第2話 日焼け止め
「ま、任せろ!」
動揺を隠しつつも自信満々に答える。こんなビックイベントを逃すわけにはいかない!
精一杯やらせていただきます。
渡辺がうつ伏せの体勢になる。
すまんな石川。
石川に謎の謝罪をいれ、日焼け止めの液体を掌に乗せる。
いざ渡辺の背中に触れようとしたその瞬間――
「あん♡」
喘ぎ声が響く
「ちょ、ちょっと渡辺!?」
「ご、ごめん、冷たくって」
「た、頼むから変な声は――」
「えっ? 変ってなんのこと?」
自覚なし
「あぁ、いや、なんでもない」
気を取り直して背中に触れる。
夏の太陽の日差しをもろともしない純白の肌。きめが細かく柔らかい。
ここは天国ですか? いやそうに違いない。
だが――
「あん♡ いい♡」
先ほどから渡辺の喘ぎ声が俺の男としての理性を破壊しようとしている。
だめだ! 集中できねぇ!
この状況が続けば俺、どうにかなりそう……。
「そーだ、ホック外していーよ♡」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
俺が外すの? えっ? マジでどういうこと?
「でも、それはさすがに……」
「むー、いいから外すの!」
渡辺が脚と腕を上下にバタバタと子供のように暴れだす。
「わ、わかったよ」
もしかしてだけど、渡辺、俺に意地悪をして楽しんでるのか?
まさかな……。
ホックを外すと水着の形をした日焼け痕がうっすら浮き出ていた。
ただそれだけなのにいやらしく見えてしまうのはなんでだろう……。
この水着の下には渡辺の胸が……いやいやいや集中だ。
我慢しろ、俺、理性を保て!
エ〇ゲで散々見てきたイベントだろ? これぐらい乗り越えて見せろ!
「ねー まだー? もっと塗ってよー♡」
甘えた声で塗るように促す渡辺。
「分かった……」
そんな感じで言われたら世の中の男性は誰だって断れないだろう。
周りの視線を確認しながら塗る。
「あん♡」
塗る
「ん♡」
塗る
「いや♡」
塗る
「もっと♡」
駄目だ! どうにかなってしまいそうだ。
俺の理性はもう0よ!
ここで俺の中の天使と悪魔が囁く。
「このまま胸もんじゃおうぜ。グヘヘ」
「そんなことしちゃいけません!」
「いいじゃねーかよ! ちょっと触るだけだからよ」
「ダメです! そんなことをしたら渡辺に嫌われちゃうよ!」
なんとか理性を抑えることに成功した。
俺の中の天使、ありがとな。
「あ、もう大丈夫。ありがとー♪」
なんとか、塗り終わりホックを戻した渡辺が上体を起こす。
助かった……。
夢にまでみた日焼け止めイベントだが、こんなに苦痛だとは思わなかった。
周りの奴らに聞かれてないだろうか……。
安心したのも束の間――
「じゃあ、次はあたしが塗ってあげる♪」
……
「え、今なんて?」
「あたしが周くんに日焼け止め塗ってあげる♪」
無理無理無理無理無理無理!
「い、いや大丈夫、自分でできるから……」
「ねー遠慮してなーい? ほら、早く寝っ転がって」
もう俺の理性は限界点突破してます!
少しでも俺の肌に触れたらどうなるか分からない!
渡辺がいやらしい手つきで俺の肌に触れようとしてくる。
やっぱり楽しんでるよな!
それにこの状況を他の奴らに見られたら一体どうなるか分かったもんじゃない。
そうだ、こういう時にカワエモンを――
と、思ったその時――
「さっちゃーん、ここにいたんだ! 一緒にビーチバレーしよ!」
「渡辺! こっちのチームに入ってよー!」
「石川もいるからやろうよ!」
渡辺親衛隊がテントに入ってきた。
少し残念そうな表情を浮かべた渡辺は、親衛隊に向き直る。
「あっ、いいよー!」
「やったー! さっちゃんがいれば百人力だよー!」
「任せてー! 運動は得意なんだ!」
何事もなかったかのように振る舞う渡辺。
「ていうか――」
見下した視線を一瞬俺に向ける親衛隊。
その冷たい目を見るのは何回目だろうか、もう慣れたが。
「大丈夫? 変なことされてない?」
どうやら俺と渡辺が二人でテントの中にいるのがお気に召さなかったらしい。
変なことだと? 日焼け止め塗ってただけだよ! 馬鹿野郎! 全然変なことじゃないからな!
「あたしは大丈夫だよ。それより、行こ行こ♪」
渡辺も罵られてる俺を見て察したのか、親衛隊の元へ。
「オタクの癖に神聖なさっちゃんに近寄るな」
吐き捨てるように言い放ちパラソルを離れる。
「はぁ~~~~~~~~~~」
砂浜の足音が遠ざかるのを確認してから大きなため息を吐く。
た、たすかった。
いつもの罵詈雑言を吐き捨てられたが今回は親衛隊に感謝だ。
あと少しで俺の理性がアウトバーストするところだった。
渡辺と一緒にいると寿命が縮んでいく気がする……
一息つきながらふと、川辺を見やると俺の方をみてニヤケていた。
カワエモンは役立たずだ。
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