039 回復アイテム

 ファンタジーにかぎらず、ゲームの世界には消費系のアイテムが存在する。使用すれば即効性があり、バトルを有利に進めることも可能だ。体力や気力の回復を担当するアイテムは、なぜか食べもの類が多い。いくら空想の世界とはいえ、ボス戦の最中に、攻撃の隙を見て食べるのは、けっこう大変だと思う。


 ふつうにイチゴ味だがムダに

 弾力があってみ込みづらい


 ダメージを受けた俺を見たキルクスは、回復魔法を詠唱えいしょうするより先に、手持ちのアイテムを投げて寄越よこし、カメレオンの気を引く作戦にでた。アイテムを空中でキャッチした俺は、一瞬、脱力した。


 ジャムキノコか……


 村の道具屋で買ったもので、食べることにより体力が大幅に回復する。ついでに傷も完治する。[リージョンフライハイト]の世界では、キノコ系のアイテムが体力回復薬として取り扱われている。キノコの形や味によって、効能も価格も異なる。キルクスに渡されたジャムキノコは、イチゴ味のグミのような食感だ。大きさは太めの魚肉ソーセージくらいで、約5センチといったところか。全体的に濃い赤色のキノコは、毒を含んでいるようにも見える。ふた口で食べ、無理やり呑み込んだ。すぐに脇腹の鈍痛どんつうが消え失せ、からだも軽くなった。


 カメレオンの攻撃は大振りで回避はむずかしくないが、目測をあやまった俺は、長い尾で脇腹を強打きょうだされた。らせん状の舌を素速すばやく伸ばし、丸い眼球を左右別々に動かして威嚇いかくしてくる。体長は3メートルほどだが、巻舌まきじたと尾の射程距離には注意が必要だ。緑色の体をしているため、周囲の景観とまぎれやすい。カメレオンの体色は環境によって変化し、擬態が得意なやつもいる。魔法攻撃を仕掛けてこないため、少し甘くみていた。


「ふう、痛い目にあった。肋骨ろっこつが折れたかと思ったぜ。凶暴なカメレオンだな……」


 あくまで、人間を襲うモンスターとして登場する爬虫類につき、動物虐待とかにはならない……はず。ミスリルソードを握りしめた俺は、カメレオンの弱点となる胴体の下部へ潜りこむと、胸へ剣を突き刺した。すると、ギャオーンッという悲鳴をあげ、横倒れる。戦闘不能となったモンスターは、消滅するタイプと、死体が残されるタイプにわかれるが、カメレオンは後者だった。数十秒ほど脚をバタつかせたり、眼球をギョロギョロ回転させていたが、やがて動かなくなった。


「や、やりましたか?」


 木陰から顔をだしてたずねるキルクスに、俺は親指を立てて見せた。



✓つづく

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