第6話 本当に何もなかったよ?

 翌日の早朝――


「めっちゃよく寝たねー! いい天気~!」

「んうぅ~」


 渡辺の元気いっぱいの声が部屋に響く、俺はと言うと朝まで煩悩と戦っていたのもあって一睡もできなかった。


 結局あの後、ずっと同じ体勢まま朝を迎えた。

 ずっと首筋に渡辺の息が当たっていて、寝ようにも寝れず、股の間に脚を入れられ、渡辺の脚の感覚が直に伝わってきて大変だった。


「うぅぅ……」


 それにしてもよく我慢したぞ俺! 何度も俺の中にいる悪魔がささやきかけたけどなんとか切り抜けた。

 無事、何事もなく朝は迎えたことを喜ぼう。


 身支度を済ませ外へ。渡辺のお化粧が終わるのを待つ。

 女性は朝から色々することがあって大変だなぁ。


「お待た~! 今日のメイクどうかな?」

「いつも通り決まってる」

「やったー! スッピンとどっちが好き?」

「スッピン姿も新鮮でいいと思うけど、俺は、メイクしたほうが好きかな。いつもの渡辺って感じがするし」

「えへへ、ありがと♪」


 昨日のスッピンとは違いバッチリメイクが決まっている渡辺。

 やっぱりこのメイクが一番しっくりくるな。


 一度家に帰るにはめんどくさいのでこのまま一緒に登校することに。

 最寄りのバスに乗ると、わが校の生徒で溢れかえっていた。男子生徒からの視線が痛い。

 だけど今回ばかりは仕方がない。文句は台風に言ってくれ。


 学校に着くと、親衛隊が教室の隅で、こそこそ話をしているのが目に入った。

 話してる内容から渡辺と俺の名前が出ていることから、どうやら俺らが一緒に登校していることが広まっているようだ。


 伝達速度速すぎだろ……。

 海と球技大会の一件以来、俺に絡んでくることはなくなったが、冷たい視線を向けてくるのは変わっていない。まぁ、みんなと仲良くなることなんてできないから別にいいんだけどさ。

 お前らがグチグチ言ってる間に俺は渡辺から勉強を教えてもらったし、スッピンだって見た。お前らが知らないうちに俺らは友好な関係を築いているんだ!


「よー粟井、RINE無視すんなよ」

「粟井くん、どういうことなの? 説明して!」


 川辺と内海が不満な顔を浮かべながらこっちに向かってくる。


「あっ」


 あいつらを見て思い出した。

 そういえば、昨日の夜にメッセージが来てたっけ、くだない内容で返信するのがめんどくさかったから無視してたんだった……。


「おい! ちゃんとゴム付けたのか?」

「粟井くんの初めては川辺くんとじゃなかったの? ねぇ! 説明して!」


 あぁ、どいつもこいつもうるさい。


「まずヤッてないし、川辺とする予定もないから安心しろ」

「昨日はどうしたんだ? 渡辺の家に勉強しにいったんだろ?」

「あぁ、そうだよ」

「台風だったよな? まさかあの中を帰ったのか?」


 あまり色んなやつに泊まったことを言いたくはなかったが、逆に隠してるとやましいことをしたと思われてしまう可能性がある。ここは包み隠さず言うべきだ。


 俺は淡々と正直に話すことにした。


「泊めてもらった」

「やっぱりな、俺の予想は当たってたか! で、どうだったんだよ」

「別に何もなかったよ。普通に勉強して、飯食ってゲームしただけ」

「本当にそれだけなのかしら? 正直にいいなさいよ!」


 内海が夫の浮気を問いただす奥さんのように鋭く睨む。

 俺、なんか悪いことしました!? メガネ越しでもめちゃくちゃ怖いんですけど。


「クンクン」


 川辺は俺の制服と髪の毛を入念に嗅いでいく。

 なにやってんだこいつ?


「これは、女性もののシャンプーの匂いだ。ワトソン君」

「ホームズ! もしかして」

「えぇ、ワトソン君、粟井と渡辺の髪の毛を調べるのです。そこに答えはあります」


 内海が渡辺の髪の毛と俺の髪の毛の匂いを比べはじめた。


「同じ匂いがします! はっ! つまり……」

「えぇ、この人は嘘を吐いています。彼は勉強をしてゲームをしただけだと言っていますが、男女が一緒の部屋にいてこれで終わるはずがありません。この匂いはお風呂に入った証拠。つまり、お風呂にはいった後にすることと言ったら? そういうことです。感のいいあなたなら分かりますね?」

「そ、そういうことですか! ホームズ! 謎が全て解けました!」


 なんだこの茶番……。てかお前ら揃って犬か!

 後ろでゲラゲラ渡辺が笑っている。

 笑い事じゃないからな


「白状しろー」


 いつの間にか、宮本が渡辺の隣で俺らの茶番をじっと見つめていた。

 こういう時だけノリがいいんだよな。こいつ。


「いや、だから本当に何もしてないから。だよな渡辺?」


 情けないがここは渡辺に助けを求める。

 本当に何もしていないということを渡辺の口から出ればこいつらも納得するだろう。





「激しい夜だったよね……あたし、ビックリしちゃった……」





 いやいやいや! 何もしてないから! 誤解を生む発言はやめて!


「やはりそうだったか、俺の目はごまかせないぞ」

「川辺くんのことなんてどうでもいいんだね……」

「うわ~、粟井さいてーだー」


 昨日1日理性を抑えるのに大変だっというのにこいつらときたら……。

 俺の苦労も知らないで……。


「おい! ちょっとまて! 話が飛躍しすぎだ! 一緒に寝たのはたしかだが、別にいやらしいことは一切……」

「嘘、どうして嘘つくの……? シクシク」


 悲しい表情を浮かべる渡辺。泣きまねだ。名演技すぎる!

 女性の悲しい表情を見ると何故か罪悪感に蝕まれてしまうのは何故だろう。何もしていないのに……。

 気が付けば、周りの男子生徒の視線が俺に向く。


 やっぱり清水寺で引いた凶が原因だろうか……。

お祓い行こうかな。


 色々あったが、こうして粟井周一のテスト勉強が幕を閉じた。



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