第4章 家族

第1話 中間テスト

 修学旅行が終わり、数日後の出来事。

 俺は放課後の教室で先生のありがたい話を聞いていた。


「一週間後に中間テストがありますからねー」


 先生の言葉が教室に響き渡る。

 しばらくの間、教室の中が静寂に包まれ、そして現実に戻される。


「えええええええええええええええええ」

「えええええええええええええええええ」

「えええええええええええええええええ」


 クラスメイト一同がどよめき、慌てふためく。

 修学旅行が終わってすぐの中間テスト、こういう反応になるのは必然だろう。

 一応隙間時間に勉強はしているが、俺でもこのスケジュールは結構辛い。

 成績が悪いというわけじゃないが、そこまでいいとは言えない。現に物理は補習をしたこともあるし……。


 ふと、川辺と内海を見ると余裕の表情を浮かべていた。

 川辺は頬杖を突きながら先生の話を聞いている。内海は本を開きニヤニヤしていた。

 恐らくBL本だろう。本当ムカつくぐらいの余裕だ。

 たしか川辺は数学が得意で、内海は英語が得意だったはずだ。


 あいつら意外と頭良いんだよなぁ。


「ねー粟井くん」


 後ろをツンツンとつつかれた。

 こういう展開は久しぶりな気がして少し頬が緩む。


「どうした?」

「テストめんどくさくない?」

「そうだな。でも渡辺なら余裕じゃないのか?」

「全然だよ。最近勉強してなくてさ……」

「寝不足?」

「いや色々あってさ……最近忙しいんだよね~」


 と、目を擦りながら言う。


「渡辺って、得意科目とかあるのか?」

「しいて言えば物理が得意かな~? でも、他の科目も好きだよ!」


 そう言いながら笑顔を浮かべる。ここでも強者の余裕か……。ちなみに渡辺は2年生の中でトップの成績なのだ。

 眉目秀麗で勉強もできる。最強すぎるだろ。

 何度も言うが俺との対比えぐくないですか!?

 自慢じゃないが、俺の国語の成績はクラスで2番目。渡辺の次にいい結果を出せている。

 エ〇ゲで培われた読解力のおかげだな!


「そーだ! 周くん、一緒に勉強しようよー」


 何かを思いついたように渡辺が言った。


「いいな。それじゃあどこでする?」


 頭がいい渡辺と一緒に勉強できるのは俺にとってはありがたい。俺の不得意な物理について教えてもらうことができる。

 ここは断る理由はない。頭の中で集中できそうな場所を探す。オタク同好会の部室……。いや、あそこは川辺と内海もいるから却下だ。

 俺の家? いや、女の子を入れるほどきれいな部屋じゃないし。それに汚い。おもてなしができる程のものもないし、到底女の子を呼べる場所ではない。


「う~ん」と腕を組みながら考えていると渡辺が言った。


「あたしの家」

「……」


 え? いまなんて?

 

「おーい、どうしたの~?」

「今、家って言った?」

「言ったよ。学校でやるよりその方が集中できるでしょ?」


 いやいやいや! 逆! 逆!

 むしろ集中できないから!


「さすがに迷惑じゃないか? 知らない男が家に来たら……親だっているだろうし」

「それは大丈夫! お母さん用事で帰ってこないから」


 帰ってこないということはそういうことだよな! 逆にまずいだろ!

 エ〇ゲだったら絶対に勉強だけじゃおさまりが付かなくなるパターンだよそれ。


「どうしたの?」


 何が問題なの? という風に渡辺が小首をかしげる。

 女子の部屋に男が来るんだぞ、いま自分が置かれている状況を分かっているのだろうか……。

 意外と渡辺って天然だな。


 というか、最近の渡辺は積極的と言うか、やたら俺といたがる気がするが気のせいだろうか。

 いや、自意識過剰だ。考えるのはやめよう。


「いや、なんでもない。それじゃあお言葉に甘えてお邪魔しようかな」


 その反応を見て慌てている自分が情けなくなった俺は、家にお邪魔することにした。


「ほんとに? やったー! それじゃあ沢山お菓子買わなくちゃね♪」


 ちょうどHRが終わり、ウキウキで帰宅の準備をする渡辺。


 ふと、スマホを見るとオタク同好会のグループから連絡が来ていた。


『今日部室で内海と勉強するんだけど来るよな?』


 川辺だ。

『今日は渡辺と勉強するから。また今度な』


 と、返信する。

 すると……。


『マジかよ! どこで? もしかして家か? 家なのか?』

『うそでしょ? 粟井くん、川辺くんとは遊びだったのね……! 最低!』


 とても鬱陶しい返信が来たので、そっとスマホの電源を落とす。


「それじゃあ、帰ろうー!」

「そうだな」


 あいつらのことは無視だ。とりあえず、今はこのイベントをどう乗り切るか……。

 勉強しに行くだけ、変なことは起こらない! うん!

 

 俺は平静を装いながら渡辺と下校するのだった。

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