第3話 楽しい楽しい修学旅行
修学旅行当日――
学園の前には三台バスが縦一列に並んで止まっていた。一足先に着いていた俺は、一番乗りでバスに乗り込む。
もちろん席は決まっている。真ん中の一番後ろ。通路側の人からは丸見え、本当は一番後ろの左隅か右隅が良かったんだが、川辺曰く、どうやらバスの座席はランダムになっているとのこと、さすがの修学旅行実行委員といえど無理なこともあるか。
隣に誰が座るかは伝えられていない。
これは修学旅行実行委員が少しでも楽しんでもらえるようにと考えたらしい。
ちなみに俺の私服は、グレーのシャツに黒のジーンズ。
超カジュアルなスタイルできた。まぁ、誰がどうみても普通の恰好だ。
「おはよー」
「めっちゃ私服可愛いね!」
「お菓子沢山持ってきたよ~」
少しするとちらほらクラスメイトが乗り込んでくる。
ウキウキしている者、寝不足で目元にクマができている者。マイ枕を持ってくるのを忘れ絶句している者と色々な奴らがいる。
俺? もちろん楽しみすぎて眠れなかったけど?
なんか文句ある?
通路側の一番後ろに座っているので入ってくるクラスメイトと必ず目線が合うことに気づく、
なんか落ち着かない。
だが、発進してしまえば関係ない。
全員が乗り込むまでの辛抱だと自分に言い聞かせる。
「粟井くん。おはよー」
内海だ。いつものグルグル眼鏡を付け。
白いワンピースに身を包んでいる。
うん、清楚だ。
内海にしてはとても似合っていたがあえて口にしない。
というか私服を見るのは初めてな気がする。海の時は制服着てたしな。
それにしてもあれだな、普段制服しか見ていないからか、見慣れていない私服姿を見ると妙にドキドキしてしまうのは俺だけだろうか。
俺は平静を装いながら訊く。
「よぉ、お前の席どこ?」
「後ろの右隅だよ」
なんだと?
俺が一番座りたかった席じゃないか……ちくしょう!
内海は席に座ると、単行本を開き読みだした。
何を読んでるの? と訊こうと思ったが、多分、いや100%BL本だろうから訊かないでおいた。
「よぉ、随分早いな」
修学旅行実行委員のご到着だ。
寝不足なのか覇気がないように見える。こいつも楽しみすぎて眠れなかったか。
どこの席に座るかと思えば、一番後ろの席の左隅に座り出した。
こ、こいつ。席はランダムだって言ってなかったっか?
オタク同好会全員が後ろの席ってどんな確率だよ……。
しばらくしてクラスメイトの半分以上がバスを埋めた。依然として俺の両隣りに座る人は姿を現さない。
辺りを見渡すと、渡辺と宮本の二人がまだ来ていない。
既に座っている者たちは観光する場所について話をしている。
「わっ! みてみて! 渡辺と宮本だ!」
「私服セクシーすぎる!」
「相変わらず可愛いー! どこのブランドかな?」
騒がしくなってきたと思ったら、渡辺と宮本御一行が到着。
周りの歓声を受けながら一番後ろの座席にいる俺の方へ向かってくる。
薄々気づいてはいた。俺の両隣りが渡辺と宮本だということが。
「周くんおはよー♪」
渡辺はオーバーサイズのパーカーとショートパンツを履いてやってきた。
水着を一緒に買いに行った時とは違いラフな格好だ。
だが、オーバーサイズのパーカーが丁度ショートパンツを隠しており、一見履いてない? と思わせているところが破壊力が高い。分かるよな! 俺の言いたいこと!
「おっは~」
宮本の私服を見るのは初めてだ、上はノースリーブ、下はハイウエストデニムと黒いスニーカーを履いてやってきた。スタイルに自信があるのだろう。
身体のラインが見える服装だ。
「おう、おはよー」
軽く挨拶を交わす。
「もしかして隣の席?」
渡辺が訊く。
「どうやらそうらしい」
「ってか、川辺くんと麻友ちゃんもいるじゃん!」
いつものメンツに驚きつつも俺の右に渡辺、左に宮本が座る。
順番はこうだ。
窓、川辺、宮本、粟井、渡辺、内海、窓
「ねぇねぇ~せっかくだし思い出作りに写真撮ろうよ♪」
スマホを内カメにして笑顔でピースをとる。
カシャ
「めっちゃイイ~! 後で送るね♪」
渡辺と出会う前の俺ならこういう状況に動揺していたが、渡辺と出会い海や球技大会と様々なことを経験したからかこれぐらいの出来事には動じなくなっている自分がいる。
慣れって怖いな。
右隣に座る宮本は渡辺と隣じゃないことに不服なご様子。
隣変わろうか? と声をかけようと思ったが、バッグからお菓子の袋を取り出し、中身を口に入れだした。
朝ごはんを食べてこなかったのだろう。
これから八つ橋をたらふく食べるというのに大丈夫か……。
全生徒がバスに乗車したと同時に通路側に座ってるクラスメイトの妬ましい視線が俺に向けられる。
絶対ランダムじゃないなこれ! 渡辺と隣に座れて正直嬉しいが、川辺に嵌められているのが気に食わないので一言いってやることにする。
「おーい。修学旅行実行委員」
川辺の方を向くとアイマスクとノイズキャンセリング付きヘッドホンを被り爆睡していた。
一瞬川辺の表情がニヤっとした。
いい夢でも見てるんだろうな! ちくしょう。
「それじゃあ、発射しまーす! ちゃんとシートベルト付けてくださいね~」
先生の合図と共にとうとうバスが走り出す。
色々な想いを乗せ京都へと向かう。
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