008 アドバンテージ

『ブレイクさんって、いっしょに戦ってくれるんですか?』


 プレイヤーの[レンド]から会話チャット画面で質問された俺は、『場合によってはな』と、こたえる。なにを隠そう、この俺がレンドがいどもうとしている勇者イベントのリージョンマスターにして、最終判定ジャッジくだすキャラクターだからな。毎度まいどのことながら挑戦者にうしろめたさはあるが、ネタバラシは禁物きんもつだ。


 俺のステータスを前話で公開したが、あれは表向おもてむきの数値であって、うっかり[リージョンマスター]が出現する敵にたおされないよう、シークレット機能が付与ふよされている。反則はんそくな気もするが、俺が設定したわけじゃないから解除することはできない。……それにしても、レンドは男なのか女なのか、現実リアルの性別を知りたくなってきたぞ。なかなか好印象を受ける。


『レンド、あの村だ。ドロニュルから救ってくれ。突然あらわれて、暴れているらしい』


『わかりました。ブレイクさんも気をつけて』


『ああ。俺は村人を避難させるから、レンドはモンスター退治に集中してくれ』


『はい、ありがとうございます!』


 と、まあ、こんなやりとりをして、あとのところは高見たかみ見物けんぶつとなる。だが、まんいち、ドロニュルの固有技を喰らってプレイヤーが状態異常を引き起こした場合、いちどだけ俺がアイテムを使って回復してやるという、親切なサービスつきだ。事前に確認していたヒントにより、背後注意やら貴重品の入手チャンスといった情報を得ているから、攻略には慎重しんちょうになるだろう。


 レンドは魔法が使えるからな。範囲攻撃で複数の敵をまとめて……、ん?


 待て待て、どういうことだ。数秒しか画面から目を離してなかったと思うが、なんであいつ、ゲームオーバーになってんだ!



  →ゲームを終了する

  →データを消去する

  →あきらめたくない


 

 ……まいったな。レンドのやつ、バッドエンドになっちまった。勇者イベント中に死亡した場合、セーブデータからやり直すことはできない。強制的に他のリージョンに飛ばされてしまうから、俺(ブレイク)と再会するには、最短でも丸1日かかる。イベントの攻略に失敗したリージョンってのは、24時間経過しなければ再移動できないシステムなんだ。今回は期待していたが、また挑戦してくれ。


 何気にスルーしちまったが、選択肢の最後は、レンドが作った第三のフリーコマンドだな。あきらめたくない、か。気持ちはわかるが、そのコマンドを増やしたところで展開は変わらない。シークレットルームを管理するやつが誰かは知らないが、無意味なワードを入力してもいいと、そんな説明をしているのかね。どうせなら、もっと有効なコマンドを参考までに教えてやればいいのに……。


「ふう、こっちもいったん休憩だ」


 レンドがゲームを終了するを選択後、俺は朝から洗濯機に放置したままのシャツをすことにした。基本は部屋干しである。ベランダに吊るさない理由は、通行人にダサい私服が見られて恥ずかしいとかではない。単純に部屋干しのほうがラクなんだよ。乾いたら、そのままハンガーから外して着られるからな。数時間後に着るものを、いちいちたたんで箪笥たんすにしまうのが面倒くさい。横着おうちゃくは認める。


 そうそう、ゲーム内の俺はレザーアーマーとブーツといった戦士っぽい身装みなりをしている。このゲームは、強そうな名前の武器や防具を手に入れても、能力値は変動しない。だから、ゴールドコインをわざわざ消費して[オリハルコンアーマー]とか装備しても、キャラクターの見た目が変わるだけである。とはいえ、カッコイイ名前の武器や防具は、つい欲しくなるんだよな。



✓つづく

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