第5話 一緒に寝よ♡
『おりゃああああああああああああああ』
『そこだああああああああああああああ』
俺と渡辺はエ〇ゲの画面を真剣に見つめていた。
序盤から熱い展開が続いている「戟鉄の魔王」
やはり人気なだけあって戦闘シーンは作り込みが凄い。今までのエ〇ゲの中では群を抜いている。
音楽と声優も手を抜いていない。今の所クオリティが高い作品だ。
「戦闘シーンすごい迫力だね! あと声優もめっちゃ豪華~」
「さすが、制作に5年かかってるだけはあるよな」
俺らは序盤の感想を語り合う。
初めて渡辺がプレイしている姿を見たが、ギャルがエ〇ゲをしているこの光景。
ミスマッチ感が半端ない。
いつもこういう感じでプレイしてるんだなぁ。
前に渡辺は小説より刺激が強い物語が読みたくてエ〇ゲをやり始めたって言ってたっけ。
そして場面はヒロインと二人きりのシーンへ。
あれ? この展開はもしかして……
エ〇ゲを長年プレイしていると、エッチなシーンがどこらへんで来るのか大体予想が付く。
「これって……」
俺がポツリと呟く。
そして主人公とヒロインがキスをし始めた。
普通のキスではなく舌を交わせる濃厚なキス。
「……」
「……」
気まずい!!
家族と海外映画を見ている時に急にキスシーンに入ってお茶の間が冷たくなる感覚に似ている!
ふと、渡辺を見ると耳と顔が真っ赤に染まっていた。
やはり恥ずかしいようだ、しばらく静寂が辺りを包む。
耐えかねて時間を見るともうすぐ24時を回ろうとしていた。
「も、もう24時になるしそろそろ寝るか」
「う、うん……」
ぎこちない渡辺。
こういう恥ずかしがっている渡辺は初めて見るのでとても新鮮だ。
まぁ、気まずいシーンを見てしまったのだ。誰だってそうなるだろう。
だが、序盤にああいうシーンがあるとは思わなかった。少し油断していたな。やはりエ〇ゲはソロプレイに限る。
電気を消して床に寝転ぼうとしたその時だった。
「一緒に寝ようよ……」
甘えた子供のように言う渡辺。
「えっ? いやでも……」
「来て♡」
「はい」
その言葉にあらがうことができなかった。渡辺と顔をあわせないよう背中向きで布団に入る。
理由はもちろん恥ずかしいからである。
ドクドクと心臓が早鐘を打つ。
俺、不整脈で死なないかな?
「どうしてそっち向くの~?」
背中に渡辺の息が当たってゾクりとする。
「いや、向かい合ったら色々まずいだろ?」
「むー、意気地なし~」
後ろを向いているからどんな顔をしているか分からない。
恐らく、頬をむっとしていることだろう。
「勉強してるとき、周くんずっとおっぱい見てたでしょ」
ドキッ!
やはりバレてたか、女性は胸の視線に敏感だというのは本当だったみたいだ。
「わ、悪い……」
言い訳をするのは良くないと思った俺は、素直に謝ることにした。
「やっぱりそうだったんだ~、周くんも男の子だね。ちなみに……どうだった?」
「どうって?」
「大きかった?」
「え、いや……大きかったかな?」
「こっち見てくれたら触らせてあげるよ♡」
「うえっ?」
やばい、変な声出た。この展開はまずいだろ!
エ〇ゲならこの後100%エッチするパターンだ。
もし今がエ〇ゲだとすれば選択肢はこんな感じに表示されるはずだ。
選択肢
エッチする
エッチする
エッチする
エッチする
エッチする
息が粗くなるのが自分でも分かった。
「あたしは、周くんとだったらいいんだけどな~?」
耳元で囁く。
「っは!?」
腕と脚を絡ませてくる。
お互い短パンだから脚の感覚がダイレクトに伝わってくる。男の理性にダイレクトアタックだ。
実はビッチって噂は本当だったりしないよな!? 裏でこういうことしてたりしないよな!?
俺は疑心暗鬼になる。
「じょーだんだよ! もしかして、本気にしちゃった?」
まったく、冗談もほどほどにしてほしいものだ。
「まぁな、でもそういう冗談はやめておいた方がいいぞ。俺意外の男だったら確実に食われてる」
「もちろん他の人には言わないし、周くんだから言ったんだよ~」
さいですか。
「それにしても、もっとオドオドすると思ったんだけどな~。なんかガッカリしちゃったな~」
残念そうな声を上げる。
正直、マジで心臓が破裂するかと思ったっていうのは秘密である。
「もう、寝るぞ~」
「あーごめん。待ってって!」
慌てて謝る渡辺。
「今日はありがとう」
「お礼の言うのは俺の方だよ。勉強まで教えてもらって、それにお泊まりまで……」
「まだ気にしてたの? あたしは全然大丈夫だよ! いつも家で一人だから話し相手がいて嬉しい」
そういえば気になっていたことがあった。
渡辺のご両親の存在だ。今日はずっといないといっていたがどういうことだろう。
「ご両親は?」
「仕事だよ。お母さんとはずっと話してないんだよね……」
夕方から朝までいないとなると、渡辺と真逆の生活をしていることになる。
ということは親子との時間がまったくないということ。
仕事だからある程度はしょうがないと思うが、大事な一人娘をほったらかしにしている現状には納得はできない。
恐らく親子喧嘩が理由だろう。この歳なら一つや二つあるものだ。
「そっか、仲良くなれるといいな。機会があったらご両親に会ってみたいよ」
「うん。また今度ね……」
歯切れの悪い返事だった。
俺は疑問を抱きつつも話題を変える。
「そういえば、今度、買い物とか行かないか?」
渡辺には勉強を教えてもらったり、修学旅行ではウサギの置物をもらった。
お世話になりっぱなしだったからずっとお礼がしたいと思っていた。
「えっ? 行きたい! いついつ?」
「テストが終わったらかな。楽しむなら面倒ごとが終わってからの方がいいだろ?」
「テストが終わったら……か……、そうだね……」
返事に覇気がない。いったいどうしたのだろう。
「どうした? もしかして用事?」
「うんうん。なんでもない! 大丈夫だと思う」
いつものトーンに戻ったのが分かってホッとする。
「それにしても、周くんが遊びに誘うのなんて初めてだよね」
よくよく考えたらそうだ。
いつも渡辺が誘ってばっかりだったな。インドアの俺も変わったもんだ。
「楽しみだな……何買ってもらおうかな~」
明るく振る舞いながらもほんの少し声が震えているのが分かった。
でもどんな顔をしているか俺からは分からない。
絡めてる渡辺の手がギューッと強くなる。
俺はそれをそっと自分の手で包み込むのだった。
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