007 モンスター情報

 子どもの頃、やたら周囲の人間から将来の夢について聞かれたが、いま思えば愚問ぐもんだろう。とくに小学生なんてのは、新しい情報にばかり関心が引かれやすいしな。俺の場合、1年生のときはパイロット、2年生のときはお医者さん、3年生になるとサッカー選手、4年生は(なんだっけ?)……ってな具合だ。誰だったかは忘れたが、将来はカブトムシになりたい、どうやったらなれますかといって、担任の先生を困らせていたな。女子にかぎっての口癖くちぐせは、イケメン俳優のよめになりたいとか、そりゃ、夢というより願望だろう。


 だがしかし、あの頃と現代いまでは、世の中の風潮ふうちょうが変わりすぎている。今時いまどき若者わかものがどんな職業に憧れるのか、俺には想像もつかない。


「このプレイヤー、勇者イベントのクリアが目的っぽいな」


 やけに運の数値が低いプレイヤーの名前は[レンド]となっている。画面上のキャラクターは短髪に紫紺しこんのローブ姿につき性別は不明だ。めずらしく、正解コマンドを選びつづけているので、ピンチの村を助けることができれば[伝説の剣]を入手可能だ。さて、イベント開始だ。たのむから、金に目がくらんで本来の目的を見失うなよ。勇者イベントは、プレイヤーの良心を惑わすトラップが多めだからな。


「お手並てなみ拝見といくか」


 俺は画面越しに祈りをこめると、[レンド]といっしょにどろニュルに襲撃された村まで向かった。ゲーム内に登場する敵(モンスター)は泥ニュルといって、地面からニュルニュあらわれて巨大化し、物理攻撃をしてくる。この泥ニュルは無属性の魔法を使うこともあるが、通常は泥飛どろとばし(毒効果あり)と、体当たりで向かってくる。無属性魔法を喰らってもダメージは少なめだが、ランダムでレベルドレインという固有技が発動し、勝利後にステータス画面を確認すると、すべての能力値がマイナス3となってしまう。なるべく魔法を使われる前に倒したいところだ。プレイヤーのレベルに合わせて泥ニュルの見た目(グラフィック)も変わる。以下参考までに。



  [ドロニュル第1形態]

   大きさ──1メートル

   攻撃力──20~30

   防御力──10~20

   体の色・茶

  

  [ドロニュル第2形態]

   大きさ──2メートル

   攻撃力──40~50

   防御力──30~40

   体の色・黄


  [ドロニュル第3形態]

   大きさ──3メートル

   攻撃力──60~70

   防御力──50~60

   体の色・銀

 

 どのリージョンにも共通して出現する敵だが、大きさ以外の数値はプレイヤーのレベルに応じてプラスされる。要するに、いつ、どこで戦うハメになっても、それなりに手強てごわいモンスターというわけだ。とくに、勇者イベントに出現する泥ニュルは、突然ワープして背後から攻撃する特殊な行動パターンが発動するため、正面の敵に気を取られては、予想外の大ダメージを受けやすい。泥ニュルは2体同時に出現するのが基本だが、イベントによっては3体をひとりで相手にすることになる。勇者イベントは、第3形態の泥ニュル1体と、第1形態が2体出現する。


 おっと、表記を統一していなかったな。泥ニュルとドロニュルは同じ敵をしている。ドロニュンという公式グッズがあって……、いや、そんな商品案内はどうでもいいか。今後は[ドロニュル]とカタカナ表記する。説明が長くなっちまって悪いな。とにかく、俺は今、勇者の誕生を見届けるのが役目だ。少し、ゲームに集中させてくれ。言い忘れたが、ゲーム内で使用している俺の名前は[ブレイク]だ。



✓つづく

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