☆第十話 キャンプ場へ☆


 少女たち三人は、みな秋の装い。

 桃嬢は落ち着いた色合いのコートを着こなし、足下もブーツと大人っぽく纏めていて、黒髪と相まって、物静かに読書の秋を想わせる印象。

 ミッキー嬢はスポーツの秋を体現したような、パーカーや白い運動靴など、元気で明るくて軽やかなスポーツファッションを着こなしていた。

 そして亜栖羽は、育郎が目も心も奪われる、郊外向けな愛らしい姿。

 大きめの帽子を乗せた頭は、可愛い小顔が引き立ち、思わず抱きしめたくなる。

 明るい色のコートは、少し大きめでフカフカで、山での防寒対策も兼ねていると解った。

 スカートではなくショートパンツ姿で、膝下までの厚手なソックスと、明るいカラーの運動靴。

 色合いといいスタイルといい、大自然の中でも視認しやすい衣装選択だった。

「おおぉ…♡」

 思わず感嘆の声が溢れる青年に、少女は自分の服装が間違っていないか、確かめる。

「オジサン、どこか おかしなトコロ、ないですか~?」

 全体のコーディネイトもだけど、キャンプのスタイルとして、という意味もあった。

「ぜっ、全然っ、おかしなトコロなんてっ、ありませんっ! 黄色系とかっ、オレンジ色系はっ、自然の中でもっ、よく目立ちますからっ!」

 天使の可愛いらしさに興奮する青年は、喜びと感動で筋肉が盛り上がる。

「良かった~♪」

 安心して、パっと笑顔が輝く亜栖羽に、また育郎の強面が蕩けたり。

「でへへ…ハっ、そうだっ!」

 我に返って、慌てて車から降りて、助手席の扉をオープン。

「亜栖羽ちゃん、どうぞ」

「は~い♪ ありがとうございま~す♪」

 紳士というより使役獣にも見える青年は、続いて後部座席のドアも開ける。

「二人も出かけるんだよね? 送るよ」

 亜栖羽の友達は、育郎にとっても大切だ。

「え、良いんっスか?」

 と、映画館まで送って貰えると喜ぶミッキー嬢の肩を、桃嬢がガっと掴む。

「いいえ~。私たちは、ノンビリと電車で向かいますので~」

「え…ぁあ、そうっスそうっス!」

 桃嬢の意思を読み取ったミッキー嬢が、慌てて訂正をした。

「そう…? それじゃあ、二人も 気を付けて」

「「は~い♪」っス♪」

 育郎が静かに扉を閉じて、運転席へ。

 助手席の窓では、亜栖羽たちが打ち合わせをしている。

「それじゃ~、お土産とか写真~ 楽しみにしててね~♪」

「こっちも、パンフ 買っておくね♪」

「ふっ様の手で、人も通わぬ山奥へと連れられる亜栖羽さん…はふぅ…♡」

 桃嬢だけは、既にお土産を貰っている様子だった。

 車道の前後を確認して、育郎がゆっくりと車を発進。

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってきま~す♪」

「「行ってらっしゃ~い♪」っス♪」

 二人に見送られながら、車は一路、キャンプ場へと向かった。


 隣の県のキャンプ場は、当然ながら山の中。

 車は、一般道から高速へと乗り、前方の山を目指してひたすら走る。

「今日は 晴れて本当に良かったよ」

「ホントですね~♪ キャンプもですけれど~、山の中を歩いたりするの、すっごく楽しみです~♪」

「昨日のキャンプ場の情報だと。紅葉も散り始めてるらしいから、見頃に間に合った感じだね」

「紅葉~♪ 良いですよね~♪」

 亜栖羽はお婆ちゃんの影響で、毎年一枚、秋の落ち葉を拾って日付を書いて、日記帳に挟んでいると、育郎は聞いた事があった。

「山の中なら、なんだか綺麗な落ち葉が 拾えそうだよね」

「えへへ~♪ お婆ちゃんの分も、拾って帰りたいです~♪」

 こういうお婆ちゃん想いなところも、とても愛らしいと、青年はあらためて感じる。

「…そうだよね。そういうお土産も、ありだよね」

 田舎の祖父母へのお土産に、僕も紅葉を拾って帰ろうかな。

 とか、考えたり。

 高速道の景色も、ほぼ山だけとなって、一般道へ降りると、車道を郊外から里山へと進む。

 砂利道から山へ登ってゆくと、キャンプ場の入り口が見えた。

「到着~♪」

「わあぁ~♪」


                    ~第十話 終わり~

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