第6話 ギャルとお買い物

 俺はいま。ショッピングモールの2階で待ち合わせをしている。


『もうすぐ着く!』


 可愛いウサギのスタンプと共にメッセージが送られてくる。

 それに答えるように俺も返信。


『ゆっくりでいいよ!』


 川辺? 内海? いや違う。


「お待たせ~!」


 遠くからヒールの音がカツカツと響いてくる。


 そう、ギャルの渡辺だ。

 遠くの方から駆け足で向かってくる。


 何故渡辺さんとお出かけをすることになったかの経緯を説明しなくてはならない。

 それは昨日の出来事。



 8月の夏真っ盛りのある日


「クラスのみんなで海に行きまーす!」


「いえええええええええええええええええええええい!」

「いえええええええええええええええええええええい!」

「いえええええええええええええええええええええい!」


 教室が歓喜の渦に包まれる。


「あっ! 全員強制参加だから!」


 突然の出来事だった。それはクラス委員の石川により提案されたイベント。


「新しい水着買わなくちゃ~」

「浮き輪も必要だよね!」

「とうとう俺の平泳ぎを見せつけるときが来たんだな!」


 一人だけしょうもないやついたが、気のせい?


「後で、RINEにグループ作っとくから入っといて~」


 クラス委員の石川がグループを作ってくれるようだ。

 だが、俺は石川どころかオタク同好会以外の奴らの連絡先を知らない。

 まぁ、川辺がなんとかしてくれるか……。


 海に行くのはいいが、一体何が目的なんだ石川の奴……

 しかし、『強制参加』という四文字を聞くだけで蕁麻疹が出るのはなぜだろう。


 そんなことを考えていると、後ろからツンツンとシャーペンでつつかれた。


「海、楽しみだね♪」


 振り返ると、渡辺が満面の笑みを浮かべる。いつも通り可愛い。


「俺、海久しぶりだよ」

「超分かる~! あたし、泳げないからずっと砂浜で遊んでるけど」


意外だった。渡辺にも不得意というものがあるのか。


「へぇ、以外だな~。スポーツ万能の渡辺にも不得意なんかあるんだな」

「子供の頃におぼれかけたことがあってね……それ以来ダメなんだ」


トラウマと言うやつか。


「私、さっちゃんの水着みたーい!」

「渡辺さんはどんな水着着るの?」

「良かったら一緒に泳ぎませんか!」


仲良く談笑していると割り込むような形で渡辺親衛隊が渡辺の席を囲むように現れた。

まったく二人で話す機会すら与えてさえくれない……。


「ねーねー! 海行ったら写真撮ろ~」

「俺も! 俺も! 渡辺のおっぱ……いや、ツーショット撮ろう!」


 おい、煩悩丸出しのクズが一人混じってたな。殺〇。


「やぁ、さちか、良かったら僕と連絡先を交換しないかい?」


 渡辺親衛隊の会話を聞いていたのかクラス委員の石川が横から割り込んできた。

 まさか、これが狙いか?


 石川は成績が優秀、イケメンで女にもモテる。だがちょっといけ好かない。


 しかも、いきなり呼び捨てか……。


「いいよ~。QRコード出すからよろしくね♪」


 そんな石川の企みを渡辺が知る由もなく、連絡先を交換。


「さちかありがとう。あとで連絡する。キリッ!☆」


 その爽やか顔やめろ。

 他の渡辺親衛隊もQRコードに群がる。


「私とも交換しよ~」

「俺も!俺も!」

「おい! 邪魔すんなよ!」

「お前が割り込んできたんだろ!」


 机の周りは大パニック

 まるで金魚の餌だな……。

 渡辺は笑顔でその様子を見ていた。

 慣れたもんだ。純粋に渡辺を尊敬する。


 すると、タイミングよくチャイムが鳴り、親衛隊が散っていく。


「周くんの連絡先も教えて♪」


「えっ! むしろ俺と交換してくれるの?」

「だって、あたしたち友達でしょ? 交換する以外の選択肢ないじゃん」


純粋に嬉しかった。渡辺に友達認定されたことが、

もちろん俺も交換させてもらっちゃった。てへっ。


「後でメッセ送ってね♪」



 帰宅後、ベッドに寝転びながらRINEを見る。連絡先に父、母、川辺、内海の四人しかいなかったところに渡辺が追加されている。

 スマホを買ったのは高校に上がってからというのもあって、中学生時代の友達の連絡先は知らない。


 てか、RINEっている? Discordで良くない?

 そんなオタク丸出しの疑問を抱きつつ、RINEに意識を向ける。


「せっかく、交換したんだしメッセージ送るか」


 渡辺のアイコンをタップし、サムネを確認。

 自撮り画像だ。パジャマ姿にピースをしている。


「可愛い」


 落ち着け俺、まずは、挨拶からだな。

 何を送ろうか考えること……






30分が経過!!!!!!!!!!!!!!






 いや、しょうがないよね! 内海以外の女の子とRINEなんかしたことないし、普段話すことが最近読んだBL本があーだこーだという内容がほとんどなので、大体無視するかスタンプで済ましている。

 ごめん内海。もうちょっとお前との会話頑張るわ。


 しかし、女性に限らず誰かとメッセージをやりとりするときは文面に気を使わなくちゃいけないのが大変だ。

 うーんどうしたもんか……。


 まずは、文章だけだと感情が伝わりづらいので「!」といった符号や「(*'▽')」といった顔文字を使うのがベストだろう。


 よしっ! 意を決して画面に向き直る。

 まずは挨拶からだな。


『今日はありがとう! 宜しくね!』


 すぐさま既読が付いた。


『こちらこそ~♪ グループ追加しとくね(#^^#)』


 覚悟を決めメッセージを打ち込もうとしたその時、渡辺からグループに招待された。


グループ名:『海しかないっしょ?』


 そういえば、石川の奴グループ作るって言ってたっけ……。

 てか、名前どうにかならなかったの?


 渡辺がグループに入ると、


『待ってたよ!』

『さっちゃんだー!』

『さっちゃんの水着早く見たいな~!』


 可愛いスタンプや期待に溢れたメッセージが飛び交う。


 俺の場合……特に反応なし。

 扱い雑すぎない!?


 まぁ、想定内だ。

 川辺と内海も招待してやるか。


『川辺くんだ~!』

『海楽しみだね!』


 川辺がグループに入ると待ちわびていたのか、クラスの女子数人が反応した。


 意外とあいつ女にモテるんだなぁ。

 そういえば見た目が強面だからか、ギャルによく告られるって言ってたっけ……。

 ムカつく、あいつが実は裏でオタ芸に励んでいると知ったらみんなどういう反応するんだろうか。


 と、その時――

 渡辺から個別メッセージの通知が届く。


『明日の休日暇? もしよかったら一緒にショッピングモールに行かない? 水着選んで欲しいんだけど……』


 メッセージの意味を理解するのに数分かかった。


「………………………えっ!?」




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