第9話 絶体絶命の危機!?

 ――後半開始


 相手ボールで後半が開始。


「おい、あれやるぞ」

「おうよ」


 大久保たちは先ほどとはプレイスタイルを変えワンタッチでボールを回す。


 相手も本気を出してきたか。


 経験者の俺ならパスが出そうな場所の予測がつくが、川辺たちには難しいだろう。


「ディフェンスだ! 最悪抜かされても伊勢がなんとかしてくれる!」


 川辺と金田がボールを取りにいくが、ワンツーで躱され大久保のミドルシュートがさく裂。

 伊勢の守備範囲外の右上隅に決められ


3-1


「っしゃ! オラ!」


 ガッツポーズをする大久保。


「ご、ごめんなさいッス」

「ドンマイ、伊勢! 切り替えよう!」


 さすが県大会で二桁得点を取っただけはある。

 だが、まだ2点差ある。俺たちが有利だ。


 だが、相手チームは選手を交代。

 大久保以外がベンチへ。


 前半で俺らの体力を使わせて後半で沈める作戦か、サッカー部の癖に姑息な手を使ってくる。


 こちらボールで再スタート。


「川辺!」


 俺にパスを出そうとしたその瞬間、大久保がボールをカット。

 お得意の強烈なミドルシュートがゴールに突き刺さり


 3-2


 その後、荒川と金田が簡単にボールを奪われ


 3-3


 あっけなく同点に追いつかれてしまう。

 控え選手がいない俺たちは体力の限界を迎えていた。


「ウォーミングアップに決まってんだろ? お前らキモオタに俺らが負けるとでも? もしかして、勝てると思ってた?」


「きゃーー! やっぱりカッコいい!」

「オタク共に手加減してたのね!」

「やっちゃえー! やっちゃえー!」


 黄色い声援が息を吹き返す。

 心配そうに見つめる渡辺。


 カッコ悪いところなんか見せられない。だが……


「オデのポテチとコーラなくなっちまった……」

「僕のデータにはあんな動きはないです。このままでは……」

「さっきから俺へのマークが厳しい……」


 前半に相手が舐めてくれたおかげで同点ではあるが、正直厳しい状況になってきた。

 荒川、伊勢、金田はもう限界か、俺と川辺はまだ動けるが……。


 が、その時――


「やっと来たか」


 チームの雰囲気が最悪の中、川辺だけがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「せいやー! せいやー! せいやー!」


黄色い声援をかき消す男立ちの応援が耳に入る。


「あれって……」


 オタ芸集団か? 30人以上の屈強な男たちが、ペンライトを持ちながら、激しく踊っている。


「俺が呼んだんだ」


「川辺隊長が頑張っておられる! みんな精一杯応援するんだー!」

「金田、荒川、伊勢! 集中しろ―! オタ芸の精鋭がかっこ悪いところ見せるな!」

「あと1点だろー! 気合い入れろー!」


 大きな声で俺たちに声援を投げかける。


 なんて頼もしいやつらなんだ。

 これなら、もしかしたら……いや、勝てる。


「僕が諦める? これからですよ」

「ポテチとコーラがなくたってオデはやれるっす!」

「何人でもこい! 俺のフィジカルなめんなよ!」


 荒川、伊勢、金田が息を吹き返す。


 時間は残り1分と少し。プレイ出来て1回だろう。


「さぁ、行くぞ!」


 試合再開


「るっせーな。キモオタ軍団が集まったところで何ができんだよ」


 大久保の煽りを無視しドリブルで運んでいく。


「へへ、オタク共が寄ってたかって何が変わるんだ? あぁ?」


 すぐさま、川辺へパス。

 無理はしない。ボールを奪われたらそこで終わりだ。


 荒川、金田、川辺、俺で落ち着いてボールを回し相手を観察する。


「雑〇どもが、寄ってたかってうぜぇんだよ!」


 その時だった、大久保が川辺に向かって足を踏みボールを奪い去った。


「っぐぅ」


 川辺が倒れるが笛は鳴らない。

 普通ならレッドカードで1発退場だ。


「お、おい! 今のファールだ」


 だが、審判は何事もなかったかのように試合を進める。

 そういえば、こいつもサッカー部だったな。


 どうやら審判は大久保に買収されているらしい。

 正当なジャッジには期待しないほうがいいだろう。


 大久保のやつスポーツマンシップの欠片もねぇやつだ。


 時間も残り少なかった俺らは前衛に人数を割いていた影響で、後ろはがら空き。


「ディフェンス!」


 俺も後衛へ下がろうとしたその時。


「周介! お前は前にいろ! お前が下がったら誰がゴールを奪うんだ」


 川辺が脚を引きずりながら後ろへ下がっていく

 あいつ、無理しやがって……。


「分かった!」


 ここは川辺たちに頑張ってもらうしかない。

 頼むぞ、みんな――

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