☆第三十三話 モンスター少女たち☆


 列の最後尾へ並んでいる間、イベントのコスチュームで着飾った女子学生や、家族連れのお客さんから、育郎は軽い注目を浴びた。

「きゃっ…わあぁ、驚いた~っ! ここのモンスターガール喫茶って、フランケンシュタインの着ぐるみまで用意してる~っ!」

「すっご~いっ! よく出来てる~っ!」

「ど、どぅも…」

「パパ~っ、ゴーレム~っ!」

「こ、こらっ…どうも…っ!」

「い、いぇ…」

 強面巨漢がシックな色合いの服で着飾っていて、しかもコスプレ喫茶のコンセプトがモンスター系。

 並んでいて、間違えられても仕方がないと、育郎も諦めてはいた。

 家族連れの親などは、流石にコスプレではないと理解をして、気まずそうに謝罪をくれるけれど、子供や女子高生は、仕方がない気もする。

(まぁ…今更だし…)

 特に上京してからは、すれ違う女性たちや前を歩いている女性たちとかからは、ナチュラルに驚かれてきたし、容姿のお陰で就職もままならなかった育郎だ。

 特に立腹するような出来事でもなく、不機嫌な顔にもなりようが無かった。

「…ふふ…」

 そんな温和な青年に、お婆ちゃんはまた、安らぎのような笑顔。

 後ろにも伸びた列が進んで、教室の入り口で看板を掲げているオオカミ少女が、二人を受け付けた。

「いらっしゃいませガオ~っ! って、GOさんじゃないっスか! お婆ちゃんもっ! こんにちはっス!」

「え…ミッキーちゃん!」

 下から見上げて来たオオカミ少女は、犬耳と犬手袋と犬ブーツで着飾った、ミッキー嬢である。

「おおぉ~…犬少女? 可愛いね♪」

「ふへへ…って、オオカミっスよ! 来てくれたんっスね♪」

「うん。ミッキーちゃんのコスプレ、凝ってるね♪」

 笑顔で歓迎してくれるミッキー嬢は、狼少女のコスプレだけではなく、ベージュ色の全身タイツを下地として、ボロボロな感じの古い服を重ね着していた。

「さ、さっきは間違えてしまって、申し訳なかったですけれど…変身した狼少女の、ボロボロになった服のイメージでしょ?」

「ぅおぉっ、流石っス~っ! これでも結構、苦心したんスよ~♪」

 笑顔で応えながら、全身を見せるように、クルっと一回転。

「なるほど…。それにしても、モンスターガール喫茶って、みんなそれぞれ 違うモンスターにコスプレしてるの?」

「はいっス~っ! お婆ちゃんも、来てくれたんスね~♪」

「ええ。ミッキーちゃん、可愛いらしい変装ねぇ♪」

 お婆ちゃんも、少女たちのコスプレを、華やか気に楽しんでいた。

「あたしももうすぐ、受付け交代で…あ、桃ちゃ~ん」

 教室から、受付け交代要員として、桃嬢が出て来た。

「まぁ、ふっ様…それにお婆様…。ようこそ、いらっしやいまし~♪」

「桃ちゃんも、ごきげんよう♪」

 笑顔で返すお婆ちゃんに比して、育郎は一瞬、桃嬢のコスプレに戸惑う。

「そ、そのコスプレは…っ!」

 桃嬢は、地の黒髪を生かした、いわゆる和風の幽霊コスプレ。

 しかし幽霊要素としては、頭に白い三角の布を付けているだけで、それ以外は体操着そのまま。

 しかも、この学園では裾の広いハーフのスラックス・タイプが正装だけど。

「むっ、昔ながらの…ブルマっ!」

 いまや地方の学校でも見かけない、むしろアニメか漫画か風俗かコスプレでしか見ないであろう、昭和の濃紺色ブルマであった。

 青年の驚愕に、桃嬢は妖しい笑み。

「まぁ、ふっ様ったら…このような衣装がお好みでしたなんて…なんとステージの高い…♪ なれば、きっと…はふぅ…♡」

 いつも通り、色々な妄想が捗る桃嬢である。

 ブルマ世代だったお婆ちゃんは、黒髪ブルマな桃嬢に、懐かしさを感じているようだった。

 などと話をしていたら、前のお客さんが案内をされて。

「あ、お婆ちゃんとGOさん、ご案内っス!」

 亜栖羽の彼氏である育郎と、クラスメイトの祖母らしいお婆ちゃんを、窓際の席へと案内してくれた。

「じゃあ、ちょっと待っててくださいっス!」

 ミッキー嬢が他意の無いウインクをくれて、亜栖羽を呼びに行った様子。

 調理スペースから『ぇえ~っ♡』と、元気な天使の声が聞こえて、モンスターコスプレ少女が飛び出してきた。

「あっ、亜栖羽ちゃんのっ、コスプレっ!」


                    ~第三十三話 終わり~

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