第12話

ぺちぺち。


…ん?


ぺちぺちぺち。


なんだ?…何か顔に当たってる?

俺は顔に刺激を受けて、ゆっくり目を開ける。視界はまだボヤけており頭も働かない。

ん?誰かいるの?


ぺちぺち。


痛たた、なんだ?

しょぼつく目を擦りクリアになった世界に天使がいた。

あ、いやネラだった。


「ん〜!ふわぁ〜…ネラ、おはよう。良く眠れたか?」


大きな欠伸を一つ、伸びをしながらソファから起き上がった俺はさっきから頬をぺちぺちしていたネラをワシワシ撫でる。

こくんと頷いたネラは相変わらず可愛いすぎる。


「起こしてくれてありがとな。顔洗って服着替え…」


ん〜、そういやみんな風呂とかどうしてるんだ?

俺はこの2~3日朝の支度も風呂も浄化クリーン魔法で済ましてるな。土属性魔法の風呂って昨日も一昨日も作ってなくない?やべぇ、もしかして水で身体拭かせちゃってる?

早くここに風呂作んないとだな。とりあえず今日はみんなに浄化魔法クリーンかけてあげよう。


浄化クリーン


俺は自分とネラを綺麗にしてネラを連れて異空間を出る。

あ、テントの中じゃん。そっか俺が開けると出口は入ったとこになるのか。


「ネラ、異空間の扉開けれるか?」


俺は自分で開けた異空間の扉を閉じてネラに聞いてみた。

こくんと頷きネラが異空間の扉を出す。開けると案の定みんなが待っていた。


「おはよう、みんなこっち来て」


俺は異空間に入って貰いまず全員を浄化クリーンする。


「はい、鑑定カード。自分の魔力を登録してくれ。確認する時は魔力を流すとステータスが表示されるようになってるんだ。あと、画面をタップすると、称号とかの付随情報に切り替えられるようになってるから、各自これでステータスは確認してくれな」


全員に鑑定カードを渡しネラをノエルに託すと、俺は異空間を出てテントに戻った。

さっさと魔石や素材を集めて、異空間を快適にせねば。

テントを畳み空間収納に入れたらミノタウロス倒して20階層に行こう。

あーでもそこも素材としては大したものがないからなぁ。偶に魔物が落とすドロップ品とかくらいだし、30階層行った方が良いな。ミノタウロス倒して指輪で30階層に飛んでちょい戻ってクイーンアント倒すか。うん、それが良いな。


〔お待ちくださいマスター、21階層でキラーアントやマッシュイーターから素材を調達してください〕


虫とキノコからなに採るの?


〔キラーアントの外皮とマッシュイーターの胞子です。下水処理場と大型オーブンの錬金素材として使います〕


へぇ、んじゃ20階層帯でも素材剥ぎが必要なのね。

大量に必要?


〔胞子はそれほど多くは必要ないですが、あっても邪魔になる訳でもないので、余分に取っておきたいです。外皮はオーブンのほかに魔導コンロも作成しますので、大量にあっても良いでしょう。他の魔導具にも使う事も有りますので〕


ふんふん、なるほどなるほど。

20階層帯でも素材は剥いでおくか。何かに使えるかもだしな。


俺は早速ミノタウロスを倒し21階層に向かった。

索敵に引っかかった魔物を手当り次第狩っては剥いでいきそれなりの量を確認すると予定通り30階層の指輪で移動する。奥の間からボス部屋戻って入口から出ると、再度ボス部屋に入った。

ちゃんとクイーンアントが鎮座している。

指輪で20階層と30階層行き来すればボスが待っててくれるし、ネームド魔石もそこそこ集められるかもな。

サクッとクイーンアントを倒し20階層に戻って入口から出てまた入る。

あれ?ミノタウロスがいねぇ…


〔ボスのリポップに制限時間があるのでしょう〕


えーマジか…


〔次のリポップは凡そ3時間後と思われます〕


って事は、一日3個から4個しか集められないのか?うーんまあそんなもんか。

なら30階層でアンデットの魔石集めして、時間になったらボス部屋行くか。

周回ルートはボス部屋巡ってアンデット倒して魔石集めに1時間、10階層帯戻って高値素材魔物達の素材剥ぎ作業に1時間半くらい、21階層で虫とキノコの素材剥ぎ作業に30分、ボスがリポップするだろうから、またボス部屋巡り、だな。

よし、流れは決めたし、サクッと終わらすか。2周目だからアンデットでの魔石集めなんだけど…今日は10階層帯で素材剥ぎやってないし、2時間くらい素材剥いでおくか。

俺はさっそく索敵で魔物を探し始めることにした。


ふんふんふーん♪


「素材剥ぎ〜♪素材剥ぎ〜♪剥げば剥ぐほど金になる~♪」


〔マスターその歌は如何がなものでしょう〕


えー?ダメ?

楽しいじゃ〜ん♪


「素材剥ぎ〜♪素材剥ぎ〜♪あそこの牛も俺のもの〜」


っと、歌いながらウィンドカッターでグラスランドブルを首チョンパ。


「ついでにあっちも俺の物〜♪」


スパンッ

アルクシープが倒れる。

さっさと素材を剥いでいかないとダンジョンに吸収されちゃうからな〜。

俺は慣れた調子でグラスランドブルもアルクシープも綺麗に素材にしていった。


途中昼休憩を挟みながら10階層から30階層帯を行き来して3周目を終えると素材も魔石もそれなりに集まっている。

他の冒険者達と会わないように気を使いながらの調達作業の割には良い感じだ。

俺は少し早いが15階層に行きテントを張ることにした。

異空間から中に入ると、ネラとレビーが黒板に何やら色々書いている。ノエルはマヨネーズを作っており、ナジとオルト、ジガンの姿はなかった。


「ただいま」


「おかえりなさいませ、ゼン様」


「ゼン様おかえりー!」


とととっと小走りでネラが俺に抱きついて上目遣いで見上げてきた。

ぐふぅっ。可愛い!なんなのこの天使!


「ただいまネラ」


俺はネラの頭を撫でながら鼻の下を伸ばしてしまう。つい鼻を触ったのは鼻血が出てるか確かめた訳じゃない。ないったらないのだ。


〔……〕


呆れないでナヴィさん!


「ノエル、マヨネーズ作り順調?」


「はい、かき混ぜるのに時間が掛かるので、それ程多くは作れませんが保存用の瓶に2つから3つ分は作れてます」


腕を揉んだり肩を回したりしながらノエルはニコニコとかき混ぜている。かき混ぜる魔導具作ってあげよう…


「あんまり無理しないでいいからな」


「はい、ありがとうございます」


「レビーとネラは何してたんだ?」


ネラを抱っこしてレビーのいるテーブルに向かう。


「ネラと一緒に絵を描いてました。後は文字を覚えたりもしてました!ネラは俺より覚えるの早いんですよ」


ニカッといい笑顔で笑いながらレビーはネラの頭を撫でた。ネラもニコニコだ。

いいお兄ちゃんしてるなぁ。


「そうか、レビーもネラも偉いぞぉ」


俺はレビーの頭もわしゃわしゃと撫でる。

少し照れたようにモジモジするレビーも可愛いすぎるんだが。俺の父性よ鎮まれ!

と、そんな心のざわめきは置いといて


「俺はこれから錬金するから、俺の部屋っても、まだ何にも無いけど、3階の奥の部屋に居るから何かあったら呼んでくれていいからね」


そういやまだみんなに部屋の事も説明してなかったな。後で言わないと。

俺はネラを降ろし3階の自室に向かう。

先ずはノエルの為にもハンドミキサー作るか。


ナヴィ、ハンドミキサー作るから魔法陣お願い。


〔承知致しました〕


ナヴィにお願いして魔法陣を準備。錬金に必要な材料を揃えて錬金開始。あっちで使った事はなかったけどCMとかで流れてた物を上手くイメージ出来たようで、それなりの物が出来上がった。

動力は魔石になるので、魔力が無くなったら魔石交換が必要だけれど、コードレスだし良いんじゃなかろうか。

もう2~3個作ったら下水処理場用の魔導具の錬金に取り掛かろう。


集中して錬金作業を進めていく。

随分と時間が経った気もするけど、まだ完成していない下水処理の魔導具。

水分はろ過して浄化クリーンして、人気の無い川に転送する。この一連をそれぞれ連動して行える魔導具は完成した。固形物、ゴミや汚物等は一旦火属性魔法で灰にしてやはりこれ浄化クリーンしたら人気の無い山の奥に転送する。浄化クリーンによってどちらも廃棄したところで環境への問題は無い。後は定期的に下水処理場自体の浄化クリーンと下水道の浄化クリーン、下水道を上手く流れさせるための処理を魔導具で対応出来れば、下水処理場は完成だ。設置も考えないとだな。今日中には終わるだろう。

後は風呂とかシャワーの魔導具に…


〔マスター、ナジが呼んでます〕


へ?


「ゼン様、大丈夫ですか?」


「え?あ、ナジか?」


「ゼン様、食事は食べられましたか?」


「あ、いやまだ、かな?」


ナヴィ錬金しだしてどのくらい経った?


〔3時間程でしょうか。集中されておりましたので邪魔はしませんでしたが食事を取られた方が良いでしょう〕


おっとと、結構時間経ってたのか。

俺は慌ててドアを開けると心配そうな顔をしたナジが立っていた。


「ごめんごめん集中してた。みんなもう集まってるんだね」


ほっとした表情で「はい、みな本日のご報告と今朝頂いた鑑定カードのお礼をお伝えしたくてうずうずしてますよ」と、リビングに誘導してくれる。

そこにはいい笑顔のオルト達全員が揃っていた。


「待たせちゃってごめんな」


「いえ、ゼン様食事の方は?」


「うん、まだなんだ。錬金に夢中になってたよ」


オルトの問いにナジと同じ事聞くのが可笑しくて、つい笑ってしまう。


「じゃあ今日はどうだったか教えてくれ」


「では俺から。ゼン様が狩ってこられた素材を冒険者ギルドに買取して貰いました。朝イチにお願いしたので夕方に査定が完了しまして、金貨10枚と銀貨38枚を受け取りました。また、市場で手軽に食べられるものを中心に色々購入しています。錬金素材や小麦粉、果物等の商材作成に必要な材料も購入しました。支出額は金貨2枚と銀貨80枚です。明日も市場に行きますので、必要なものがあれば仰ってください」


ナジが報告してくれた内容は完璧だな。うん、期待以上の働きだ。ざっと空間収納を確認する。


「ありがとう、手軽な食べ物はまだまだ欲しいし、錬金素材も色んなものを満遍なく購入して欲しい。商材用の材料はいったん大丈夫かな」


「承知しました」


ぺこりとナジが頭を下げる。

収入も思った以上だし、支出も全然問題ない。もっと掛かると思ってたのにな。


「では次は私が。ジガンの装備や持ち物を探しに貧民街の店に行って参りました。少し値は張りましたが装備一式と金床ハンマーはジガンの物を購入出来ました。また、ジガンと二人で酒を出す店を幾つか回りまして、店主に酒の作り方等を聞いているうちに酒造スキルを習得致しました」


ふふふっとオルトが笑う。

ちょっと自慢げな表情である。


「スキル覚醒すんの早すぎじゃない!?」


「先ずはエールを元に改良していこうと思いますので、酒蔵さかぐらを用意したいですね」


「その辺の情報はワシが知っとるから役に立てそうじゃ。どこぞの土地を購入して酒蔵を作ろうと思うんじゃが良いかの」


なんと!?ジガンにそんな知識が!

一気に酒への欲望が湧き上がる。ビール!ビールが飲みたい!


「土地はいらないよ、ここの地下に作ってくれ!」


「え?」


「着いてきて」


俺はそう言うとさっさと地下に向かって歩き出した。ちょっとスキップしちゃいそう。あははん。

俺の後ろをオルトやジガンだけでなく全員が後を着いてくる。スキップしなくて良かった。

地下1階はだだっ広い空間で、まだ何もしていないが一応ジガンの鍛治設備を作る予定ではいた。それだけだとまだまだ空間に余裕はあるので酒蔵を作るのは問題ない。


「ここに作って良いよ。あとジガンの鍛治設備の魔導具もここに作る予定。温度や湿度なんかは好きに調節出来るから言ってくれな」


エッヘンと胸を張りオルト達を見やるとポカンとした表情になっていた。うむ、そろそろ慣れてくれ。


「こちらに酒蔵を作っても良いのですか?建物を建てる事になりますが……」


「ああ、構わないよ。高さが必要ならそれも調整出来るから。あ、建てるのはジガン?それとも職人に頼むの?職人に依頼するなら何処に建てて貰ったものを収納かな」


「あ、いえ。酒蔵を建てるのはジガンが出来るそうなので、資材を購入すれば、私も手伝いますし大丈夫です」


〔マスター、あちらの世界の知識も収集しております。酒蔵や多少の酒造に関してフォローは可能です。オルトやジガン達を直接フォロー出来るよう大賢者をアップデート致します〕


ん?

アップデート?アプリかよっ!


〔完了致しました。これよりマスターと従属契約をしている者へ直接フォローを開始致します〕


なんと…


「うわぁっ!」


「なんじゃ!頭ん中で声が!」


「えっ!?え!?」


阿鼻叫喚…


「みんな、落ち着いて!」


俺は大賢者のアップデートでナヴィと会話やフォローが可能になった事を伝え、その間ナヴィも説明を続け、なんとか状況を把握して貰った。

まあびっくりするよね。俺は後のことはナヴィに任せ錬金作業に戻ることにした。

俺はオルト達と離れた状態では会話は出来ないが、ナヴィとは繋がっているので逐一報告して貰う必要もなくなりそうだな。

とりあえず居住空間を作る事に注力しよう。

あーでもそろそろみんなをダンジョンに連れて行って戦闘経験積んで貰おうか。商材作成をしながら、2~3人っつダンジョン行ってスキルのレベルアップに勤しんで貰おう。


〔ダンジョンでのスキルアップや戦闘経験についても私がフォロー致します〕


良いの?


〔はい〕


ブラックとか言わない?


〔...はい〕


助かるわぁ。ナヴィ様々だな!

じゃあ頼むよ!


それからしばらくはダンジョンでの周回と錬金作業、その間みんなはそれぞれの作業を進めつつ、かわりばんこにダンジョンでの戦闘経験を積むことで日々を過ごした。

必要な情報伝達はナヴィが統制してくれた事で特に問題も起こらず、メキメキと戦闘の頭角を現してくるレビーや、二刀流を覚醒させたオルト、何故か建築のスキルを習得したジガン等、全員が凄い勢いで成長した。10日が経過した今、全員LV25以上、俺もLVが36になった。

スキルもレベルが上がっており、もう誰一人Bランク冒険者に負ける事はないだろう。

異空間も快適空間に様変わりし、後は注文していたベッドを入れたら宿も引き払っても良さそうだ。

いや〜順調過ぎて怖いわぁ。はっはっは。

なんたって、資金よ!

今までの素材の買取金のおかげで支出はあったものの現在の資金は金貨200枚を超えている!

商会を立ち上げてくれたナジとオルトのおかげで錬金で作った品物が飛ぶように売れているのだ!

そう、鑑定く~ん!

じゃなかった、鑑定カード!ナヴィに言われて更に追加で作った分も完売したし、今まで主流になっていた魔導コンロよりも燃費も使い勝手も良い俺様印の魔導コンロも良く売れたのだ。魔物の素材の買取金額だけでも金貨130枚にはなったのに、錬金物まで売れたものだからウハウハなのである。

こうなってくると、錬金スキルを誰かに覚醒して貰いたい。俺のマークは錬成する時に俺の魔力を付与する必要があるから、そこをクリア出来ればうちの子に手伝って貰えるよな。

何か無いものか…

ま、それは後にするか。

ちなみに商会の名前は《蒼銀の月》。マークに因んで命名した。俺の髪の色のイメージであり、決して厨二病なのではない。ないったらないからねっ。


〔ブループラチナム…〕


ナヴィさん!?


〔いえ、何でもございません、冒険者パーティ、青白金ブループラチナムのマスター〕


ナヴィさん!?やめてっ!恥ずか死ぬからっ!!

それだって俺の髪とか瞳の色をイメージしただけだって!


〔青白金ならプラチナブルーでは?マスターの瞳はプラチナブルーというよりはブルーグレーの色合いに近いですが〕


もうやめて…

俺のライフHPは0よ……


〔冗談です〕


ナヴィさん、この10日間俺だけでなく、うちの子全員のフォローしてて大変だったよね。ストレス…解消出来たかな…くすん。


ナヴィ、明日の朝は全員リビングに集まるように伝えてくれる?


〔承知致しました〕


俺は削られたライフHP…を回復させるべく、今日はもう寝る事に。

明日は今後の展開とかベッドの受け取りとか、拠点をどうするかとか、みんなと話し合おう。

みんなの装備も新調したいし、やりたい事はいっぱいあるんだから…な…


〔おやすみなさい、マスター。先程のは少しマスターと会話したかっただけなのです。厨二病でも私は気にしませんよ…〕


ナヴィがなんか言ってる…?

ごめん...また明日にお願い…ねむ...くて…


〔何でもございません。良い夢を〕

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