030 キルクス

「この恰好かっこう、やっぱり目立ちますか?」


「……いいや、至ってふつうだと思うが」


「ブレイクさんも、いかにも現代人っぽいコスチュームですよね」


「ああ、そうだな(これは俺の私服だ……とは、まだ言わないほうがいいか?)」


 キリッとした顔つきの少年は、意外とハキハキしゃべる。実年齢より、見た目が幼いキャラクターを使用しているのだろうか。……どこから来たのかたずねると、ついさっき[勇者イベント]を失敗したという。


 ……なるほど。それで

 俺の名前に反応したのか


 もうひとり、、、、、の俺に、つまりNPCの[ブレイク]と、少年は接点があった。勇者イベントを失敗しても再挑戦は可能だし、挑戦した回数問わず[伝説の剣]は最終的に必ず手に入る武器のひとつだ。勇者になりたい(正しくは称号がほしい)理由を、キルクスに訊ねたい気もするが、タブーだろうか。なりたいものになる。それは個人の自由だ。


 とにかく、

 仲間に誘ってみよう


 道具屋からNPCらしき客がドヤドヤと出てくると、俺とキルクスは扉の前をあけ、少し離れた場所に設置されているベンチへ並んで腰かけた。親子ほどの年齢差がある俺たちだが、キルクスは魔法が使えるキャラクターにつき、俺としては[仲間のきずな]を使いたいところだ。なにせ、このリージョンは戦士タイプが多い。周囲をうろつくキャラクターは、男女共に体格が良く、剣や斧を装備している。慎重派の俺は、攻撃力より防御力を重視する傾向にある。一撃必殺の大技おおわざをもつ、アックス系ファイターも魅力的だが、サポートキャラクターが仲間にいる安心感は捨てがたい。


「なあ、キルクス。今後の予定は決まっているのか?」


「はい。勇者イベントは保留ほりゅうにして、レベルを上げようと思います。道具屋の主人から、[カメレオンジャングル]というダンジョンが近くにあると聞きました。モンスターがたくさんいる密林みつりんだそうです」


「へえ、それならゴールドコインも貯まりそうだな。……よし、キルクス。俺といっしょに行動しないか? ここへくる前、貴重品の[仲間のきずな]を入手したんだ。こいつを使えば、ふたりでダンジョン攻略が可能になる」


 デニムのポケットから指輪を取りだすと、少年はふしぎそうにのぞき込んできた。サイズが合うかどうかめるまでわからないが、いちど身につけたら効果が切れるまではずせないだろう。


「もし、俺と組みたくなきゃ、はっきり断ってくれていいぞ」


「え? ち、ちがいます。ぼくは、そんなことありません!」


 即座に否定され、内心ホッとした。しかし、キルクスの表情はかげりを見せている。



✓つづく

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