第8話 キックオフ!

 ――試合当日。


 名前が入ったゼッケンを手に取り、各々が着替える。


 誰が発注したのか分からないが、名前が『KURI』になってるし……。


 ほぼ栗ですやん俺。嫌がらせにしては酷すぎるぞ。

 せめて『HARA』付けてくれ。


「周くんがんばれー!」

「川辺くんたちも頑張って!」


 俺たちを応援しているのは渡辺と内海。

 

「おう、ありが……」


「きゃー! 大久保先輩かっこいいー!」

「あんなキモオタ共なんか蹴散らしちゃえー!」

「こっち向いて―!」


 黄色い声援と共に大久保率いる『チームサッカー部』が姿を現す。


 随分派手な登場だ。

 渡辺と内海の声援がかき消される。


 試合は前半と後半で15分づつ行う。

 誰かが怪我をした場合はすぐ、交代を行うが、俺らのチームは補欠がいないため交代と言う概念がない。


 俺と大久保が向かい合い先攻後攻を決めるためのコイントスを行う。


 俺らが先行だ。


「泣いてもしらねーからな」


 大久保の煽りを無視しポジションに付く。

 俺と川辺が前線に位置を取り、荒川と金田が中盤を支え伊勢がゴールを守る。もちろん両手にはポテチとコーラが添えられている。

ピピ―!


 試合開始の笛が鳴ると同時に川辺にパスをし俺は相手ゴールへ突っ走る。


 俺の意図を理解するかのように中盤の荒川と金田も前へ。


 ここは先手必勝だ、現役のサッカー部に勝てるほど甘くはない。だから、早めに点を取る!


「周介! 頼んだ!」


 鋭いパスが俺の目の前に落ちてくる。

 そのボールを足でトラップし、右足で思い切りシュートを放つ。


「オラッ!」


 相手ゴールキーパーは動けず

 

1-0


「よっしゃー!」


 川辺たちとハイタッチを交わす。

 いける! 久しぶりにボールを蹴ったが感覚が覚えてる。脚の状態も悪くない。これなら動ける。


「きゃーーーーー! 粟井くんと川辺くんがハイタッチしてる! もうあれ付き合ってるよね! ね! ね!」


 ベンチで騒いでいるのは誰だろう。たぶん内海だと思うが無視しよう。腐女子心に火が付いたあいつは誰にも止められない。


「俺にパス寄越せ!」


 大久保にボールが渡る。


「調子に乗るなよ」

「そっちこそ焦ってるんじゃなっすか?」


 ディフェンスは得意ではないが、ここはしつこく身体を当てていく。


「くっそ、しつけーな」

「おら、池田、決めろ!」


 サッカー部の副キャプテン、池田にボールが渡るが荒川がしっかりマーク。


「っち、オタクの癖に鬱陶しいんだよ」

「あなたは、ボールをトラップするときに必ず右でしますね。それに重心が少し後ろに向きます」

「な、なんでそのことを……」

「治したほうがいいですよ」


 荒川が池田のボールを掻っ攫う。


「金田くん! お願いします!」

「やっと俺の出番か!」


荒川から金田へボールが渡る。


「おい、囲め!」


 相手ディフェンダーが二人金田にプレッシャーをかける。

 だが、金田の前では無意味。


「そんなんじゃ、ボールは奪えないぜ!」


 ボールをキープしながらディフェンダーを一人二人と抜いていく。


「金田!」


 逆サイドで川辺が右手を大きく上げる。

 ボールを出してくれという合図だ。


 先ほど金田に釣られたディフェンダーが川辺のマークを捨てた影響でフリーになっていたのだ。


「頼んだぞ! 川辺!」


 初心者ながらも胸でトラップし、右足を振りぬく。


「オラッ!」


ゴーール!

2-0。


「よっし!」


 みんな調子が良さそうだ。さすがオタ芸の精鋭の中の精鋭。


 相手ボールで再スタート。

いきなり大久保がドリブルで川辺と荒川を抜いていく。


「僕としたことが……すみません!」

「悪い! 粟井たのむ!」


 ドリブルで来る相手にはまず、間合いが大事だ、行き過ぎでも引きすぎても駄目。


「っち、めんどくせーな」


 抜けないと踏んだ大久保は右へカットイン。


「これでどうだ!」


 少しカーブがかかったシュート。

 だが、そのシュートは伊勢の腹の脂肪に弾き返される。


「いてっ」

「ハッ!?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべる大久保。

 大きく跳ね返ったボールは前線へ、そしてその先には荒川。


 咄嗟の出来事に状況を理解できない相手ゴールキーパーは

 少し反応が遅れる。


 その一瞬のスキを逃さなかった荒川が冷静に左足で流し込む。


ゴーール!

3-0


「ここにボールが来る確率は80%、当然の結果です」


 眼鏡をクイッと上げる荒川。


ピッピー!

前半終了の笛が鳴る。前半だけで三点は正直上々すぎる結果だ。

この勢いのままいければ勝てる。


「ったく、何やったんだよ、おめぇら!」


 大久保がチームに激昂を上げる。

 先ほどまで黄色い声援を上げていた女生徒たちはお通夜状態。


「周くん! はいお水! シュート凄いカッコよかったよ!」

「ありがとう」


 体操着に肩出し&へそ出しスタイルで出迎える渡辺。

 この人はいつも刺激が強いから困る。


 水を口に含み、身体を休ませる。

 このまま後半戦も俺たちのペースでいく!

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