024 アクシデント

 週末の夕方ゆうがた、俺は[リージョンフライハイト]にログインし、プレイヤーとして他のリージョンへ移動した。[勇者イベント]は自動モードに設定してあるため、俺の分身が代わりに動きまわってくれる。ひとつのリージョンに同一キャラクターは存在できないが、俺のような立場の人間は、すんなり実行できてしまう。つまり、俺がログアウトするまで、リージョンフライハイトのゲーム内には、ふたりの[ブレイク]が存在している。


 操作キャラクターと設定した名前が他者と似ていたり、誰かと偶然一致することは、よくある事例だろう。[リージョンフライハイト]では、既存のデータが最優先されるわけではないため、意外とそっくりさん、、、、、、が多い。以前、つとめていた会社で、「本間ほんまさん、きのう◯◯にいましたよね?」と話しかけられた時、俺は自宅にいたと否定する。ところが、「あれは、どこからどう見ても本間さんでした!」と強気に変わり、なぜか外出していたことにされた。


 世の中には、他人の空似そらにが3人いると、なにかの本で読んだことがある。少なくとも、俺のそっくりさんは、ひとり確認されているようだ。おそらく背恰好せかっこうが似ているというだけで、家族構成や趣味といった事情までは合致しないだろう……。今更だが、俺の苗字は本間ほんまという。下の名前は智彦ともひこだ。


 

 きょうゲームにログインした理由はレベルアップだが、ついでにレンドを探してみようと思う。俺のリージョンでバグが発生した日から、しばらく姿を見ていない。


『よし。まずは、適当なイベントをクリアしていくとするか』


 チャカチャカ(ブレイクを)操作して謎解きを進めていくと、ベスト条件を満たしたらしく、貴重品扱いのアイテムが手に入った。


『ほう、新しい武器だ。いいね、さっそく装備しておくか』


 現在の[ミスリルソード]より、攻撃力が高い[クロノスソード]だ。ついでに、装備できる貴重品扱いの武器は、能力値にボーナスが付与される。俺のステータスを確認しておこう。(ピッ)


 

  レベル──100 命中率──105

  攻撃力──120 素早さ──095

  防御力──110 魔力───080

  精神力──160 運────150

  武器/剣/クロノスソード



 ……見たところ、精神力と運の上昇率が大きいな。精神力は魔法攻撃(状態異常含む)を受けたときの抵抗力、運は各イベントの成功率や、レベルアップ時に追加される能力値、手に入るゴールドコインなど、さまざまな要素に影響する。高いほど恩恵おんけいを受けるが、安達が考えたゲームにつき、どうせ他のリージョンでは運が低いほうが攻略しやすい……とかいったイベントがあるはずだ。[ウィザードローブ]という防具も入手したが、戦士の俺は装備できないため、コレクションボックスに収納した。


『魔法タイプ専用か。レンドなら着れるやつだな。……ふうん、貴重品ではないのか』


 貴重品に分類されない武器や防具は、装備しても見た目が変わるだけで能力値の変動はない。あくまで、視覚効果を得るだけだ。[ウィザードローブ]のフードには、猫耳と尻尾しっぽがついている。ちょっとしたコスプレ気分を楽しめるのだろうか。レンドは短髪キャラクターだが、こういうのが似合いそうだ。


『そこそこレベルも上げたし、終わりにしよう』


 たまにはプレイヤーとして参加し、勝手を理解しておいたほうがいい。そう思い、他のリージョンへ飛んでみたが、それなりに楽しめた。レンドはいなかったな。



  →リージョンを移動する

  →セーブして終了する

  →ヒントを開示する



 いちばん上の選択肢を選んだ瞬間、急に画面がまっ白になった。



✓つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る