034 作戦会議

 冷静に考えた結果、外部への連絡手段が思いつかないため、安達との連携は不可能である。ならば、プレイヤーとしてベストを尽くすまで。つまり、ハッピーエンドを目ざす。それがいちばんの解決策ではないだろうか。否、正直なところ、エンディングを迎えたとき、なにが起こるかわからない。まったくわからないからこそ、やってみる価値があるはずだ。


「まさかこの俺が、クソゲーの攻略をいられるとはな……。微妙だぜ……」


 もっとも、やるべきことがはっきりしたせいか、気分はそこまで悪くない。せいぜい、ゲームオーバーとバッドエンド的な結末は避けたい。現在、[仲間のきずな]のアイテム効果により、俺には(勧誘した)味方がひとりいる。見た目は子どもだが、言動は落ちついており、頼もしい相棒バディだ。名前を[キルクス]という。


「……おはようございます、ブレイクさん。……すみません、ぼく、寝坊しましたか?」


 むくりと上体を起こす少年は、先に起床きしょうして窓ぎわに立つ俺を目に留めると、ひとことびた。時刻は朝7時前につき、キルクスは寝過ごしたわけではない。むしろ、早起きだ。粗末なベッドで長時間寝つけなかっただけの俺は、首を横に振る。


「ちがうよ。まだ早朝だ。眠けりゃ、ゆっくりして構わないぜ」


「そ、そうでしたか……。でも、目が覚めたので起きます」


 キルクスはベッドからおりると、備え付けのタオルを手にして廊下へでた。通路のとちゅうに、誰でも使える水道が設置されている(俺も顔を洗ってきた)。朝食は宿代に含まれていないため、空腹を満たす場合、別料金が発生する。


 さて、これからの件だが、まず、レベル上げをしたいというキルクスに付き合うため、前衛タイプの俺は武器を強化したほうがいい。後方支援タイプのキルクスには、俺が大ダメージを受けてもすぐ回復できるよう、即効性のあるアイテムの所持数を増やしておけば準備万全だ。朝ごはんを食べたら、道具屋に足を運び、装備をととのえ、ダンジョン攻略にいく。


「まるでアクション映画に出演する俳優みたいだぜ」


 さながら、キルクスは

 担当マネージャーか?

 この撮影は、いつ終わるのか


 現在の状況を客観視すると、つい、笑みがこぼれた。そこへ、洗顔を終えたキルクスが戻ってくる。俺が「作戦会議をしよう」と切りだすと、真剣な表情で「はい」と返事した。端的に説明する。


「……ってな感じで、どうかな」


「はい、いいと思います」


「オーケー。仕度したくしよう」


 宿屋やどをあとにした俺たちは、村でひとつしかない道具屋に向かった。リアルとゲームの時間経過は同列につき、実社会でも朝の8時くらいだと思われた。スマートフォンさえあれば、誰でも気軽にプレイできるため、授業が始まる前の学生や、出勤とちゅうのサラリーマンなどがログインしている。朝とはいえ、それなりに人影は多い。


『いらっしゃい。じっくり見ていっておくれ』 


 道具屋では、NPCの女店主が笑顔であいさつしてきた。



✓つづく

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