第10話 幽霊の正体見たり枯れ尾花
「まったくこいつらときたら……。朝起きたらビンタだな」
上体を仰向けにしようと思ったその時、急に用を足したくなった。
夕食の時に飲んだアイスコーヒーの所為だろう。
「よいしょ」
立ち上がって思い出す。この旅館の部屋にはトイレがないことに。年代モノな旅館が理由なのか三階の廊下に共同用のトイレがある。
今俺らがいるのは四階なので下に降りる必要があるのだ。
めんどくさいが漏らすわけにはいかないので、部屋を出る。
「随分暗いな……」
扉を開けるとそこは灯り一つない世界が広がっていた。
さすがに暗闇を歩くわけにはいかないので、スマホの灯りを点ける。
部屋を出るには先生に許可が必要なんだが、急を要する事態だ。さっと済ませてしまおう。
そう思った俺は足音を立てないように3階へ向かった。
トイレには誰もいない。
「まぁ、みんな寝てるし当然か」
そう呟き、用を済ませ、部屋へ戻ろうとしたその時。
ふと、川辺の話を思い出す。
関西の旅館で恐怖体験をしたと言っていた。たしか404号室。
よくありそうな話だと思ったが、何かが引っかかる。
四という数字は縁起が悪いため部屋の番号にはしないところが多いと聞くが……
頭を振る回転させ泊っている部屋のプレートを思い出して鳥肌が立った。
404号室。
「関西の旅館……404号室……いま俺たちがいるのは京都……」
もしかして川辺が話していた旅館ってここのことじゃ……。
嫌なピースがハマった。
「あれ? いやいや……そんなことないよな」
あいつの作り話に決まっている。
うん、そうだ。そう自分に言い聞かせるが、心臓の鼓動は収まらない。
「まさかね……」
背後に気配を感じて振り返るが、誰もいない。
「ふぅ……」
何もないことに安堵する。
トイレを出ると、そこには先ほどまでなんともなかった廊下が一瞬で恐怖へと変わっていた。
正直めちゃくちゃ怖い。
いま俺のいる位置は三階だから、階段を上がる必要がある。
その後も、暗い廊下が広がっている。
「おかしいな、先生はいないのか?」
普通なら先生が見回りをしているはずなんだが誰もいない。
そんな状況も、この暗闇の恐怖を二倍増しにしている。
「川辺のせいだ……あの野郎」
毎度毎度あいつに踊らされていることに無性に腹が立つ。今回は意図してないとは思うが……。
でたらめかもしれない怖い話を聞かされただけで、こんなに脚が竦むとは、なんとも情けない。
「ふぅ~」
俺は胸に手をやり、深呼吸をする。
落ち着いた後に、クラウチングスタートの姿勢を取る。
俺のビジョンはこうだ。
全速力でこの灯り一つない暗闇を突っ切る。
そして、404号室の部屋に入り、布団にダイブ!
「よし!」
我ながら完璧な作戦だ。
決してビビっているわけじゃないからな。そこは勘違いしないでもらいたい。
「スリー、ツー、ワン! GO!」
大きな足音を立てて、四階へ上がる。
暗闇を突っ切り、404号室へ。
「ぜ~は~。ぜ~は~」
ミッションコンプリート!
俺は一人で親指を突き立てた。
部屋の中は静寂に包まれていた。
当り前だ、みんな寝ている。
「俺、何やってんだ?」
急に虚しくなったので、音を立てないように布団の中へ。
意図してない川辺に踊らされはしたが、ようやく眠ることができる。俺はそっと目を閉じた。
………
……
…
眠れねぇ!!!
寝る前は全然気にならなかったことが、恐怖に支配された途端に、ものすごく気になるようになってしまう。
例えば、カーテンが少し開いた窓に、もしかしたら幽霊が覗いてくるんじゃないか? とか、
さっきから、天井のシミが顔に見えてしまったり、外で吹いている風の音が女のすすり泣く声に聞こえて、ゾッとしたり。
俺だけどうしてこんな思いをしなくてはならないのか……。
ふと、皆の様子が気になったので、周りを見ると、グースカいびきを立てて寝ていた。
幸せそうな寝顔を見て、自分だけそわそわしてるのがアホらしくなってきた。
「寝よう」
俺は無理やり目をつぶり、眠りにつくことにした。
ちなみに俺が爆睡したのは日が昇り始めた頃だった。
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