☆第七話 それぞれの中学時代☆
「文化祭かぁ…。たしかに、もうそういう季節だよね」
「はい~♪ 私~、高校生になって 初めての文化祭なので~、すっっご~っくっ、楽しみです~♪」
今にもドキドキが溢れ出しそうな亜栖羽。
「ああ、それで ここのコスチュームを参考にしてるって事は、亜栖羽ちゃんたちのクラスも 和風喫茶を出店するの?」
亜栖羽の和風ウェイトレスで接客をして貰うシュチュエーションを妄想し、幸せ感に浸る育郎。
「それがですね~♪ 実はまた、決まってないんですよ~」
亜栖羽の話では、今度の金曜日のHRで、出し物を決めるという。
「一応~、クラスとしては、コンセプト喫茶~、っていう感じなんですけど~♪」
どんなコンセプトにするかを、金曜日までにそれぞれ考えて来る。
という流れらしい。
「なるほど…。それで、亜栖羽ちゃんとしては 色々なお店を見てみたいんだ」
「はい~♪ 今のところ~、メイド喫茶も 候補に挙がる感じなんですけど~」
(メイド服の亜栖羽ちゃん…)
頭の中で、綺麗なメイド服を着飾った亜栖羽が、思い浮かぶ。
(赤系…いや黒系とか…うむむっ! 亜栖羽ちゃんならっ、どんなカラーでもっ、最高に似合うっ!」
妄想が漏れてしまっているけれど、亜栖羽も慣れているので、育郎の妄想の内容も想像が出来てしまえた。
「えへへ~♪」
恥ずかしそうに頬を染めて、栗羊羹を一口、小さく頬張る。
「ただですね~、メイド喫茶って、他のクラスでも人気なんですよ~☆ だから私たちも、違うコンセプトにしないと~って、みんな考え中なんです~☆」
「なるほど…。たしかに、メイド服って 女の子たちに人気らしいもんねぇ…」
なので、亜栖羽たちのクラスだけでなく、女子たちはみな、色々な制服を物色してている最中なのだとか。
「たしかに、個性を出した方が お客さんも集まるもんね…」
と、育郎も考えてみるものの、仕事も趣味もインドアな青年に、ベスト・アイディアが思いつく感じも無し。
「あ、オジサンたちの文化祭って~、どんな事 してたんですか~?」
恋人の学生自体に、少女は興味津々の様子で、大きな瞳がキラキラと輝く。
「僕の学生時代…? う~ん…大学で東京へ出て来て思ったのは、僕の地元の出身中学も高校も、凄く真面目というか…いわゆる 堅い学校だったんだなぁって…」
「そうなんですか~?」
亜栖羽の黒曜石みたいな、深くて大きな黒い瞳が、更に大きくキラキラと眩しくなった。
「うん。中学校の時は三年間、体育館でクラス毎の発表みたいな感じだったし…高校では教室で、やっぱりクラス毎の研究発表だったよ。当時でも、ネットで情報を集めるのが当たり前だったけど…友達とかは『遊びの無いイベントはつまらん!』とか、文句を言ってたっけ」
当時、特に楽しいイベントとかを想像していなかった育郎にとって、それでも懐かしい思い出だ。
「研究発表ですか~。オジサンの通ってた高校って、進学校とか~ だったんですか~?」
「う~ん…進学校って程ではなかったと思うけど…地元では一応、その…ハ、ハイレベル扱いで、あったとは、思います…」
なんだか自慢話のようで、恥ずかしくなった育郎は、筋肉の巨体を縮込ませ、更に学校の評価も控えめに伝えてしまう。
「オジサンが、すっっごく物知りな理由も~、わかっちゃった気がします~♡」
亜栖羽にとっての育郎の評価が、また一段と高くなった。
「いやぁ…でへへ♡」
乾いた喉をお茶で潤して、育郎からも質問をする。
「亜栖羽ちゃんは、中学の頃の文化祭って、どういう感じだったの?」
問われて、育郎のように遥か昔を思い出すでもなく、すぐに去年の解答をくれた。
「あまり派手な出店とかは、出来ませんでした~♪ 喫茶店でも、小さなケーキとパックの紅茶~ みたいな感じでしたね~♪」
中学生だから、あまり難易度の高い出店は禁止だろう。
「あ、開催期間が二日間なのとか~、一日目は学外からのお客さんたちが来る~とか~、高校の文化祭と、ほとんど一緒みたいでした~♪」
来場者が学内で物販購入や飲食をする場合、校門に設置されたクーポン売買所でクーポン券を購入して、その際に得たお金は学校から盲導犬協会などの社会福祉機関へと、寄付をされていたらしい。
「へぇ…立派な学校だったんだね♪ 亜栖羽ちゃんたちが集めた寄付金が、色々な人たちの役に立っていたんだ♪」
「え、えへへ~♪」
恥ずかしそうに、亜栖羽は緑茶を戴いた。
「高校の文化祭だと~、コンロを使うような調理メニューも出せますし~♪ 同じ寄付でも、クーポンではなく 自分たちでお金を稼げるんですよ~♪」
亜栖羽の通う女子高は、育郎の通っていた高校よりも、かなり社会的だと感じた。
~第七話 終わり~
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