第2話 オタクと仲間たち

  一応言っておくが俺はボッチではない。実は気が合う友達が2人いる。


 俺が所属している部活は、オタク同好会と言って、部員は俺含めて3人。

 俺が通っている学校では、全員が同好会や部活に入らないといけない特殊ルールがあるので一応所属している。


 活動内容はたまに集まってそれぞれ好きなことを雑談して終わる。ちなみに俺は最近プレイして面白かったエ〇ゲをみんなに語っている。

 最低3人いないと同好会を発足できないこともあって部員を集めるのに苦労した。


ガラガラ


 部室の扉が開かれた。


「周介、お前どうした? いきなり走るからビックリしたじゃねーか」


 部員1号が来た。


 こいつの名前は川辺拓海(かわべたくみ)俺と同じクラスのオタク仲間だ。

ヤンキーのような強面な顔が印象的だが、中身はゴリゴリのアイドルオタクで、週末はオタ芸に励んでいるらしい。


人は見た目によらないんだなと思わせてくれた一人でもある。


「息切らしてるけど、走ってきたのか?」

「まぁな……」

「脚大丈夫なのか?」


 強面だが意外と優しい一面もある。


「まぁな、それよりとんでもないことになった」


 俺は友人1号に相談することにした。


「ギャルにカツアゲされかけた」

「マジで? だれだれ?」


 興味津々で話を訊く川辺。


「後ろの席の渡辺さんって奴」

「あの渡辺さんに!?」


 川辺のこの反応、絶対楽しんでるな……。


「はっは! めんどくさそうなやつに絡まれたなぁ~」

「他人事だと思って楽しんでるだろ」

「そんなことねぇ~けど~?」


 にやついた顔が腹立たしい。


「とりあえずもうすぐ席替えだろ? 少し辛抱すれば解決するだろ」

「あっ」


 忘れていた。そうだ、明後日は席替えだった。このタイミングで素晴らしいイベントが……! 天は俺に味方しているようだ。


「それよりもよ! 最近新たなオタ芸を身につけたんだよ!」


 机から身を乗り出して顔を近づけてる川辺。


ガラガラ


 会話の内容がオタ芸にシフトした時、またもや部室の扉が開かれた。


「おつかれ~」


 気怠い挨拶を交わしながら女子生徒が一人入ってくる。


「あれ? も、も、も、もしかして……!?」

「ど、どうした?」

「粟井君と川辺君がキス!? これは一大事だわ! 早くカメラに収めなきゃ!」


 部室に入って早々、テンションが最高潮に上っているこの女子生徒は部員2号。

名前は、内海麻友(うつみ まゆ)こいつも俺と同じクラスのオタク仲間だ。

ボブヘア―で瓶底眼鏡が特徴的な彼女はクラスの人たちからは親しみを込めて『弁蔵ちゃん』と言われているらしい。

普段は大人しく普通の女子生徒だが、裏の顔はBLオタクである。


「何か勘違いしてるだろ……」

「えっ!? 違うの!? だって川辺君のその体勢……」


 どうやら机に身を乗り出している川辺が俺とキスをすると勘違いしたのだろう。

 まぁ仕方がないよな。この態勢を見たら誰だって……。

 いやするわけねーから!!


「えーなんだ~~~、がっかり……」


 ショックのあまり膝から崩れ落ちる内海。


「私は、どんなBL本を見るより、粟井くんと川辺くんがくっつくところが見たいの!」


 馬鹿だこいつ。大人しくしていれば清楚で可愛いのに……。


「それよりも席に座れって……」


 さすがに呆れたのか、内海を席へ座るよう促す川辺。

 以上がオタク同好会のメンバーである。そんなこんなで今日もこいつらと共にオタク話に花を咲かせる。



夕方――


 いつも通り、オタク話に花を咲かせた俺たちは時間も時間なので解散することにした。

 席替えイベントが終われば平和なオタクライフが俺を待っている。ウキウキで部室を後にし下駄箱に向かう。

 帰ったら新作のエ〇ゲをプレイする予定だ。泣けると話題になっており、評判も良い。

 そして期待している点がもう一つ。それは、あの有名なエ〇ゲライター『柘榴ですよ。』が数十年ぶりにエ〇ゲのシナリオを手がけるところだ!


 悲しいことに最近のエ〇ゲ業界は衰退の一途をたどっており、正直売れない。その所為もあってライターはエ〇ゲ業界から退いてはラノベを書いていることがほとんどだ。

 これは偶然かもしれないがエ〇ゲ業界にいたライターさんが書くラノベは大体売れている気がする。色んな人に認知されて売れるのは嬉しいけどどこか寂しい気持ちになってしまう自分がいる。

 有名になる前から好きだったアーティストが売れてしまう時の複雑な感情に似ているな。


「悲しい現実だ……」


 独り言を呟いたその時だった。


「ねーねーオタクくん!」


 後ろから声をかけられた。声のトーンで女生徒だと分かる。

内海か? と、一瞬思ったが、内海は俺よりも前に帰ると言って学校を出たはずだ。


 おかしい。


 嫌な予感が背筋を走る。俺はその声の正体を確かめるべく、恐る恐る振り返った。

 悪い予感は的中。そこには渡辺さんが立っていた。

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