第14話 名残惜しい
修学旅行最終日――
荒川、伊勢、金田たちと別れ、部屋には俺と川辺だけになった。
「それにしても、あっという間だったな」
俺はポツリと呟いた。
「本当だな、でもエ〇ゲができない環境は辛かったんじゃないか?」
「最初は俺もそう思ってたんだけど、意外と大丈夫だったんだよな~」
普段インドアな影響で、外に出ると退屈してしまう性格になってしまったんだが、
今回はまったく退屈しなかった。
「ってことは、修学旅行が楽しかったってことか?」
「まぁ、そういうことかもな……」
そう、修学旅行がこんなに楽しかったのは、修学旅行実行委員である川辺のおかげだ。
「ありがとな」
俺は素直にお礼を言う。少し恥ずかしいが……。
「なんのことだ?」
「だって、俺とあいつらを引き合わせてくれただろ。お前のおかげで楽しい修学旅行になったよ」
あいつらとは、荒川、伊勢、金田のことだ。
「大したことはしてねーよ。それに、もし渡辺の親衛隊と同じ部屋になったら、お前殺されそうだしな」
「それはそうかも……」
最近俺と渡辺の仲をよく思っていない連中が多い。
たまにナイフのように尖った眼差しを向けてくる。落ち着いて飯も食えない状況なのだ。
「それにしてもお前はどうだったんだ? ずっと実行委員の仕事だったんだろ?」
「大変だったけど、少しは回れる時間も取れたし、まぁ、それなりに楽しめたよ。ちゃんとお土産も買えたしな」
笑顔でお土産袋を見せつける川辺。
それならよかったけど、夕飯と部屋の自由時間以外こいつの姿を見ていなかったので気になってはいた。
「俺の事はいいんだよ! それより渡辺との仲はどうだったんだ?」
川辺が期待に満ちた目で訊いてくる。
「別に普通だったけど?」
「何か特別なことは?」
「ない」
川辺は先ほどとは打って変わって、残念そうに項垂れた。
「せっかく同じ班にしてあげたのに俺の努力を無駄にするなよな~」
本当は渡辺からプレゼントをもらったが、こいつに言う義理はないし。話したら100%イジられるのでやめることにした。
まぁ、内海がポロっと暴露しそうではあるが、その時はその時だ。
「あー!」
突然大きな声を出す川辺。
一体どうしたというんだ。
「な、なんだよ」
「あれ、忘れてないよな?」
「あれって?」
「ジョジョ蘭」
不敵な笑みを浮かべてささやいた。
畜生やっぱり覚えてたか……。
食べ物の恨みは怖いな。これから気を付けよう。
◆
クラス一同が集合し、点呼を取る。
外で「忘れ物がないか今一度確認してね」と、クールな口調で担任の先生が言ってるのが目に入る。
昨日のことはまったく覚えていないらしい。
教師にあるまじき言葉を俺たちに言っといて何食わぬ顔で生徒たちと接している。
俺はそれを冷たい目で見ながらバスに乗り込んだ。
「おはよ~! 周くん♪ よく寝れた?」
渡辺が明るい表情を浮かべて話しかけてきた。
俺は安心した。
昨日の渡辺との一見がずっと引っかかっていからだ。
表情を見るにいつも通りの渡辺だ、どうやら体調不良だったらしい。考えすぎだったか。
「おはよう。おかげさまで、昨日よりかは気持ちよく寝れたよ」
「修学旅行も終わりだね~」
「明日から普通に学校なの辛すぎるな」
「ほんとそれ~、一日休み欲しい……」
昨日のことが何もなかったかのように普段通りに会話をする。
京都の風景が離れていくにつれてとても悲しい気持ちになる。
様々な思い出を乗せ、バスは学校へと走り出していくのだった。
◆
家に帰宅。
「うぅ~づがれだ~」
そう呟きながら俺はベッドに仰向けに寝転がる。
スマホを確認すると渡辺からたくさんの写真が送られてきた。
嵐山や清水寺で撮ったものだ。
綺麗に撮れている。俺はそれを一つ一つ保存していく。
この思い出は一生忘れないだろう。
「あれ? っぷ」
じっくり見ると目が半開きになっている渡辺の写真があって、思わず笑ってしまった。とても可愛い。
送った本人は気づいてなさそうだ。
というか、恥ずかしい写真でも映えてしまう。恐るべし!
バッグに入った。小さい箱を取り出す。
渡辺から貰ったプレゼントだ。
俺はワクワクした気持ちでそれを開ける。
そこには小さい白いウサギの置物が入っていた。
「お揃いか……」
ちっぽけなものかもしれないけど、渡辺の想いが込められているような感じがしてとても嬉しい。
よーく見ると、とてもかわいい。
俺はそれを眺めながら修学旅行の余韻に浸る。
渡辺たちとめぐった観光名所。
清水寺では凶を引いてしまったが、生八つ橋は意外と美味しかった。
チョコミント味は未来永劫買うことはないだろう。
「楽しかったなぁ~、また行きたい」
よく考えれば、高校に入ってからこんなに楽しかったのは初めてだ。
球技大会の時は楽しい以前に大変だったという気持ちの方が強かったしな……。
もし、渡辺に出会わなかったら暗い学校生活が続いていたような気がする。まぁ俺はそれでもいいんだが、エ〇ゲさえあれば。
渡辺がいたから球技大会で荒川、伊勢、金田と出会えたし、宮本とも仲良くなれた。
確実に俺の人生がいい方向へ進んでいっている。
それにこんなプレゼントまで貰ってしまった。
「今度、お礼しないとだな」
それにしても、明日から普段通りの日常が始まると思うと少し憂鬱ではある。
たしか、テストも近かったはずだ。いつかは忘れたけど……。
「まぁ、とりあえず今日は、エ〇ゲをやろう!」
俺は現実逃避をするべくPCの電源をいれた。
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