第11話 ギャルの恩返し

 クラス対抗球技大会も終わり、いつもの学園生活へと戻った。

 いつもと違うのは親衛隊の冷たい視線がなくなったことだ。フットサルで大久保先輩を打ち負かした結果だろう。

 大久保はあの後、部活の連中から馬鹿にされ続けているという。それもそうだ。キモオタと罵っていた俺らに負けたのだ。人生最大の汚点だろう。最高のざまぁ展開をスパシーバ。


「これで少しはオタクの迫害も減ってくれると助かるんだがなあ」


 そういえば内海はというと、あの後、しばらくの間保健室にやっかいになっていた。

 保健の先生が「球技大会、相当白熱してたのね。女子が倒れるなんて珍しいわ」と言っていた。

 白熱していたのは事実だが、内海が倒れた理由は100%違うだろう。







 キーンコーンカーンコーン






 終業のチャイムが鳴る。


 オタク同好会へ足を運ぼうと立ち上がろうとしたその時、後ろからツンツンと背中をつつかれた。


 「どうしたんだ?」


 振り返ると渡辺が、にこやかに微笑んでいた。

 

 「あのさ、周くんって欲しいものとかある?」

 

 もじもじしながら渡辺が訊いてくる。いつもより余所余所しいのは気のせいだろうか……。

 それにしても欲しいものか。急にどうしたんだろう。

 

 「実はあたし、周くんに助けられてばっかりでしょ? だからお礼がしたくって」

 「お、お礼? そんなの大丈夫だよ」

 「だめだよ! 海で溺れたときもあの後なにもしてあげられなかったし、それに球技大会だって……」

 

 渡辺が気にするのも分かるが、あれは身体が勝手に動いただけだ、球技大会に至っては俺が受けた勝負だしなあ。

 もう終わったことなのに、意外と渡辺は義理堅いようだ。

 だが、困った……これといって欲しいものもない。

 強いて言えば最近発売されたエ〇ゲが気になってはいるが、さすがにエ〇ゲを女性に強請るねだるわけにはいかない。


「そうだなぁ……」


 と、腕を組みながら考えていると、渡辺が


「それじゃあ、一週間お弁当作ってあげるっていうのはどうかな? 周くんってたしかお昼は購買だったよね」

「お弁当? それは嬉しいけど、渡辺が大変じゃないか?」

「大丈夫! あたし、こうみえて料理には自信あるんだよ♪」


 えっへんと、自信満々な表情を浮かべる渡辺。


 最近気づいたことがある。

 見た目は360℃誰がどうみてもギャルなのに振る舞いや性格はとてもじゃないがギャルには見えないのが不思議だった。

 親の教育がいいんだろうか……。


「いま、意外だって思ったでしょ~?」

「えっ?」


どうやら顔に出てたらしい。


「もー! あたし、毎日お弁当自分で作ってきてるんだよ」

「すまん、全然知らなかった」

「っていうわけだから! 明日から作ってきてあげるね」

「それじゃあ、お願いしちゃおうかな。でも無理はするなよ」

「分かってるって♪」


遠慮するのも申し訳ないので、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。


「周くんって、食べられないものとかある?」


 恥ずかしい話、俺は嫌いな食べ物が沢山ある。

 とくにアレルギーがあるというわけじゃないんだが苦手なものは苦手だ。

 なんとか克服しようとは努めてはいるが……いまのところ結果は出ていない。


「生魚とゴーヤ、ナス、海、杏仁豆腐、あとパクチーも嫌いだな」


 だが、渡辺が作ったものだったらなんだって口にいれられる自信がある!

 なんでもこい!


「ふむふむ。意外と多いんだね」


 と、俺の嫌いな食べ物をスマホのメモ帳に記録している。


「おっけー! それじゃあ明日、楽しみにしててね♪」


 満面の笑みを浮かべる渡辺。


「さっちゃん~、帰ろ~」

「あっ、みやっちゃん!」


 宮本だ。どうやら一緒に帰る約束をしていたらしい。


「粟井も一緒に帰る? ん?」


 ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべてくる。

 別に嫉妬してないから……。


「いや、仲良くお二人でどうぞー」


 と、平静を装う。


「そう」


 海の事件後、宮本と話すことが多くなったが、やっぱりあの鋭い目つきのせいか、まだ少し絡みづらい雰囲気がある。渡辺も信用しているのでいいやつではあるんだが……。

 ちなみに宮本は渡辺と一位二位を争うレベルで男子生徒から人気だということを川辺から聞いた。

どうやら黒ギャル派閥と白ギャル派閥に分かれて日々いがみ合っているようだ。なんて醜い争いをしているのだろう。


「じゃあ周くん、また明日ねー♪」

「おう! 弁当楽しみにしてる」


 渡辺と宮本を見送った俺は、明日のお弁当に胸を膨らましながらオタク同好会へと向かった。

 ついでに川辺たちにお弁当のこと自慢してやるとしよう。

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