第3話 オタクたちは語り合う
川辺、内海たちと合流した俺たちは、オタクらしくテントの中でそれぞれ好きな物の話で花を咲かす。
ふと、辺りを見渡すとクラスメイトが各々好きなことをして楽しんでいた。ある男連中が女子大学生の尻を追っかけてるやつや女生徒が下心丸出しのナンパを受けていたりと色んなやつらがいる。
「あっち~」
「それな」
それにしても、こんな馬鹿暑いのによく海に行こうなどという選択肢が何故生まれるのか疑問を抱かざる負えない……。
俺だったらクーラーでキンキンに冷えた部屋の中でエ〇ゲやアニメを観たほうが100倍有意義に過ごせそうだが……
もちろん楽しみ方は人それぞれなのは百も承知だが、やはりおかしいなと思ってしまう俺はキモオタなのだろうか。
とは言ったものの正直なところ、石川には癪だが、たまにはこういうイベントも悪くはないなと思っている自分がいる。
例えを出すなら学校の体育祭や文化祭なんかがそれだ。当日までの準備や練習やら色々めんどくさいが、いざ本番になると意外と楽しいなと思ってしまう現象。
いいかげんこれに名前を付けたいと思うのだが、何がいいだろう。
そんなことを頭の中で考えている俺は夏の日差しにやられたのか?
まぁ、石川の企みは渡辺とお近づきになりたいという下心丸出しの動機だったがな……。
あー、そう考えたらやっぱり楽しくないわ。
その渡辺は先ほどからヤンキーにナンパされている。
これで10人目か? ちゃんと数えてないがそのぐらいだ。
うんざりした顔を浮かべながら首を横に振っている。
「ヤンキーばっかだな」
川辺が口を開く。
「だな」
ほんと渡辺に寄ってくる奴って絶対付き合っちゃいけないような見た目と顔してるのは何故だろう……。
渡辺って男運ないのかもしれない。
ちなみに石川も女子大生に逆ナンされている。
あんな優男のどこがいいのかさっぱり分からん。
女子大生に囲まれて嬉しそうな顔をしている石川。
本命は渡辺じゃなかったのか? そういうところも気に食わない。
「ってかさ、渡辺ってお前って付き合ってんの?」
「はっ?」
川辺が根も葉もないことを口にした。
「はあ? んなわけねーだろ」
「えっ? 嘘だよね? だって粟井くんは、川辺君と繋がる運命なんだよ……ね? ね?」
「頼む内海は黙っててくれ、話がややこしくなるから……」
内海がこうなると手が付けられない。
「だって、お前といるときの渡辺、すげー笑顔だぞ」
「そうか? 別に他のやつと話してるときと変わらないとおもうが……」
「周介、お前分かってねーな」
「な、なんだよ……その言い方」
「いいか? 周介、よーく考えてみろよ今までのイベントを」
「えっ?」
今までのイベントだと? 川辺はなにが言いたいんだ。
「下校にお買い物、そして日焼け止め塗りイベント」
「……だからなんだよ」
「いやだから、フラグは揃ってるじゃねーかよ」
な、なるほど。
いま川辺があげたイベントは好きな人にしか起こらないイベントだということか。
「つまりお前は渡辺が俺に好意を抱いている。と、言いたいわけだな?」
「その通り、そうとしか考えられないだろ?」
まぁ、川辺の言う事も分かる。
最近の渡辺の行動もそうだが、クラスから迫害されている俺にわざわざ絡む理由が見つからない。
だが、たまたま趣味が一緒だったことがきっかけで色々話すようにはなっただけで、それが好きにつながるとは思えない。
「お前って感のいいやつだと思ってはいたが、意外と鈍感なんだな」
「う、うるせぇ。まだ決まったわけじゃねーだろ?」
まぁ、たしかにエ〇ゲだったらこの後の展開は告白まったなしだが、渡辺は俺を特別視しているわけじゃないと思う、もともと誰にでも分け隔てなく優しく接する性格の持ち主だから。
「ちょ、ちょっと待ってよー! その話本当なの?」
隣で聞いていた内海が口を開いた。
「ほんとウケるよな!」
「えー! それじゃあ困るよ、私が今書いてる夢小説には粟井くんと川辺くんが必要なのに。もし粟井くんに彼女なんか出来ちゃったら、妄想が捗らなくなっちゃうじゃない!」
「知らねーよ! んなこと! っていうか俺と川辺を勝手に登場人物にしないでくれるか!」
「ちなみにその小説の進捗具合ってどのくらいなの?」
川辺が内海に訊く。
「いまちょうど10万文字書いたあたりかな? 結構書き溜めたから『ななろう』か、『カクカクヨム』に公開しようと思ってるんだけど、どうかな?」
「絶対やめて」
「絶対やめて」
「どうしてよぉぉぉ。絶対書籍化待ったなしだと思うよ!」
「書籍化してたまるか!」
少し、ほんのすこーしだけ内容が気になるが、小説の中にいる俺と川辺は一体どんな仕打ちを受けているのだろう……。
というか俺たちと何気ない会話をしながら日々執筆していたのを考えたらゾッとした。
オタク同好会で一番の危険人物は内海なのかもしれない……というか知らないほうがよかった。
この世の中でBLオタクが一番やっかいかもしれないことに気が付いた瞬間であった。
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