第3章 修学旅行

第1話 そうだ、京都へ行こう

 お弁当生活最終日――


 今日で渡辺のお弁当とはおさらばか……。

 そう考えるととても悲しい。


 自然と目から涙が零れてくる。

 美味しさのあまり、気づいたら昼休みが始まって10分足らずで、お弁当を完食してしまった。


 大きく手と手を合わせる。


「ごち!」

「おそまつさまでした~♪」

「五日間ありがとう。手が込んでて大変だっただろ」

「ぜ~んぜん。周くんが美味しく食べてくれるから、嬉しくて張り切っちゃった♪」


 笑顔を浮かべる渡辺。


「えへへ、ずっと恩返ししたかったから喜んでくれてよかった~。また今度作ってあげるね♪」


 俺にどういうお礼をしたらいいかずっと考えていたのだろう。

 渡辺は吹っ切れたような笑みを浮かべた。


「あはは。そっか、それなら良かったよ」

「あの~。あーしたちもいるんですが」


 宮本がジト目で俺らを見る。


「みやっちゃん、口にご飯粒付いてるよ~。ウケる!」

「あっ、ほんとだ……取って~」

「もー自分で取りなよ。子供じゃないんだから」


 突如、教室の扉が勢いよく開いた。

 力強い足音がこちらに向かってくる。


「よ~、皆さんお揃いで」


 オタ芸のドンこと、川辺が姿を現した。


「川辺くん待ってたよ。粟井くんが会いたいって言ってた」


 おい、待て内海。俺の会いたい理由とお前が思ってる会いたい理由は絶対違うからな!


「これが渡辺さんの弁当か~めっちゃ羨ましい~。っていうかもうないじゃんか」


 俺の弁当を覗き込む川辺。

 お前が来たら一口せがまれると思ってもうすでに完食しておいた。グヘヘ。


「てか、どうしてそんなに睨んでるんだよ? こえーな」


 おっと、いけない。

 いつの間にかしかめっ面になっていたようだ。


「二日と数時間遅刻だ、今まで何してたんだ。こっちは周りの鋭い目に耐えながらお昼を過ごしていたというのに」


 冷静に川辺に訊く。


「いやーなんか、先生に呼び出されちゃってさ」

「どうせ、俺のこの状況を見て楽しんでたんだろ?」

「まさか~。最初は楽しんでたけど、先生に呼ばれたのは本当だ」

「楽しんでたのかよ!」

「まぁまぁ、実は俺、修学旅行の実行委員に選ばれちまってさ」

「あっそ。そいつはお疲れさん」


 ん? なんだって……。


「川辺、ちょっと待て、今なんて?」

「えっ? 修学旅行の実行委員」

「修学旅行!?」


 すっかり忘れていた。そういえば、先日配られたプリントにそう書いてあったような。

 朝方までエ〇ゲをやっていたせいか記憶があいまいだ……。


「場所どこだっけ?」

「な! な! なんと! 京都でーす」


 番組の司会者のような口調で言う川辺。


 ちなみに修学旅行先は先生方と修学旅行の実行委員を含めて独断と偏見で決められるらしい。

 どういう理由で京都になったかは分からないが、まぁ。無難と言えば無難。

 趣のある場所をたくさん巡れる機会は中々ないし、いい勉強になる。


 たしかプリントが鞄の中にあったはずだ。

 おもむろに鞄を漁る。


 あった。


「えーっとなになに? 行くのは二週間後で、『必ず女子二人以上を含めた五人チームを作ってください』って書いてあるな」

「そう、そのチーム分けだが、今しがた発表された」

「えっ? 俺らで決めるんじゃないの?」

「最初はその予定だったんだがな~。渡辺と宮本を巡って戦争が起きかねないと思ったから修学旅行実行委員が独断と偏見でチーム分けすることになったんだ。そういうわけで五日間お昼休みはこっちに顔出せなかったってわけ」


 なんだ、まじめに仕事してたのか。


 やけにクラスの連中がそわそわしてると思ったが、渡辺と宮本を狙っていたってことか。

 どうりでこの五日間血の気が多いと思ったよ。

 川辺にしては、グループ分けを修学旅行の実行委員で決めさせるよう判断したのはとても賢い。


「で、どこなんだ?」

「まぁまぁ。そう慌てんなって」

「もったいぶるなよ」

「実はもう、RINEのグループに送ってあるんだ」


 RINE? メッセージを確認する。

 川辺の言う通り、『2年A組全員集合~!』というグループに通知が来ていた。


 このグループ名を考えたのは恐らく石川だろう。

 相変わらずネーミングセンスのないやつだ。


 プリントの写真が送られていたのでタップして確認する。

 粟井周介の名前を探す。


 いた。

 

 

 

 

 

 3班:川辺、粟井、内海、渡辺、宮本






「マジかよ!」

「ひれ伏せ。修学旅行実行委員の力に」


 ドヤ顔を浮かべる川辺。


「やったー! ってか今ここにいるメンツと一緒だし! めっちゃ奇跡じゃない!?」

「修学旅行実行委員すげー」


 興奮を抑えきれない渡辺。

 宮本もどことなくウキウキしている気がする。


「お前これ、どうやったんだよ」


 川辺が声を細め耳打ちをする。


「渡辺と宮本をどうするか迷ってな。石川や親衛隊と同じチームにしたら色々めんどくさいと思って、俺らと同じグループにしたほうが色々安心だと判断した。お前も知ってる人がいたほうがいいだろ?」

「まぁ、たしかに……」


 耳打ちをやめグループのみんなに聞こえるように喋り出す。


「来週はどこを巡るかを決めるから放課後集まってくれ」


「はーい」

「はーい」

「はーい」

「おーう」


 正直安心した。いきなり『適当にグループ』作れなんて言われていたら100%渡辺と宮本の取り合いで戦争が起きたに違いない。まさしく最悪な状態だ。

 

 でも今回は川辺のおかげで同じグループになれた。

 川辺にしてはファインプレーだな。

 

 うん。楽しい修学旅行になりそうだ。

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