002 新しい仕事


 スーパーの海産かいさんコーナーで中学時代の知り合いと再会した俺は、そいつが開発した[リージョンフライハイト]というゲームの管理人マスターを引き受けた……のが、わずか1ヵ月前の話だ。


 そして今、猛烈に後悔している。以下、知り合いとの会話内容やりとり


「あれ、智彦ともひこじゃん。久しぶり~」


 下の名前で呼ばれるほど仲がよかったおぼえはないが、中学3年間同じクラスだった安達あだちであることはすぐわかった。


「おまえ、まだ地元にいたんだな。仕事なにしてんの?」


 まだ、、を付けてくる意味は不明だが、俺は適当にこたえた。すると、例のゲームの話を持ちだされた。この時の俺は無職に近かった。だから、スマートフォンさえあればできる仕事と言われ、ちょっとしたアルバイト感覚で承知しょうちしてしまったのだ。


「よし、あとでくわしいデータを送るから読んでくれ。[リージョンフライハイト]ってタイトルで、もとは同人ゲームなんだけど、やべぇくらい人気がでちゃって、まさかの公式発売が決定したんだ。あ、日給にっきゅう八千円くらいでいいか? 仕事内容が特殊だから、さすがに時給じきゅうで請求されると計算が面倒なんだわ。……オーケー?」


 安達は俺の顔色かおいろをうかがってきたが、ことわる理由などないため「わかった」とうなずいた。平日にスーツなんか着ているわりに、ゲームで生計せいけいを立てるとは、見た目で判断できない男だ。俺はしわのあるポロシャツにデニムという私服姿である。愛車は、中古で購入した軽自動車だ。若い頃、走り屋の漫画に影響を受け、憧れのスポーツカーに乗ってみたが、半年で自損じそん事故を起こし、廃車はいしゃになった。思い出したくない過去だ。

……はあ(深いいき)。


「そうだ、智彦。こんどウチにきてくれ。おれのよめを紹介するよ。ついでにゲームの説明書とか渡しときたいし、正式な契約書もあったほうがいいよな」


 さりげなく既婚者きこんしゃだとげられたが、あえてそこはスルーしておく。仕事の件については、口約束くちやくそくではイマイチ信用できないため、契約書は必要だ。安達に名刺をもらい、後日、足を運んだ──。


 

 状況説明が長くなってきたな。悪いが、こうしている間にプレイヤーがイベントのフラグを立てまくってるから、リージョンマスターの仕事に戻らせてくれ。なんと言うか、とにかく、俺の日常は、ほぼ引きこもり状態なんだ。朝から晩までゲームの監視かんしで、眼精疲労がんせいひろうと肩こりがひどい。腰痛ようつうは元から発症していたが、最近は頭痛もする。このままだと不健康まっしぐらだ。早く、どうにかしなければ……。



  →リージョンを移動する

  →セーブして終了する

  →ヒントを開示する



 たった今、俺が担当しているリージョンで、[勇者イベント]を選択したプレイヤーがいる。こいつはなかなか、めずらしい展開だ。ひとつでもヒントを見ちまったプレイヤーは、勇者になりたがらない、、、、、、、。安達のやつ、なにを考えているのかさっぱりだが、このゲームのハッピーエンドは、かなりむずかしい。そもそも、バッドエンドしか用意されていない。俺が言うのもおかしな気がするが、人によっては胸クソでしかないだろう。ただし、ゲームを進める利点メリットも、もちろんある。


 さて、それについてはプレイヤーに直接話しかけるとしよう。今のところ、それが俺の役目で仕事だからな。



✓つづく

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