014 コスチューム①

 ほらな。やっぱり夢だ。


 いつのまにか居眠りをしていた俺は、携帯電話の画面を確認した。ちょうど、勇者フラグを立てたプレイヤーが、[ブレイク]の近くにいる。話しかけるとするか。以下、これまでと大差たいさないやりとりが発生するため、過程かていは省略する。結果だけ伝えると、勇者は誕生した。[伝説の剣]をさずけてやったが、残念ながら今回の勇者もバッドエンドのコースをたどっている。プレイヤーは気づいてないがな。あとはしばらく、ゴールドコイン稼ぎを楽しめばいいさ。


 そうそう、どの映像作品にも共通して言えることだが、エンディングムービーってのは、見たいようで見たくなかったりしないか? スタッフロールが流れてくるだけの画面が5分以上つづくやつとか、かなり退屈だよな……。とちゅうで目を離したら、なにか映るかもしれないと気になって、結局、最後までスタッフロールを目で追っちまうしよ。BGМが秀逸しゅういつだと、だいぶむくわれる。


「うん? めずらしいのがいるな」


 ぼんやり画面をながめていると、貴重品(きわどいエプロンではない)アイテムの効果を身につけて歩くプレイヤーを発見した。少し前にも話したが、装備を強化してもグラフィックが変化するだけで、能力値の上下はない。ただし、貴重品のみ例外はある。貴重品とは、リージョンごとに発生する、限定イベントをベストな条件でクリアした報酬である。プレイヤーの初期設定によって、せっかく入手しても装備できないアイテムが複数存在するが、コレクションボックスという機能に収納できるため、パズルの穴を埋める(完成させる)ような感覚を楽しめる。


 貴重品で見た目のグラフィックが変わる例を少し紹介しておく。


 

 ■ジャスティスだましい

  ※黒いスーツ姿になる

 

 ■うさぎのしっぽ

  ※白くて丸い

  

 ■瓶底びんぞこめがね


 ■クイーンヒール

  ※女性専用

 

 ■きわどいエプロン

  ※全裸ぜんらに着用する



 クイーンヒールってのは、ハイヒールのことだ。かかとの高さが、なんと7センチ以上ある。歩くたび、爪先つまさきにダメージを受けそうだよな。しかも、アクション系の洋画のヒロインは、よくハイヒールをいていたりしないか? むやみに薄着だったりもする。ハイヒールで動きまわっていたら、かかとがれて血が出そうだ。演じる女優は、痛みを我慢しているとしか思えない。


『どうも』


 と、向こうから俺に話しかけてきた。レザーアーマーにブーツ、腰にパラライズソードという戦士キャラクターだ。俺と似たような容姿だが、レベルは相手のほうが少し高いな。名前は[ファーレン]と表示されている。リアルの性別は不明だが、ゲーム内の見た目は赤い髪をしている。


『ブレイクって、呼んでいいっスか』


 ……こいつの性別は男かもな。いかにもな語尾だが、そんな気がする。敬称略を求められた俺は、『ああ、いいよ』と寛容かんようさを示す。こいつのことは、画面で認識した瞬間から気になっていた。貴重品の[きび団子]を装備している。和国わこくリージョンの限定イベントを、ベストクリアしてきたあかしだ。……で、付与ふよされる効果は、おともさるとりいぬがプレイヤーのあとをついてくる。ちなみに、動物たちは非戦闘員だ。もっとも、三匹を連れて歩いていると、やたら目立つ。


『オレ、勇者イベントを発生させたくてレベル上げしてきたけど、限定イベントが起こるのって、このリージョンで合ってるかどうか知ってる?』


 ファーレンは、勇者の称号がほしいようだ。あと、こいつの中身は男に決定した。



✓つづく

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