012 キャラデザ

 芸能の道に役作やくづくりという言葉があるように、ゲームの世界でも、キャラクターを演じるというこころみは必然であり、不可欠ふかけつな要素ではないだろうか。操作キャラクターは自分の分身ぶんしんであると同時に、べつ次元における存在価値を、つい求めてしまうものだ。


 もうひとりの自分を、客観的にとらえる視点は(現実逃避ではない)、むしろ、あるべき姿を追求し、理想に近づけるよう試行錯誤して、人格形成の学習の場として使える。……なんて、さすがにおおげさか。


 かくいう、俺が操作する[ブレイク]は公式キャラクターのひとりだが、髪や衣装が色ちがいのリージョンマスターは存在する。あちこち使いまわされているため(ポリゴン?)、見た目の個性はないといえるだろう。他のキャラクターも、初期入力(武器の選択)で容姿が決定してしまうため、極端きょくたんな変化は認められない。似たような見た目のプレイヤーが大量発生しているが、最初に設定した名前が頭の上に表示されているため、たずね人を視覚で探すことは可能だ。俺の頭の上にも[ブレイク]と表示されている。


 ゲームのキャラクターデザインを担当した人物は、安達の小学生時代からの友人で、俺よりも付き合いは長いようだ。ちなみに、髪の長い女性である。彼女はイラストレーターの仕事を夢みて専門学校へ通ったが、そこで知り合った歳上としうえの男性と恋に落ち、弱冠じゃっかん19歳で結婚し、翌年には双子ふたごを出産している。専門学校も中退ちゅうたいした。……個人情報の流出は、よくないな。彼女と俺は、ほとんど他人の関係だ。安達の友人ではあるが、俺とは住む世界がちがう。


 話を戻そう。キャラクターデザインを担当した彼女の実力は、短い期間とはいえ専門学校で勉強しただけのことはある。なかなか魅力的な絵を描く。[リージョンフライハイト]に登場するNPC(ノンプレイヤーキャラクター)やモンスターは、そう多くない。ゲームを制作するにあたり、マップ(リージョン)、プレイヤーキャラクター、敵(モンスター/エネミー)のデザインは責任重大である。とくに、購買意欲につながる見た目の印象(画面作り)は、既存ゲームとの差異が認められなければ、おもしろくないだろう。


「しっかし、レーティングのわりに、お色気サービスが微妙だよな……」


 おっと、画面越しによこしまな考えが浮かんでしまった。なんというか、ネーミングセンスはアレかもしれないが、貴重品扱いのアイテムに[きわどいエプロン]というものがある。男女問わず、プレイヤーが装備すると画面のグラフィックが変わる。いわゆる、[はだかエプロン]状態になる。



✓つづく

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