第13話 分からない
平静を装いながら話題をふる。
「修学旅行楽しいな」
「ね。まさか周くんと一緒に観光できるとは思わなかった」
「川辺のおかげだな。あいつなりに頑張ったらしいぞ」
視線を空にうつすと綺麗な星空が浮かんでいた。
だからカップルが多いのかと、合点がいく。
俺と渡辺が出会った時の事や、球技大会のこと。昨日内海の顔が某有名女優に似ていると判明したことなど
些細な話をしているうちに渡辺の顔が沈んでいくのが分かった。
いまにも泣きそうだ。
「どうした? 体調悪いのか?」
俺は心配だった。いつも明るく元気な渡辺が今日は様子がおかしい。
少なくともカレーを作っている時は元気だった。一体どうしたのだろう。
「違うの、あたし、嬉しくって、周くんに会えたことが」
「えっ?」
突然のセリフで狼狽える。
だけど素直に嬉しかった。クラスから迫害されていた俺に喋りかけてくれたのは渡辺だ。もし出会ってなかったら暗い学園生活を送っていたと思う。渡辺がいたからいまがあるんだ。
「俺も渡辺に会えてよかったよ」
俺は割に合わないセリフを言うと、くしゃっと笑みを浮かべた。
「周くん、今日かっこいいじゃん~」
からかわれている。
だけどその笑顔を見れるだけで俺は嬉しかった。いつもの調子に戻ってくれたから。
ふと、あることを思い出した。俺は渡辺に呼び出されてここに来たのだ。
ナンパ男のせいで本来の目的を見失っていた。
「そういえば話したい事って?」
単刀直入に言う。
すると、渡辺の表情が沈んでいった。
「……」
しばらく静寂が辺りを包む。
「大丈夫か? 言い出せないなら無理に話す必要ないぞ」
「本当はなんでもないの。なんとなく周くんと話がしたくってさ……ただそれだけなの……」
嘘を吐いているのが分かった。俺と話したかったのは本当だろうが、本来の目的は違ったはずだ。
明るく振る舞おうとしている。そう思った。
渡辺が切り出せないでいるのは話すのが怖いからだ。なら無理に話す必要はない。
どんな話かは分からないが、いつだって学校で会えるし、話す機会はいくらでもある。
「戻るか」
「うん」
そろそろ消灯の時間が近づいていることに気づき旅館に戻ろうとしたその時。
「あれー! 君は……うちのせーとだふぉね?」
後ろから明らかに酔っぱらった人の声がした。
また、めんどくさいやつに絡まれた。と、思い振り返る。
「えっ?」
まさかまさか。うちのクラスの担任、山本だった。
一升瓶を片手に千鳥足でふらふらと佇んでいた。どうやらお酒を飲んでいるらしい。
先生方と飲み会でもしているのだろうか。
いつも凛々しく生徒の見本となっている先生がこういう姿をしているのは、なんというか見たくなかった。
すると、先生は俺の隣にいる渡辺に視線を移してこういった。
「あんたら、もしかして……外でヤッてた?」
「なわけねーだろ!」
冗談にも程があるぞ、普段の先生ってこんな感じなのか……。
「急に大きな声出さないでよ! ビックリしたじゃない……」
というか、勢い余ってタメ口で話してしまった。
まぁ、酔っぱらってるしいいか、どうせ明日には忘れるだろうし。
「はやく部屋に戻りなよ~。もうすぐしょーとーだから」
俺と渡辺は先生に会釈をしてその場を後にした。
見なかったことにしよう。
いつもと違う先生をみて渡辺も最初はビックリしていたが
さっきと同じように暗い表情に戻ってしまった。
「肌寒くなってきたな……」
「……」
旅館に戻る途中でも渡辺は黙ったままだった。
何か話そうかと思ったが、気の利いたことが言えない俺は渡辺の歩幅に合わせてやることしかできなかった。
軽く手を振り、渡辺の姿が見えなくなるまで見守る。
部屋に戻るとみんなはすでに寝ていた。いびきを立てながら気持ちよく寝ている。
歯磨きを済ませ静かに布団に潜る。
「う~ん。眠れねえ~」
目をつぶるがなかなか眠れない。
渡辺が何を俺に伝えたかったのか、それが気になってずっと頭から離れずにいた。
結局のところ渡辺が言いたかったことはなんだったんだろう。
本当に体調が悪かったのかもしれないし。もしかしたら愛の告白? いやそれはないな。そんなテンションじゃなかったし。
それに、俺と渡辺が釣り合うはずがない。
「分かんね~な~」
俺は静かに呟いた。
しばらく考えたがそれらしい答えは出なかった。
渡辺が俺に話したい事……。それを考えているうちにどんどん時間が過ぎていっているのが分かった俺は、考えるのをやめ、深い眠りについた。
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