第5話 オタクは辛いよ
「これから席替えを始めまーす!」
クラス担任の金本だ。
「名前順にくじを引いてくださーい!」
これから席替えが始まる。最初はこのイベントにワクワクしていたが、もうそんな気持ちは消えていた。
もう少し早く渡辺と知り合っていたら、たくさんゲームやアニメの話ができたのに……そう思った。
「次、粟井君」
名前を呼ばれ教壇へ。
また一緒に話す口実が欲しかった俺は、心の中で願った。
『いでよ! 〇龍! そして願いをかなえたまえ! そして、また渡辺さんの前の席にしてください!』
引き終わり、元の席へ。
全員がくじを終え、いよいよ新しい席の発表……。
まぁ、そんな簡単に通じるわけがない。また元のオタクライフに戻ろうじゃないか
通じたあああああああああああああああああああああああああああああああ!
しかも前と同じ席で、後ろには渡辺。どんな確率だよ! 明日死ぬんか俺! てか〇龍マジでいたんだな!
「また一緒だね。周くん♪」
キラキラした笑顔を浮かべる渡辺。
「よろしく、また沢山話せて嬉しいよ」
それに答えるように俺も笑顔を向けた。
「うん!」
二人の世界を構築している最中……。
「あんた栗井だっけ? あんたさっちゃんにちょっかい出すんじゃないわよ」
「そーだ!そーだ! 陰キャが近づくな!」
ほーら来た。最近は落ち着いてきたと思ったらこれだ。
このめんどくさい奴らは渡辺親衛隊。オタクというだけで、色々いちゃもんを付けてくるめんどくさい集団で渡辺を崇拝している。 というか俺の名前は粟井だ。
ここ最近は俺も静かに学園生活をしていたから、特に実害はなかったんだが渡辺と下校するところも見られた上に、席替えイベント。
さすがに渡辺親衛隊が黙ってないか……。
「あんた、くじに何か細工したんでしょ? じゃなきゃ前と同じ席になるなんてありえないんですけど?」
「マジで!? こいつ最悪じゃん」
「オタクのくせに調子乗んなよ」
こいつら……渡辺の事になるとほんとめんどくさいな。俺は、純粋に〇龍にお願いをしただけだというのに……。
「だから、俺はそんなことしてねーって」
「証拠見せろよ」
「そうよ!」
証拠なんかあるわけがない。普通にクジを引いて席に戻っただけだ。
「もしかして、さっちゃんのこと狙ってんの? あんたみたいなオタクが手を出していい人じゃないんだから」
話が飛躍しすぎだ……もう俺には止められそうにない。
「ちょっとさっきから酷くなーい? 周くん、いい人だよ?」
俺たちとのやりとりを見ていた渡辺が口を開いた。
「周くん? えっ!? なんで名前で呼んでるの?」
「さっちゃん大丈夫? もしかして脅されたりとか?」
「ぜーんぜん! 周くんめっちゃ優しいし、それにこの間一緒に帰ってるときめっちゃ盛り上がったんだ~♪」
天使! ありがとう渡辺! そうだ! もっと言ってやってくれ! 俺の魅力を!
「何話したの?」
「エ〇チなゲームの話したよ~」
火に油あああああああああああああああああああああああああ!
いやそれはアウトだ渡辺。さらに俺の評価を下げる!
「変態! あんたさっちゃんにセクハラしたの?」
「マジかよ、さいてーだな」
「ちょっと待て……」
ちょっと待て、誤解だ。
そうだ! 川辺! あいつに助けてもらおうじゃないか。強面のあいつが間に入ってくれたら……。
川辺の席を見やるとあいつは俺の方を見て、くすくすと笑っていた。
あいつ楽しんでやがる……
そして隣には内海。
俺と川辺が目線でやりとりしている様を見てニヤケている。何か誤解をしているな。
駄目だ、あいつらは使いものにならん。
「あっ、でも違うの。あたしから話題を……」
事の重大さに気づいたのか、渡辺さんが誤解を解こうとするが
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、冷たい目をした渡辺親衛隊が散っていく。
「周くん、もしかして、あたし、やっちゃった……?」
「あぁ、火に油を注いだ」
◆
――授業中
「あっ」
消しゴムを落とした。
渡辺さんの机の下へとコロコロを転がっていく。
すぐさま屈んで取りに行く、
すると俺の目の前にとんでもないものが……。
ピンク!!!!!!!!!!!!!!!!!!
恐ろしく早いパンチラ、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
目が離せない。
時間が止まるとはまさにことのこと。
ふと我に返り渡辺さんを見ると、にやりと誘惑するような顔で俺を見下ろしていた。
「見えた?」
と、小さい声でつぶやく渡辺。
可愛いな畜生!!
「さっきはごめんね。これで許して?」
許します。もちろん許しますとも。
食い気味に頷き返す。
さっきまで馬鹿にされ、変な噂が広がるかもしれないという不安はとうに吹っ飛んでいた。
ギャルのパンツってすげーや。
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