011 レンドは、どこだ

 めずらしく、安達あだちのほうから連絡がきた。時刻は夜の9時を過ぎていたが、たいてい日付が変わってから就寝する俺的には、電話の着信が遅くても気にしない。日中にっちゅうは、相手のほうが(色々と)忙しかったことは察しがつく。数十分前、ようやく[リージョンフライハイト]のフリーズ画面が解消され、お詫びのメッセージが一斉いっせい送信されていた。


 さっき確認した俺は、プログラムの不具合について説明されたが、はっきりいってよくわからない分野だし、詳しい報告を受けたところで、俺に返す言葉はない。開発チームと勝手にやってくれといった感じで、会議に加えてほしいとは思わない。


 ひとまず、原因は調査中とのことだが、通常にゲームをプレイするぶんには問題ないらしい。見れば、早速プレイヤーがリージョンをうろついている。俺の担当は中盤に位置する通過点だが、細かなイベントが用意されているため、攻略するまでに要する時間はそこそこ長い。もっとも、勇者イベントのフラグを意図いとして立てるプレイヤーは、1日5~6人ていどだ……。


架空かくうの世界で勇者の称号を獲得ゲットするより、ゴールドコインを稼いで換金したほうが、リアルに役立つからな」


 俺も関係者という立場ではなかったら、このゲームを小銭目的でやっていたかもしれない。各リージョンには、隙間すきま時間に遊べる簡単な要素がある。依存性の高いゲームほど、サービスが充実しているとは限らないが、[リージョンフライハイト]はどっちつかずの人気を誇っている。安達の成功の鍵は、なにが決め手だったのか……。


「とくに、バグの影響はないみたいだな」


 安達との通話後、俺は専用キャラクターの[ブレイク]を操作そうさしてみた。ステータス画面も変わりない。


 きょうも朝からプレイヤーがリージョンにやってくる。それぞれ自由に探索しているが、俺の目は、つい[レンド]を探した。魔法タイプのキャラクターは、ほとんどローブ姿をしているため、見つけやすい。


「いないか。この時間は学校か、仕事中か?」


 プレイヤーの私生活は、さすがに調べることはできない。現実に存在するという情報以外、知るすべはない。ゲーム内で親しくなり、会話を通じてある程度の個人情報は入手可能ではあるが、1人用のゲームを楽しむ連中は、わずらわしい交流をこのまない。俺のリージョンでは、[協力プレイ]や[限定パーティー]といった仲間イベントがないため、基本は単独行動である。


「レンドは前回、勇者イベントの最中にゲームオーバーになっちまったから、また俺の前にあらわれるとしたら、そろそろだが……」


 敵に倒された瞬間を見ていなかったとはいえ、ドロニュルの攻撃を喰らって体力が尽きたことは、まちがいない。魔法タイプの操作キャラクターは、防御力が低い。どうしても、物理攻撃に弱いという欠点がある。[勇者イベント]は何度でも挑戦できるが、失敗した回数により、獲得アイテムの価値ががっていく。[伝説の剣]はかならずゲットできるため、クリアする意味は、ある……といえばある。


「ミスって直前のセーブデータからやりなおしても、失敗回数は記録に残されちまうから、ベストクリアは不可能だがな……」


 残念ながら、レンドが獲得できるアイテムのランクは下がっている。2回目の挑戦で、ぜひクリアしてもらいたいところだ。


「いかん。プレイヤー贔屓びいき禁忌タブーだぞ」


 仮にも、俺はリージョンマスターのひとりである。個人的な感情は封印せねば……。



✓つづく

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