第12話 大事な話

 お昼も過ぎ数々のレクリエーションを終えた一同。

 消灯まで「自由行動」と、なっているため部屋に戻ることに。

 正直トランプは飽きたので何か他の事をしようと相談していたその時、スマホが鳴った。


『周くん、今ひま? ちょっと話したいことがあるの』


 渡辺からだ。

 突然の連絡だったので少し狼狽える。


『分かった。どこで待ち合わせる?』


 返信を待つ。

 渡辺が俺に話したい事、一体何だろう。

 しばらく頭を巡らせてはみたが思い当たらない。


『旅館の近くに公園があるの。そこにしない?』


 あそこか、かなり大きな公園だったから人目は気にせず話せそうだ。

 俺は財布をポケットに入れ、ルームメイトに悟られないよう部屋を出る。



「なんですか!? これは!?」


 公園に行くとそこはカップルで溢れていた。

 ベンチに座ってイチャイチャしていたり、芝生で寝転がりながらゆったりしている者もいる。


 渡辺は、少し離れた芝生に座り込んでいた。

 スウェットにTシャツを着ている。とてもスタンダードだ。


「よぉ、どうした?」


 軽く手を振りながら渡辺に近づく。


「あっ! 周くん! ごめんね、急に呼び出して」

「大丈夫だよ、それより話って?」


 単刀直入に言う。


「うん。実はね……」


 すると、後ろから声がした。


「おーい、そこのお姉ちゃーん。俺らと遊ばね~?」


 刈り上げられた髪にタンクトップ。パツパツのスキニーを履いた激ダサヤンキーが絡んできた。

 明らかにナンパだ。


「もしかして修学旅行で来た感じ~? 実は俺もなんだ~、暇だし良かったら俺の部屋おいでよ」


 べらべら喋るやつだな。喋り方も典型的なヤンキーだ。

 渡辺を見ると、ものすごく動揺している。いつもなら虎の目のように鋭い眼差しで威嚇するところなんだが……。


「ねーそんなダサい奴ほっといてさ~おいでよ」


 ダサい奴って俺の事か? おいこら。

 ナンパ男の手が渡辺の腕を掴む。


「きゃっ」


 俺はその汚らしい手をはたきおとす。


「気安く触るな」

「んあ? なんだてめェ。大人しくしてればいい気になりやがって」

「ナンパの仕方、もう少し考えたほうがいいぞ」


 さすがにしつこいのでちょっと煽ってやる。


「うるせぇ! お前はそいつのなんなんだよ」


 そういわれて考える。ここで彼女といえば去ってくれるだろうか……。

 いや、こういう奴は大体いちゃもん付けてくる。だけど本当のことを言ったところでおとなしくするとは思えないし。


 そう思った俺は。


「俺は、こいつの彼女だ!」


 言いきる。友達でもよかったんだがこうでも言わないと諦めてくれそうにない。

 それに少しでも狼狽えればウソがばれると思ったからだ。

 渡辺には申し訳ないが許してくれ!


「てめぇみたいなキモオタが? っは! 笑えるわ」


 キモオタは否定しないが、お前みたいなダサいやつに言われたくない。

 まずそのタンクトップとパツパツスキニーをどうにかしろ。バランス悪すぎだろ。


「それよりてめぇどこ高だよ? あぁ?」


 そのセリフを本当に訊いてくるやつがいるとは……。この世に実在したんだな。


「おい! 聞いてんのか? ごらぁ!」


 ナンパ男が威嚇をしてくる。

 渡辺の手が震えているのが分かった。


「そのスキニーを履いてる時点で典型的なヤンキーだな。カッコいいと思ってんの?」


 言われ続けるのも癪なので言い返した。少しぐらいはいいだろう。


「てめぇ覚悟しろよ」


 どうやらナンパ男の怒りを焚き附けてしまったようだ。

 ナンパ男がパキポキと指の関節を鳴らしながら近づいてくる。


 修学旅行に来てトラブルを起こしたくなかったんだが、渡辺を守る為だ。

 やるしかない。まぁ、一発ぐらいは覚悟しておこう。


 後で学校側に言われても正当防衛でなんとかなる。

 意を決したその時。


「なに、あのタンクトップの人」

「喧嘩か? チャラい男が一方的に迫ってた気がするけど」

「警察呼んだほうがいいよね」


 公園にいたカップルたち含め大人たちが俺らを見た。


「っち、めんどくせーな」


 都合が悪いと思ったのか、舌打ちをしてナンパ男は去っていった。

 警察と言う言葉にビビったらしい。

 あいつも修学旅行で来てるからな。面倒ごとは御免だと思ったのだろう。


 なにはともあれなんとかなった。


「大丈夫か?」

「えっ? うっ、うん。ありがとう。あたしのせいで」

「渡辺のせいじゃないよ。それより、彼女とか言って悪い」

「うん、大丈夫だよ。その……嬉し……かった」

「えっ?」

 

 まさか、そう返されるとは思わなくて、しばらくの間静寂が包む。


「そ、それにしても相変わらずの人気っぷりだな! これは全国で親衛隊作れるんじゃないか? あはは……」

「……」


 場の空気を変えるために冗談を言ったつもりだったんだが、凍り付いてしまった。

 ナンパ男はもういない。俺は渡辺の手を離そうとする。


 が、渡辺の手に力が入る。離したくないのだろうか?

 というか、腕を掴んで胸に寄せてくる。やわらかいものが当たってますよ! 渡辺さん!


 まぁ、またナンパ野郎が来るかも分からないからな!

 致し方あるまい。ここは堂々としていよう。


 傍から見たらカップルにしか見えないだろうな。俺たち……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る