作ったりしながら戦う事を先ずは覚えてね」


もう何回かゴブリンの攻撃を受けた俺は、なるべくゆっくりとゴブリンに袈裟懸けの攻撃を入れてみんなが攻撃の瞬間を見れるように心掛けて倒した。

戦闘の音か血の匂いに誘われたのか、索敵で見つけていたグレイハウンドが3体こちらに向かって来るのが見える。


「じゃあ次は魔法で攻撃するよー」


俺はグレイハウンドに向けてウインドカッターを放つ。

先頭のグレイハウンドの身体が綺麗に左右に別れ、ズシャーっという音と共に倒れ込んだ。後続の2体は一瞬怯むもそのまま走りこんで来る。右側のグレイハウンドの目前にアースウォールを出現させ、勢いよくぶつかった事を音で確認しながら左側のグレイハウンドの首を下段からの逆袈裟懸けで叩き切った。すぐさまアースウォールを解除し、残ったグレイハウンドに向かってウィンドカッターを放ち絶命させる。

3体のグレイハウンドも難なく倒した俺は索敵を使い周囲を確認しながら振り返った。

みんなちゃんと見れたかな?


「魔法での戦い方はこんな感じかな。距離を取って先制攻撃、複数を相手にする場合は相手の視界を奪ったり行動を制限したり、自分が安全にそして優位に戦えるように戦いをコントロールすること。分かったかな?」


ん?みんなポカーン顔なんだが……


「あれ?見えなかった?」


「……いえ、そうではなく。複数属性の魔法を詠唱無しで素早く放つなど……ましてや剣も使いながらなんて、到底我々に出来るものでは……」


「え?大丈夫だよ。詠唱無しも俺のギフトの効果でみんな出来るし。詠唱速度だってこれからどんどんレベルが上がってくから、それに合わせて速くなるよ?」


「「「「え?」」」」


いや、そんなユニゾらなくても……


「んー……みんなのスキルやレベルが見れる魔導具作るか。となると、素材とか魔石が必要だな…ダンジョン潜るかな」


〔パーティーを組んでいるので、マスターが倒した魔物の経験値がパーティーメンバーに分配されますから、しばらくはマスターだけでダンジョンに行きパワーレベリングするのはいかがでしょう〕


(それも有りだな。まあ、今日は何体かそれぞれ個別に倒して貰って感覚掴んでもらって、多少レベルアップしてから本格的なレベルアップに入るか)


「じゃあ、次はゴブリンと実際に戦ってみようか」


顔面蒼白なメンバーには悪いが、魔物との戦いに慣れて貰わないとなのでね。

多少強引ではあるが、一人一人にゴブリンと戦って貰う。男どもは問題ないが、やはりノエルが心配だな。案の定、ノエルは杖で何とかゴブリンの攻撃を凌いでいるが、レベル1なので危なっかしい。事前にウィンドカッターが使える事、7発は撃てる事は伝えてはいるが、苦戦を強いられている。

それでも何度かゴブリンの攻撃を躱したり杖で受けたりするうちに、恐怖より悔しさが上回ったようだ。顔つきが変わった。


「ウィンドカッター!」


ノエルは杖でゴブリンの棍棒を払いゴブリンがよろけた隙をつきウィンドカッターを放った。近距離だ、当然ゴブリンに当たり背中から横腹を抉るように切り裂いた。


「グギャーーー!!」


聞ぐるしい悲鳴と共に、その場に倒れる。

無事仕留める事が出来た。

ノエルはギュッと杖を掴んだまま倒れたゴブリンを凝視し、動かなくなった事を確認するとその場に崩れた。


「ノエル、よく頑張ったな」


俺はポンポンとノエルの頭に手を置くと、ノエルの緊張も解れたのか俺の足にしがみついて泣き出した。


「うわぁーん!ゼン様怖、怖かったですー!!」


「怖かったよな、ごめんな。無茶な事させて」


ふるふると頭を振り


「ひ、必要な…ことだって、ひっく、ゼン様言ってました。ひっく、だ、だから、ノエルは戦います!ひっく」


泣きじゃくりながら言うセリフでは無い気がするが、うちの子は頑張り屋さんだな。

ノエルはまだ14歳の女の子で、怖い思いも辛い目にも合ってきたから、ほんとは何の心配もないように守ってあげたいんだけど、そういう訳にもいかなくて……なんか心が痛むわ……


「よし、もう少し戦いに慣れる事が大事だから、あと2~3回ゴブリンと戦って貰うね。みんな、武器と魔法を上手く使って感覚掴んでくれ。装備は十分だから、ゴブリンの攻撃ぐらいでそうそう怪我もしないけど、なるべく攻撃は喰らわない様にすること。これは戦いにおいて基本的な事だからね」


俺は念を押すと索敵で見つけておいたゴブリンの元にみんなを誘導し、また一人一人戦わせるという初心者には厳しいサイクルで実践を積ませていった。

そのおかげか、全員レベルも上がり、少し余裕も出てきたように思う。後でパーティーとして連携プレーも出来るように指導していかないとなんだけど、俺、ソロだからな……まあ、なんとかなるよな。ハハッ。


〔マスター、連携プレーの指導は私もフォロー致します〕


(おお、ナヴィさん、さすが頼もしい)


俺は今後の予定をナヴィと話し合いながら街に戻る事にした。


「よーし、今日はここまで。倒したゴブリンの討伐部位を取って焼いて埋めたらギルドに提出に行こう」


「ゼン様、今日倒したゴブリンの魔石も売れるんですか?」


「そうだよ。ノエルが倒したゴブリンの魔石もちゃんと売るし、それはノエルの取り分だからな」


「ほんとですか!?」


「もちろんだ。パーティーでは分配制だけど、今日はみんな魔物の初討伐だからね、自分が倒した魔物の魔石を売った金額は自分で受け取るといいよ」


「ありがとうございます!」


うむ、いい笑顔だ。


疲労困憊に見えたノエルやレビー達年少組も、体力的にはまだ少し余裕がありそうな年長組も、初めて倒したゴブリンの魔石の代金を手にする事がとても嬉しそうだ。さっさとギルド行って換金して貰おう。

ギルドに着き早々に受付に向かう。


「レジータさん、常駐依頼のゴブリン討伐とグレイハウンドの討伐してきました。これ、討伐部位です」


「ゼンさん、お疲れ様です。常駐依頼の討伐ですね。はい、討伐部位確認しました。こちら討伐料です」


レジータさんがにっこり微笑んでくれている。役所のようなイメージから、随分柔らかくなったな。


「ありがとうございます」


少しは仲良くなれたのかな。ちょっと嬉しい…


「じゃあみんな隣の受付で魔石とグレイハウンドの毛皮を売ろうか」


そう言うと待ってましたとばかりにレビーが受付に飛びつくような勢いのまま「おっちゃん、これ!ゴブリンの魔石!俺が倒したんだぜ!」と、受付のおっさんにキラキラした目で魔石を見せた。

レビー、嬉しかったんだねぇ。

びっくりしたおっさん。「お、おう、そりゃすげーな。坊主」とちょっと引き気味である。


「すみません、驚かせて。こらレビー、落ち着きなさい」


レビーの頭をポンポン叩き、受付のおっさんに頭を下げる。


「いや、大丈夫だ。坊主は初めての討伐かい?」


「うん!ゼン様に教えて貰ったんだ!」


「そうか、そりゃ良かったじゃないか。これはゴブリンの魔石か。査定するからちょっと待ってな」


「みんなも魔石出して」


「はい」


オルトに続きナジも受付に魔石を置く。ノエルは少し躊躇いながら、名残惜しそうに魔石を置いた。

初めて倒した魔物の魔石だもんね、記念に持っときたかったのかね。


「みんな魔石のお金受け取ったね。じゃあ宿屋に戻って食事の後に今後の事を話そうか」


「今後の事ですか?」


「大したことじゃないよ。まあ、ナジにもやってもらう事も有るからちゃんと説明するさ」

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