022 悩ましい展開

 な、なんてことだ。メンテナンスをした翌日、はやくもバグりやがった……。俺の端末に原因があるならまだしも、どんなメンテナンスをしたら、ここまで不調になるんだよ。いい加減かげんにしないと、[リージョンフライハイト]の運営体制の問題点が、ニュースとかで取り沙汰ざたにされるぞ。


[レンド]に[伝説の剣]を手渡す直前で強制終了させられた俺は、しばらく呆然ぼうぜんとなった。安達に文句のひとつも言いたいところだが、開発にたずさわっていない人間が口をだすべき領域ではないことくらい、承知しているつもりだ。


「くそっ、あと少しだったのに」


 レンドの場合、三度目の正直ってことになる。また俺を見つけて声をかけるか、俺のほうから彼女、、を探し、村の救済を持ちかけるか。……勝手な想像だが、レンドは女だと思っている。操作キャラクターが男でも、実際のプレイヤーが同性とはかぎらない。むしろ、逆パターンのほうが多い気がする。


 待てよ。その理論でいくと、伝統下着ふんどしを身につけてよろこんでたファーレンは、女が操作していることになるな。……うん? わからなくなってきたぞ。あいつ、男だよな? どちらであろうと、現実の俺には関係ない話だが、いちど気になりだすと真相が知りたくなるし、妙に悶々してくる。……いな、考えるだけ時間のムダか。


「……もう寝よう」


 時計の長針は、深夜2時をまわっている。欠伸あくびをしながらベッドへ横になった俺は、レンドを気の毒に思いつつ、まぶたをとじた。勇者イベント中にバグったレンドの心境を気にかけているうち、すやすやと眠りにつく。そして、なぜかファーレンが夢に登場してきた。ふんどし姿を披露ひろうされ、俺は[ブレイク]として『似合ってるよ』とかいって、会話におうじている。


 ……どうせなら、レンドが

 夢にでてこいよ。あいつ

 がっかりしてるだろうな


 背中に[伝説の剣]を装備するファーレンだが、衣装が勇者の資質をうたがう。そんなにふんどしが気に入ったのか……? グラフィックのアンバランス差が半端はんぱない。笑い飛ばしてツッコむべきか、判断に迷う状況だ。……結論、放っておく。夢のなかとはいえ、いっしょに行動する必要はない。俺が歩きだすと、ファーレンもついてきた。


『ブレイク、ブレイク!』


『なんだ』


『オレのバディになってよ』


相棒バディ? (ああ、そうか。俺は今、リージョンマスターではなく、一般のプレイヤーとしてゲームの世界にいるのか)』


 これは夢だからな。他のリージョンでファーレンと再会し、バディを組んでクリアせよ的な、限定イベントにさそわれている流れだろうか。『いいよ』とこたえると、ファーレンが笑顔で『好き!』と叫ぶ。


『好き? なにが』


『いいじゃん、ゲームだし』


『だから、なにが……』


『バディ決まったし、これでダンジョン行けるぜ』


 会話が噛み合っていない気もするが、交渉は成立している。俺はファーレンとふたりで森の奥にある洞窟どうくつへ向かった。いかにもバトルが発生する雰囲気とBGМだが、勇者の称号をゲットしたファーレンにまかせておけばいいだろう。


『ブレイク、見て。このキノコ、ハートがただ。あとで必要になるキー・アイテムだったりして……』


『そうかもな』


『戻ってくるの面倒だし、念のため引っこ抜いておこう。ブレイクも、そう思うだろ?』


『ああ』


 洞窟の壁にニョキッと生えているキノコをファーレンがつかむと、グォーッと雄叫おたけびが聞こえた。ファーレンが伝説の剣をかまえたところまで、俺の記憶に残っている。



✓つづく

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