第7話 仲間集め

 オタク同好会部室。


 大久保先輩の勝負を受けたはいいものの俺はいま重大な問題に直面していた。

 

 

 メンバー集めである。


 球技大会をするといってもやるのはフットサルなのだが、ルール上、5vs5で戦わなくてはならないため最低5人仲間を集める必要がある。

 川辺を強制参加させたので最低であと三人メンバーが必要な状況。

 もちろんオタクである俺と一緒にフットサルしてくれる人なんているはずもなく……。

 

「はあ~」

 

 困り果て、ため息を吐いた。


「しょうがねぇーな。俺に任せろ」


 舵を切ったのはなんと川辺。


「あてがあるのか?」

「まぁな、あいつらなら協力してくれるかもしれない……」

「マジか! 頼りになるお前初めて見たよ!」

「殴ってやろうか?」


 どうやらあてがあるのは本当らしい。

 俺が勧誘してもこのままじゃ進展がないので、ここは川辺に任せるしかない。



 球技大会前日――


「集めてきたぞ」


 川辺が連れてきたのは、同じクラスの荒川、金田、伊勢だった。

 名前は知っているが、話したことはない。元々川辺の知り合いなのだろうか?


「こいつらは、オタ芸の先鋭たちだ」

「オタ芸の先鋭たち……?」

「あぁ、前に俺が裏でオタ芸の活動をしてるって言ったよな? その仲間だよ」


 なるほど、要するにオタ芸をこよなく愛する仲間の中でも選りすぐりの人たちを集めてきたってことか。


「一癖も二癖もあるやつらだがな……」

「集めてきたのは助かった。だけど、お前とこの人たちが一緒にいるところなんか見たことないぞ」

「それについては訳がある」

「聞かせてくれ」

「この学校は陽キャばかりだからな、オタクってだけで虐げられる。お前が一番分かってるだろ?」

「まあな」


 それは俺が一番肌で感じていると自負できる。


「だから隠してた。要するに隠れオタクってわけだ」


 隠れオタクだと?

 要するに俺や川辺、内海たちのようなオタクが同じクラスに3人いたってことか?

 ずっとオタクであることを隠し続けて……。


 俺は感動した。


 同じクラスの中にこんな隠れオタクがいたなんて……!


「目立つのは嫌いなんですが、川辺くんの頼みとなれば断るわけにはいきませんからね」


 敬語で話すこいつは荒川だ。


「やるからには勝ちますよ」


 眼鏡をクイッと上げた。


「僕に任せてください。今回対戦する大久保先輩率いるチームサッカー部はカウンターが特徴的です。その中でもやはり大久保先輩には注意が必要そうですね。彼は県大会で二桁得点を叩きだしているエースストライカーです。彼は利き足が左足、ミドルレンジのシュートを得意としているようです。カットインからのシュートにも警戒が必要ですね」


 す、すごい……!

 早口すぎて聞き取れなかった!


「凄いだろ、俺らの間では『データマン』と呼ばれている」


 かっこいい!


「も、もしかして、選手一人一人の特徴を把握してるのか?」

「当たり前じゃないですか、『彼を知り己を知れば百戦危うからず』です」


こいつは期待できそうだ。


「俺がハットトリックしてやるからよ! 期待しとけ」


自信満々に話しているこいつが、金田だ。


「よろしくな! 粟井」

「お、おう。よろしく」

「こいつは、俺らの間では『ポジティブマン』と呼ばれている」


 スポーツをする中では一番重要なモチベーターを呼んでくるとはさすが川辺。


「フィジカルには自信があるんだ! ボールのキープは任せとけ!」


オタ芸で鍛えられているからか身体もがっしりしてるし期待できそうだ。


「絶対勝とうな!」

「お、おう!」

 

 金田が手をスッと差し出してきたので厚い握手を交わす。

 熱い性格に圧倒されたが、話してみた感じ凄くいいやつそうだ。


「オデがゴールを守るから大丈夫っス!」


 オデが第一人称のこいつは伊勢だ。


 190cm近くある身長もさることながら、横にも超でかい。ゴールを守るにはぴったりだろう。


「こいつは10分に1回ポテチとコーラを摂取しないと活動できない身体がネックなんだ」

「それ使い物にならなくないっすか?」

「まぁ、落ち着けって、その代わり、ポテチとコーラさえあればどんなことでも完璧にこなしてくれる。それに当日はポテチとコーラを大量に用意しておくから安心だ」


 そんなことが可能なのだろうか、少し半信半疑だが、集めてもらった手前文句は言えない。

 本当に一癖二癖あるメンバーだが、行けそうな気がするのは何故だろう……。

 疑問を抱いていた俺は、こいつらに訊いてみることにした。


「どうして知らない俺のなんかの為に協力なんかしてくれるんだ?」

「ずっと粟井くんのことを見てたんですよ」


 えっ?


「オデらずっと思ってたっす」

「あぁ、お前すげぇよ」


一体何のことだ……?


「粟井くんは本当に凄いです。オタクであることを隠さず、堂々としているのですから、それにくらべて僕たちは2流のオタクです。ずっと表では陽キャの振りをし続け裏でオタク活動に勤しんでいたのですから」

「だからオデら、粟井くんの力になりたいっす!」

「そういうこと! オタク仲間がピンチになってるんだ、ほっとくわけにはいかないだろ? それに粟井、お前はオタクの鏡だ」


 お、お前らああああああああああああああああああああ


「まぁ、そんな感じだ。仲良くしてくれよ」

「もちろんだよ! 明日はよろしくな!」


 俺は3人と厚い抱擁を交わした。


 川辺のおかげで人数は揃った。

 あとは、本番を待つのみ。

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