第4話 ビンゴ大会

 高速道路を走り、目的地に着くのが2時間弱。

 バスの中では、各々好きなことで時間を潰している。

 トランプをしている者、談笑している者、スマホでゲームをしている者とさまざまである。


「みなさん注目~! これからビンゴ大会をしますー!」


 クラス委員の石川が音頭を取る。


 その声に渡辺はバツが悪そうな顔をする。

 海の一件以来石川とは口もきいていないらしい。


 相当忌嫌っているようだ。どんまい! 石川!


「みんな行きわたったかな~?」


 縦、横、斜めのマスにランダムに番号がふられたカードが全員に配られる。

 抽選番号は石川のスマホで発表されるようだ。


 ビンゴ大会か……中学生の林間学校でやった以来だ。


「なんと景品はお菓子詰め合わせでーす!」


 じゃーん! と言いながら、うま〇ぎる棒300本が入った袋を持ち上げた。

 デカすぎて石川の上半身ぐらいある。あんなの業務用スーパーですら売ってないと思うがどこで買ったんだ……。

 っていうかこれから観光するのに邪魔すぎやしないか?


「おっ! すげー!」

「あんなにたくさん入ったうますぎる棒は初めて見た!」

「絶対勝ち取ってやるわ!」


 クラスメイトたちはやる気満々のご様子。


「マジ!? やるしかないっしょ!」


 隣で目を光らせる宮本。

 ほんと食い物のことになるとテンションが高い。


 「それじゃあ、さっそく最初の番号を発表するよ~!」

 

 息をのむ一同。


「最初は、22番!」


 番号が発表されてすぐに、クラスメイトの歓喜の声や落ち込む声が上がる。

 ちなみに俺のカードには22番の番号はない。


「ビンゴの人!」


 と、石川が右手を上げながら言った。


「ばーか! まだ1個しか開いてないのにビンゴなわけないだろ~!」

「はっはっは」

「笑うわ~」


 言ったぐあいに寒いノリがあたりを包む。

 もちろん後ろの席に座ってる一同は真顔で石川を見つめている。川辺だけは眠ったまま。


「続いては~! 5番!」


 また俺のカードにはない番号。


 渡辺は、もうすでに2つの穴が開いている。

 つまらなそうにスマホをみつつも一応ビンゴ大会には参加している。


「続いては~! 75番!」


 ようやく一つの穴が開いた。


「どんどん行くよ~! おっと! 1番~!」


 宮本を見ると俯き絶望の表情を浮かべていた。

 手にはぐしゃぐしゃに捻じれたビンゴカードが握られている。あの顔は諦めた顔だ。


 小さい声で「死にたい」って聞こえたきがしたが気のせいだろう。


「そろそろビンゴが出てくる頃かな~?」


 いつもの冷静な石川とは違うハイテンションなノリで周りをにぎわす。


 いまのところ4つの番号が発表されたがまぁ、まだこれからだろうと全員が思った矢先。


「えっ!? 当たってるんだけど! 周くんみてみて!」


 渡辺のカードを見ると4つの番号すべてが綺麗に横一列に並んでいた。


「マジか、っていうか」


 さすがの俺もビックリする。


「みやっちゃん、にあげる。あたし、あいつと関わりたくないし」

「えっ! さっちゃんいいの~?」

「いいよいいよ。お腹空いてるでしょ?」

「いえーい!」


 さっきまで死んだ屍のようだったのがウソのようだ。

 渡辺のビンゴカードを受け取りスキップで石川のもとへ向かう。


 遠くなので、石川とどういう会話をしているか分からないが


 すぐさま宮本に大きな拍手が巻き起こった。


 スタスタと戻ってくる。


「見て! いいでしょ~」


 宮本が大きな袋を自慢げに見せつけてくる。

 

「良かったな」

「それじゃあ、さっそく!」

「いまから食べるのか?」


 思わず突っ込んでしまう。


「当たり前っしょ、朝食べてないんだから」


 朝食べてないからその代わりにうますぎる棒をお腹にいれるのはどうかと思うが……。

 争うのも嫌なので言わないでおく。


「あ~、めっちゃ美味い~、朝抜いてきてよかった」


 光の速さで袋をあけ、次々と口に運んでいく。


「あ、あれ? なんか紙が入ってる」


 宮本が小首を傾げ、謎の二つ折りにされた紙を拡げる。

 そこにはRINEのIDらしきものが書かれていた。


 あの野郎、修学旅行にも関わらず、女に手を出すか……。

 すぐその紙を渡辺が奪い取り、細かく引きちぎる。


「マジで最悪、みやっちゃんに手出したら許さないから」


 渡辺が静かに怒りを込めた言葉を放った。憤怒に塗れた目つきをしている。

 怖すぎますよ! 目が逝っちゃってますよ!


「お、落ち着けって、あの石川が宮本と釣り合うわけないだろ」

「まぁ、それもそっか! みやっちゃんゴツイ人が好きだし。石川はひょろひょろだしね~」


 いつもの明るい表情に戻って一安心する。

 それにしても石川、お前の知らないところで罵られていると知ったらどう思うだろうか。

 まぁ、自業自得なんだがな!


 宮本は先ほどのことなんかなかったかのように満面の笑みでうんまい棒を口に運んでいる。石川など眼中にないようだ。

 その幸せそうな様子を俺と渡辺はしばらく見つめていた。


 渡辺の豪運によってあまりにも早く終わってしまったビンゴ大会。

 特にやることがなくなったので渡辺と談笑することに。


 エ〇ゲの話はクラスメイトがいるからやめておいた。代わりにこれから巡る観光スポットについて話す。


 そんなことをしているうちに2時間ほどが経ち、目的地である京都駅に到着。

 ちなみにうんまい棒300本は目的地に着くまでに宮本が腹の中に収めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る