第6話 縁結びのお守り

 適当に歩いているうちに名前も知らない神社に来ていた。


「ここどこ?」


 と、宮本が肉まんを頬張りながら訊いてくる。

 いつの間に買ったんだそれ……。


「とりあえず行ってみよ~」


 渡辺の提案で軽く回ってみることに。観光客を見るとカップルで溢れかえっている。特に、社務所のあたりに人だからりができている。お守りを買っているのだろう。

 

 神社で軽くお参りを済ませた俺は一時的にみんなと別れトイレへ。

何故こんなにカップルが多いのか疑問に思いながら用を足す。男子便所は回転率が高いためさほど混んではいなかったが、女性用のトイレには長い列ができていた。


 女性は大変だなぁと思いつつ、皆と合流しようとしたときにさきほどの社務所の看板が目に入った。

赤いウサギと白いウサギが二つセットになっている小さい置物。説明が書いてないのでどういうご利益があるのかは分からないがとても可愛い。


 そんなことよりみんなを待たせてるので駆け足で合流。


「お待たせ」


「早く金閣寺行こうよ~、そして八つ橋! 八つ橋!」


 と、テンションが高い宮本をよそに渡辺の右手に持っているものが目に入った。

社務所で購入したものだろうか、観光客が持っていたのと同じものだとすぐわかった。


「渡辺それって……」


「これ、周君にプレゼント♪」


「えっ?」


 急展開すぎて思考が停止する。プレゼント? 俺に?


「あんたがトイレに行ってる間にさっちゃんが買ったんだよ。ありがたく受け取りな」


 プレゼントなんか親からの誕生日プレゼントやクリスマスプレゼント以外でもらったことなんかなかったので、とても嬉しいが、プレゼントを貰われるようなことしただろうか……。


「嬉しいけど、急にどうして?」


 俺は純粋な質問をした。


「いつも仲良くしてくれてるから! ただそれだけ」


 気恥ずかしくなったのかすぐそっぽを向いてしまった。渡辺らしくない。

中身を開けるとそこにはさきほど社務所の看板で見た、白いウサギの置物が入っていた。


「ちょっと可愛すぎちゃったかな?」


 と、心配そうな表情を浮かべる渡辺。


「ちょうどさっき俺も欲しいなと思ってたんだ。大事にする」


 それに渡辺が一生懸命選んでくれたことが一番嬉しい。こういうのは気持ちが大事って言うしな。プレゼントの中身は関係ない。


「良かった~。そうそう、あたしは赤いウサギなんだ~♪」


 そう言いながら、赤いウサギの置物を箱から出して見せてくる。ということは……。お揃いってやつだ! なんというか、渡辺には手作りの弁当を作ってもらったりもしたし、今度は俺がプレゼントしよう。


「それじゃあ次行こ! もう時間もないしみやっちゃんがお腹すかせてるから」


「そうだな」


 俺は置物が入った袋をリュックの中にしまう。大きめのを持ってきて正解だった。

それにしても先ほどから宮本と内海がクスクス笑ってるが……。変な物でも食べたか?


「どうした? 羨ましいのか?」


と、少し自慢してやる。


「いやいや違うって、なんていうか、あんたらお似合いだなと思ってさ」


「は?」


 意味の分からないことを宮本が呟いた。一体どういう事だろう。


「粟井くん、もしかして知らないの?」


 と、意味ありげな表情を浮かべながら内海が訊いてくる。


「なんだよ。内海も変なこと言いやがって」


 内海が教えようとするが宮本がやめるよう促す。なんか嫌な予感がするが、そんな二人を無視し神社の出口へ向かおうとしたときにカップルが俺らの横を通った。


 会話がボソッと聞こえてくる。


「ウサギの置物まだあるかな~?」

「なにそれ?」

「知らないの? 赤いウサギと白いウサギがあって白いウサギを好きな男性にプレゼントすると一生結ばれるっていうやつだよ」

「へー! ロマンティック! 絶対買わなきゃじゃん!」


 ん? ウサギの置物? 白いウサギ? 赤いウサギ? 結ばれる……。


 えええええええええええええええええ!


 おいおい! これって縁結びのお守りじゃねーか! もしかして知ってて渡したのか!? 

 慌てて渡辺を見るが、涼しい顔をしている。どうやらご利益を知らずにプレゼントしたようだ。


 いや嬉しいけど! 結ばれる相手は俺でいいんですか!? 考え直した方がいいですよ! いや待て、変なことを考えるのはやめよう。純粋にプレゼントしてくれた渡辺に失礼だ。うん!


 それに、俺も欲しかったし。うん!


 俺が動揺しているのを見て、さらにクスクスと笑う宮本と内海。


「粟井くん、良かったね」

「頑張りなー」


 これは川辺に言ったら絶対いじられるやつだ……なんとしてでも秘密にしなくては。いや、内海が知ってる時点でもう遅いか。


 俺はそんなことを考えながら次の観光スポットに向けて歩みを進めた。


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