第2話 女の子の部屋
◆
近くのスーパーでお菓子と飲み物を買い漁った俺たちは、最寄りのバスに乗り20分程で渡辺の家に到着。
戸建てでとても立派な家だ。庭には小さい観葉植物たちが飾られている。
車がないので親は出掛けているのだろう。
本当は一言だけでも挨拶したかったが、いないのであれば仕方がない。
今度改めて挨拶しに伺おう。
「ささ! はいってはいって~♪」
「ちょちょっ!」
ボーっとしていた俺の背中を押して家に入る。
中に入ると広い廊下が目に入った。玄関は片付けられていて無駄な物がない。
シューズラックには女性ものの靴でいっぱいだった。渡辺と母親のだろう。
「お邪魔しまーす」
誰もいない空間に向かって言う。
家主の許可なしに家に入る行為が申し訳ないと思ったからだ。
「あたしの部屋こっちだよ」
靴を整え中へ。
2階へを上ると、”さちか”とひらがなで書かれた名札が目に入った。
お花の柄でとても可愛い。
「どうぞ~」
「ありがとう」
中に入るとそこはまるで別世界。
女の子らしいベッドに可愛い柄のカーテン。数々の化粧品やぬいぐるみ。
まさに女の子と言うにふさわしい部屋が目の前にはあった。
それにいい匂いがする。
「なんでずっと立ってるの? 早く座りなよ~」
クスクス笑いながら座るよう促す渡辺。
「お、おう。それにしても部屋綺麗だな」
部屋の周りに視線を向けながら何気ない会話をする。
「でしょ♪ 毎日掃除してるんだ♪」
毎日とは凄い。
俺なんか一週間に1回のペースなのに。
「じゃあやろっか♪」
鞄から教科書とノートを取り出す。
渡辺のノートには赤いマーカーで重要な単語に印が付いている。
ところどころに猫と犬のイラストが描かれていてとても可愛らしい。
「絵上手なんだな」
俺はノートを指さして言った。
普段渡辺のノートを見ることなんてないのでとても意外だった。というか絵心もちゃんと持ち合わせているのもさすがだ。
「見ないでよーエッチ♡」
「えっ、えっ?」
渡辺は頬をむくっと膨らませながら言った。
エッチなのか……? 褒めただけなんだが。
人のノートを勝手に見るのはよくなかったか。今度から気を付けよう。
「冗談! それじゃあ何から始める?」
「物理からいいかな? 俺ちょっと苦手でさ……」
「おっけー! じゃあ、この問1からやろうか」
「頼む」
さりげなく近づき髪を掻き分ける渡辺。
なにげない仕草でドキッとしてしまう。
部屋で二人きり……。
親も帰ってこない。
渡辺の匂い……。
まずい、変なことばかり考えてしまう。
というか、この状況で平然としていられる渡辺がおかしい!
落ち着け俺。せっかく俺を信用して部屋に招待してくれたのだ、期待を裏切らないようしっかり勉強してテストにつなげよう。
変なことは考えず勉強に集中するんだ。
「よしっ!」と気合を入れ問題を見る。
「この問題は右の物体Eが左の物体Fが……」
プニプニ……
「なるほどなるほど」
「衝突することによってどうなるでしょうか?」
プニプニ……
「うーん。問1から難しいなぁ~」
「えー簡単だよ! ゆっくり問題を見れば答えが見えてくるよ!」
プニプニ……
「……」
あー! ひじに当たっている柔らかい物体が気になって集中できねぇ!
右の物体Eと左の物体F? やっぱり左胸の方が大きいのかな? とか想像しちゃったじゃねーか!
なんだよこの問題! っていうか衝突したら”揺れる”に決まってるだろ! それ以外ないから!
と、心の中で突っ込んだ。
「どうしたの?」
小首をかしげる渡辺。
まずい集中していないのがバレたか。
「いや、教えるの上手いなーと思ってさ……」
咄嗟に嘘を吐く。
すみませんエロいこと考えてました。だって男の子だもん!
「でしょ♪ 学年1位ですから!」
俺の考えていることなど知らず自信満々な笑みを浮かべる渡辺。
真剣に教えてくれている渡辺に失礼だ。ここはまじめにやらねば……。
気を取り直して問題に集中する。
「この問題は、ここをこうすれば分かりやすいよ!」
やっぱり渡辺の教え方はとても分かりやすい。
どこが難しいポイントで、解くときのコツを丁寧に教えてくれた。これなら物理のテストはなんとかなりそうだ。
その後、渡辺の胸についている物体Eと物体Fと戦いながら物理の問題を解いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます