☆第九話 約束が果たされる時!☆


 日曜日の、朝六時。

「ふわわ…あふ…。よし、時計より 早く目が覚めたぞ…っ!」

 筋肉の巨体へ力を込めて、全身を力みで膨張させながら、青年の一日が始まる。

「んんん~っ…ふぅ」

 巨体を起こしてカーテンを開けると、まだ薄暗い空は、しかし殆ど雲が見えない。

「うん! 絶好のキャンプ日和だぞっ!」

 亜栖羽とのキャンプは、夏前から計画をしていた。

 それが今日、いよいよ叶えられる。

 いつもより早く眠気が吹っ飛び、顔を洗って着替え、朝食を作りながら洗濯もこなし、朝食を食べて頭をシャキっとさせる為の珈琲を戴きながら、キャンプの準備を再点検。

 食材やキャンプ道具などは、全てキャンプ場で予約をしている。

 しかしそれでも、自分で用意をした方が良い物もあった。

「昨日の夜に、全部チェックはしてあるけれど、念には念を…っ!」

 軍手やごみ袋などだけでなく、水仕事もあるだろうからタオル類や、ドリンク類とか、缶詰だけどデザート類など。

 それに。

「万が一にも…亜栖羽ちゃんが、怪我とかしてしまった場合も…っ!」

 勿論、育郎としては、そんな事態は命に代えても引き起こさない、騎士(ナイト)の心構えである。

 しかし、日帰りとはいえ初めてのキャンプだし、何が起こるか育郎だって解らない。

「虫よけスプレーに絆創膏に、消毒スプレーに包帯に…とにかくっ、あらゆる事態を想定してっ、亜栖羽ちゃんを絶対に守る体制を…っ!」

 キャンプ道具はレンタルだし、キャンプ場の救護施設もシッカリしていると、育郎は何度も確認済みである。

 なのに用意をした荷物は、亜栖羽が余裕で入れそうな程の大型バッグが破裂寸前にまで膨らむ程の、過剰準備となっていた。

「ふぅ…他に何か…」

 キャンプの入門書を何度も確かめながら、育郎の準備は出発寸前まで続いた。


「そろそろかな…っ!」

 亜栖羽は今日のキャンプについて、ミッキー嬢や桃嬢と遊びに行くと、家族には伝えていると聞いた。

 なので、育郎は三人と待ち合わせをしている駅へと向かう。

 昨日からレンタルをしている大型SUVの広めな運転席で、やや小さく身を縮こませる巨漢青年は、後部スペースへと荷物を詰め込んで、駅への道を走らせていた。

「うん、もうすぐだぞ」

 スマフォのナビによると、あと五分ほどで到着しそうだ。

 ちなみに、待ち合わせの時間より三十分ほど速く到着をする予定である。

 晴れた休日で、車道はそこそこ車が走っているけれど、混雑という程ではない。

 対向車線の運転手たちは、すれ違うSUVの運転席でニコニコしている仁王様に驚き、同じ車線の家族連れは後ろから追いすがる鬼面な運転手のSUVに、子供が泣いたり。

 駅が見えて来た頃、スマフォがコール。

『オジサ~ン♪ お早うございます~♪』

 目覚ましの珈琲よりも育郎をシャキっと気持ち良く目覚めさせる、天使のモーニングコールだ。

 駅が近いとはいえ、育郎は車を脇へ停めて、通話で話す。

「でへへ…ハっ–ゴホん…亜栖羽ちゃん、お早う~」

 今起きたところかな。

 とか、可愛らしくパジャマ姿な亜栖羽を想像しつつ、スマフォへ応えると。

『GOさん、デヘデヘした感じが 伝わってきましたッス!』

『ふっ様、お早う御座います…はふぅ♡』

 と、ミッキー嬢と、友達である柿栗桃(かきくり もも)嬢の声が。

「えっ? ミッキーちゃんと、桃ちゃん…っ?」

 しかもミッキー嬢にはデレデレがバレて、桃嬢は挨拶の段階で、何かを満たされていた様子だ。

「あ、お、お早う…えっと、もうすぐ、駅に到着するけれど…」

『はい~♪ 私たちも~、いま改札を出たところです~♪ 南口 でしたよね~♪』

 亜栖羽たちも、待ち合わせの三十分前に到着をしているらしい。

 育郎の行動に慣れた亜栖羽たちが、育郎に合わせて行動してくれた事を、育郎自身もまだ気づいていなかった。

「うん。駅を出て、車道を左へ沿った歩道を進むと、すぐに駐車スペースがあるから…」

『は~い♪ そこへ向かいま~す♪ それじゃ~ またすぐ~♪』

 と、明るい声で、亜栖羽からの報告が終わった。

 愛しい少女の元気な声は、青年の活力を更に活性化してくれる。

「さてっ! 周りに注意をして…あ!」

 通話が終わって、亜栖羽の声を聞けた喜び状態の脳みそが、待ち合わせの三十分前に亜栖羽たちが到着していた事へ、ようやく気付いた。

「亜栖羽ちゃん…キャンプ、凄く楽しみにしてくれてたんだなぁ…♪」

 準備をした甲斐があったとウキウキしながら、車を発進させて、数分で駅前の駐車スペースへ到着。

 亜栖羽たち三人は、すぐに見つかった。

 気を付けて徐行をしながら、窓を開けて、手を振る。

「みんな、お早う♪」

「あ、オジサ~ン♪ お早うございま~す♪」

「GOさんっ、お早うございまっス!」

「ふっ様…またなんと 生命力のお盛んな…はふぅ♡」

 三者三様の挨拶を受け取って、育郎は車を少女たちの前へと、横付けでユックリと停めた。


                    ~第九話 終わり~

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