第12話 ギャルの手作り弁当

 ――翌日

 待ちに待ったランチ時間タイム


「じゃーん!」


 机の上に置かれた二段になったピンク色のお弁当箱。


「ありがとう。凄い楽しみにしてたよ」

「さぁ、食べて食べて!」


 急かす渡辺。

 どうやら早く味の感想が訊きたいらしい。


 いざ、お弁当箱の蓋を開けると、そこにはカラフルなおかずの数々が姿を現した。

 まず一番目についたのが、ご飯だ、開ける前は普通の白飯が待っているかと思いきやこれは、キャラ弁だろうか……。海苔で髪型、鼻、目を表現している。

 誰だろう。とても目つきが悪い。


「まじまじと見ちゃって……どうしたの?」

「あぁ、いや。凄い手が込んでるお弁当だなと思ってさ、ちなみにこのご飯のモデルって誰なんだ?」

「そのご飯は周くんの顔だよ♪」

「えっ!?」


 俺こんなに不愛想な顔してたかな……。

 他人から見る自分の顔は、自分が見るときとかなり違うらしいと言うが、ここまでとは……。

 それにしても、おかずは、ミートボールにたこさんウインナー、ハート形の人参と卵焼きまで入っている。


「早く食べないの?」


 渡辺が小首を傾げる。


 全体的に見てもとてもクオリティが高い。

 どれから手を付けたらいいんだろう。


「どうしたの?」

「なんか、すごくカラフルで食べるのがもったいなくって」

「なにそれ~。周くん、面白いこと言うね。好きな物から食べてよ」


 それなら、お弁当の王様。卵焼きから食べてみることにしよう。


「そ、それじゃあ。いただきます」

「どうぞ♪」


 ハートに形作られた卵焼きは半熟で、すぐに口のなかで蕩けた。


「うっま!!!!!!!!!」


 素直な感想がこぼれる。

 美味すぎる! なんだこの卵焼き、普通のとは明らかに違う。


「正直、俺のお母さんのより美味しい」

「大袈裟だよ。それにお母さんに超失礼~」

「本当だって」

「実はあたし、まだ料理の勉強中なんだ、だから上手く作れてるかちょっと心配だったの。でも大丈夫そうで安心した♪」


 いやいや、勉強中のクオリティじゃない。

 ミートボール、たこさんウインナーと次々におかずを口に運ぶ。

 これも美味い、ちゃんと味が染みてる。


「さすがにミートボールは冷凍だよな?」

「違うよ。ウインナー以外は手作り」

「マジか」

「マジで~す♪」


 ギャルで可愛くてスポーツ万能で成績が良くて誰にでも優しくて"料理ができる"

 最高の女性いや、霊長類最強だ!


 箸が止まらない。

 おかず、白米と交互に口に運ぶ。


「でもよかった~、周くんが喜んでくれて、これで恩返しできてるかな?」

「うん、嬉しいよ。正直、これが最後の晩餐でもいいぐらい」

「冗談いいすぎ~」


 いや、本気である。


「晩餐にしては質素だね」


 と、軽くツッコまれた。


 それにしてもこのお弁当が、あと4日間あると思うと……。

 幸せすぎる! 天国ですかここは!

 というか一生俺の弁当を作ってくれないかなー!


「はい、温かいジャスミン茶もあるよ」


 もう至れり尽くせりとはまさにこのことである。


 背後からざわざわと喋り声が聞こえてきたので、ふと、周りを見るとクラスの男子共が俺らを睨んでいた。

 正確には俺だけ、だけど。


「なんか仲いいなあいつら……」

「あいつが渡辺さんとお昼ご飯を……ムキ―!」

「俺も渡辺の弁当食いて~、くっそなんであんな野郎が……」


 周りの視線が痛いが、そんなこと関係ない。

 渡辺のお弁当が食いたければオタクへの考えを改めるんだな!

 もし、今までの無礼を詫びるのであればたこさんウインナーの足のさきっぽぐらいなら食べさせてやらんでもない。

 コップに入ったジャスミン茶を妬んでいる連中に向けて掲げる。


 心の中で「ルネッサーン」と叫んだ。


「栗井の野郎、調子に乗りやがって」

「だけど、あいつにちょっかい出すと渡辺がまた怒るかもしれないからなあ……」

「くっそ、俺らはここから見てるしかないのか」


 今まで散々罵られてきた仕返しだ。ふんっ!

 と、俺はドヤ顔を浮かべる。


「さっきからどうしたの?」


渡辺が小首を傾げた。


「あぁ、いやなんでもない」


 少し虚しくなったのでやめることにした。

 あんな奴らは放っておいて、目の前の弁当に集中するとしよう。


 その後、お昼休みの時間もあっという間に終わりを迎えた。

 お弁当ももちろん完食。


 ギャル神様である渡辺に向かって深く手を合わせる。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした~♪」


 こうして、渡辺の手作りお弁当生活1日目が終わった。


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