☆第八話 夏前からの約束を☆


 中学の時の、育郎たちの研究などの話題となって、やがて今日の本題へ。

「あ、それでね。明日の日曜日の、その…日帰りキャンプ、だけどぉ…」

 日帰りとはいえ、亜栖羽と二人での初キャンプに、育郎はまた、だらしなく強面が破顔したり。

「はい~♪ 私っ、すっっごくっ、楽しみにしてました~♪」

 予約が出来てから、亜栖羽と何度か打ち合わせはしているので、今日は最後の確認だ。

 育郎のスマフォに、キャンプ場のホームページが表示される。

「隣の県だから、当日は車をレンタルして お昼前に出発しようと思うんだ。食材とかは キャンプ場で予約してあるから、亜栖羽ちゃんは 防寒装備だけで大丈夫だよ」

「は~い♪ 当日は~、ミッキーと桃ちゃんとで、映画を観に行くっていう話に なってます~♪」

「そうなんだ。二人にも 何かお土産、買ってこようね」

 日帰りキャンプの話は、元々は夏休みのイベントとして、夏前から話題にしていた二人。

 しかし、夏キャンプは当たり前に人気らしく、育郎がキャンプ場を探し始めた頃には、日帰りで行ける近郊はみな予約で埋まっていたのだ。

 夏休みの予約が取れなかった事を深く謝罪する育郎を、亜栖羽は笑顔で許してくれた。

 そして育郎は、とにかく日帰りの出来る良いキャンプ場の予約を、毎日の仕事の合間にチェックをし続けて、ついに勝ち取ったのであった。

「オジサン、約束を守ってくれて すっっごく嬉しいです~♪」

「いやぁ…でへへ♪」

 亜栖羽の輝く笑顔だけで、育郎の努力は全て報われて、更におつりがくる程だ。

 待ち合わせの場所や時間などが決まると、二人は和風喫茶から出る。

 亜栖羽たちの文化祭での、喫茶店でのコンセプトの参考にと、街の喫茶店やファストフード店などを、見て回った。

「キャンプ~♪ 秋の山ですよね~? どんな景色なんでしょ~♪」

 都会育ちの亜栖羽は、特に郊外というか、里山などで日常的に遊んだ事はない。

 夏休みやお正月などで、都会から遠く離れた本家へ帰った時でも、従兄弟たちとちょっと遊びに行く、くらいだ。

 対して育郎は、結構な田舎街で育ったため、街の中心から少し自転車を走らせれば、山の中へ行けたりした。

「僕たちの場合は、なんか男子は 野山で遊んでた感じだったかなぁ…。山の中に小川とかあって、子供の頃は夏になると、みんなで川遊びとか していたよ」

「あっ、里の風景~。みたいな ネット番組で観た事ある感じの~、ですか~♪」

 夏になると、小学生の男女が山の中の川へ飛び込んだりしている涼し気な映像と、よく似た感じだ。

「そうそう、あんな感じ。川っていっても岩が多いし、前の日の天気によっては 流れが強くなったりするから、けっこう注意は必要なんだけどね」

 とはいえ、小学生が遊べる場所で、しかもなんだかんだで六年生まで来てくれるから、子供なりに安全対策は代々、引き継がれていたりもした。

「サワガニとか捕まえて、低学年だとハサミで指を挟まれたりしたりね。水温も冷たいから、網に缶ジュースとか詰め込んで、川に沈めて冷やしたりとか♪」

「わあぁ~♪ すっっごくっ、楽しそうですよね~♪ いいなぁ~♪」

 想像をすると、とても楽しそうな亜栖羽である。

 思い出話を楽しみながら、二人はまた、亜栖羽の文化祭の話題へ。

「そういえば、亜栖羽ちやんたちのクラス 喫茶店をやるんだよね?」

「はい~♪ とりあえず~なんですけれど~。飲み物と軽食のセット~、みたいなメニューで 考えてます~♪」

「なるほど…たしかに、あまり凝ったメニューとか、難しいもんねぇ…」

 それでも、ドリンクとのセットメニューは、凝っている方だろう。

「あ、そういえば~、オジサンの大学の頃にも、文化祭って あったんですか~?」

 大学の学園祭は、高校時代とは比較にならない程の、出店やイベントばかりだった。

「うん。ああ、いま思い出したよ…。上京して、初めて大学の学園祭を体験した時、なんていうか…東京って凄いんだなぁ…って、感動というか、驚かされたよ」

「そうなんですか~?」

 育郎の大学時代の話も、亜栖羽は興味津々の様子。

「いわゆる 東京の繁華街とかの、人で混雑している光景とかは、流石に田舎でも情報としては知っていたし…夏休みに東京で遊んだ友達とかからも、訊いてはいたからねぇ。ある程度の予測~みたいな感じは、出来ていたんだけど…」

 学園祭は、本当に大学のキャンバス全体がお祭り騒ぎで、しかも一般のお客さんも多くて、出店の種類も豊富だった。

「たこ焼きとかイカ焼きとかでも驚いたけど…ケバブとかお好み焼きサンドとか、上京したての僕が知らない食べ物が、凄く多くてね」

 思い出す地元のお祭りよりも盛んで、しみじみと思った。

「東京って…つくづく凄いんだなぁ…って。何気に、自分の生まれ故郷が 意味も無く懐かしくなったりしてね」

 という思い出を語る青年を、少女は、愛し気な眼差しで見上げていた。


                    ~第八話 終わり~

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