第11話 京都でカレー作り

 

 「えーと、なになに?」

 

 スケジュールを見ると二日目は一日目と打って変わって

 旅館の近くにあるところでカレーを作ることになっていた。


 修学旅行に来たのになぜか林間学校でするイベントみたいなことをやらされてることに疑問を持っているのは俺だけだろうか。

 まぁ、この際なんでもいい。細かいことに突っ込むのはやめよう。楽しめればなんだっていいのだ。


 渡辺、宮本、内海と集合する。


 ちなみに川辺は実行委員の仕事があるため欠席。

 一応カレーだけは食べに戻ってくるらしい。


「周くん、おはよー! 目の隈すごいよ? もしかして、眠れなかった?」


 渡辺が訊いてくる。

 どうやら目に見えるレベルで、俺の顔は酷い有様らしい。


「おはよう。夜まで駄弁っててさ……」

「何話してたの?」

「怖い話だよ。結構盛り上がったよ」

「いいな~、そうだっ! 周くん聞いてよ! あたし、最近怖い体験したんだよ♪」


 さすが渡辺、早朝にも関わらずテンションが高い。

 それにしても渡辺が体験した怖い話か、気になる。


「へぇ~どんなの?」

「隣のクラスの柏木ってやつが急にメール送ってきてさ……」


 渡辺がスマホの画面を見せてくる。

 そこには……。


「相変わらず可愛いなさちか。ピエン×30」


 とんでもないピエン顔の顔文字を末尾に付けてメッセージが送られていた。


「こわ!」

「会ったこともないし名前も聞いたことない奴だから無視してるんだけど、しつこくってさ……ゾッとしない?」


 さすが渡辺、色んな男から言い寄られているためか、めんどくさい奴の対応には慣れている。

 だけど、これは度が過ぎているというか俺が渡辺の立場だったら震えて夜も眠れなくなるぐらいにはなりそうだ。


 やっぱり人間が一番怖いんだな。


「そういえば、渡辺は自由時間何してたんだ?」


 俺は話題を変える。


「メイク道具で遊んでたの、麻友ちゃんを可愛くしてあげてたんだ~」

「えっ!? 顔を見たの?」


 非常に気になる。ふと、内海を見るがいつもどおりのグルグル眼鏡をかけていた。


「でも嫌がってすぐ落としちゃったの……周くんに見せてあげたかったなぁ~」

「写真は?」

「撮ったんだけど、消されちゃって……」


 残念だ、俺が内海の素顔をみるときは来るのだろうか……。


 それぞれ班ごとに別れてカレー作りを行っていく。

 人参、たまねぎ、じゃがいも。カレーのルーと作り方が書かれた紙がテーブルに並べられている。


 宮本はテーブルで突っ伏していた。

 どうやら朝がものすごく弱いらしくご飯を食べないと元気がでないらしい。内海も同様。


 なので、俺と渡辺の共同作業をすることになった。

 ポニーテールでピンク色のエプロンを見にまとう渡辺。


「よーしやるぞ~♪」


 とても様になっている。

 普段髪を下ろしているのでポニーテール姿の渡辺を見るとドキッとしてしまう。


 慣れた手つきで人参、玉ねぎ、じゃがいもを細かく刻んでいく

 分かってはいたが渡辺は手先が器用だ。


「やっぱり凄いな渡辺」

「カレーはパパが好きで、よく作ってあげてたんだ……」


 一瞬何か思いつめたような顔を浮かべたがすぐいつもの笑顔に戻った。

 何か言ってはいけないことをしてしまったかと思ったが気のせいだったようだ。


「周くんは、米とお肉を準備してくれる?」

「分かった」


 何もしないわけにはいかないので邪魔にならないよう渡辺の指示に従う。

 慣れない手つきで米を洗い炊く準備をする。

 

「これでいいかな?」


 渡辺は火が通りにくい野菜を順番にフライパンに入れていく、こういうところもちゃんとしている。

 普段から料理をしている証拠だ。


 他の班を見ると、火の通りがいいたまねぎから炒めていたり、切り方がめちゃくちゃだったり様々だ。

 こういう時に女子力が試される。

 

「ごめん、回復したから私も手伝うよ」

 

 途中から内海も手伝うことになり、お米が焦げないように見守る。


 調理を開始して三十分後、いい匂いが辺りを包む。

 さすがにお腹が空いてきた。


 その匂いに誘われた宮本が、よだれを垂らしてこちらを見つめているのが横目で分かった。


「じゃーん! 出来た~♪」

 

 そしてあっという間にカレーが完成!

 白米も綺麗に炊けた。

 

「いい仕事したな! 内海」

「うん!」

 

 俺と内海はやり遂げた顔をして頷く(ただ米を炊いただけである)

 他の班はまだ調理を行っているようだ。


「やっべー! やらかした!」

「米、黒すぎ!」

「カレーなんか臭くない?」


 と、数々のやらかした会話が聞こえてくる。ドンマイ!


「いただきまーす!」

「いただきまーす!」

「いただきまーす!」

「いただきまーす!」


 掌を合わせていざ、口の中へ。

 すると、カレーの甘さが口いっぱいに広がった。


「美味い!」


 使ったルーは安物だったハズだけど一体何を……。


「えっへん! 実は隠し味にはちみつとヨーグルトを入れたんだ」


 どうだ! という表情を浮かべる渡辺。


「そんなの一体どこで?」

「旅館の調理場の人に借りたの。さすがにこのルーだと美味しくできる自身がなくて……」


 なるほど、俺と内海がご飯を見張っている時に数分間席を外していたのはそのためだったのか、トイレに行ってたと思ったが裏でこんなことを。

 まぁ、なにはともあれ美味い! 隠し味のおかげで安物のカレーがコクのあるカレーに生まれ変わった。


 野菜も口に入れやすく噛みやすい大きさになっている。

 俺たちが炊いた白米も水っぽくもなく固くもなく丁度いい歯ごたえだ。


 完璧じゃないか? 野外炊飯で作るレベルじゃないぞこれ。

 改めて渡辺の凄さを実感した。この状況下で完璧な料理を作れるのだ。

 出版社さん、渡辺の料理本をぜひ! 待ってます!


 そうだなぁ~。タイトルは『美少女金髪ギャルの一品! ここにあり!』とかどうですか?

 

 「おかわりー」


 宮本に至っては、すでに三杯もおかわりをしている。

 俺も二杯おかわりしてるから人の事言えないけど……。


「あっ」


二杯目を完食し終わった後に重大なことに気づく。



 数時間後――


「すまん、遅れた~」


 川辺だ。


「腹減ったよ~。カレーどこだ?」


 鍋を指さす。


「実行委員の仕事がめちゃくちゃ忙しくてさ~、遅れたわ」


 すまん川辺。俺は心の中で謝った。


「あれ? ルーは?」

「……」


 気まずい雰囲気が辺りを包む。


「もうないです」

「えっ?」

「じゃあ俺のお昼は?」

「……」

「おい」


 なんとか頭を振る回転させ言い訳を口に出そうと思ったその時――


「粟井が、川辺の分は気にしなくていいって言ってました~」


 息を吐くようにでたらめを言う宮本。


「おい! てめぇ! でたらめ言うな!」


 元はと言えばお前が3杯もおかわりするから……。


「周介、お前……」


 鬼のような形相で近づいてくる川辺。

 目が血走っている。


「おい、落ち着け」

「俺の昼飯はどうするんだ?」


 顔が、顔が近いです。


「わ、悪かったよ! 今度昼飯奢ってやるから! 今日は勘弁してくれ」

「ジョジョ蘭」

「えっ?」

「ジョジョ蘭に連れてってくれ」


 ジョジョ蘭とは超高級焼肉店の事だ。さすがに高すぎません?

 

 「ジー」

 

 川辺が目で訴えてくる。

 

 この場を乗り切るには約束するしかないか。


「わ、分かったよ。だけど行くならランチで頼む。夜だと高いから」

「よっしゃー! それじゃあ約束な!」


 どうやら機嫌を取り戻したようだ。

 俺の財布の中身が犠牲になったが……。

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