☆第六話 あ~んと正解!☆
「亜栖羽ちゃん、ああいう和装 したいの?」
いわゆるコスプレであれば、衣装を借りたりメイクもして貰えて撮影までして貰えるスタジオが普通にあると、育郎も知っていた。
プラモに関して検索をしていたら、写真ヲタク繋がりの情報で得た知識である。
「色んな服を着てみたいとか~、想像は やっぱりしますけど~♪ 今日は あの制服も、チェックしておこうかなって 思いまして~♪」
やはり、コスプレではないのだろうか。
「? ああいうコスプレをしたい…とかじゃなくて…?」
「ん~、コスプレっていえば コスプレですよね~♪ えへへ♡」
なんだか謎掛けのように微笑む少女は、育郎とのこういう会話も楽しい様子だ。
窓からの優しい陽光とか関係なく眩しい天使の為にもと、青年は必死で考える。
「う~ん…ただのコスプレ、というワケじゃあ 無いんだよね…?」
「えへへ~♪ ヒント~、秋です~♪」
「秋…今の季節…秋と女中さん…? 栗系のお菓子…ふむむ…」
ついさっき注文をした栗の和菓子しか思い浮かばず、仁王像が難題に腕組みをしているような強面で、注文品を運んで来た女中さんがビクっとおののいた。
「ヒントその②~♪ ミッキーと桃ちゃん~♪」
「亜栖羽ちゃんのお友達…? うむむ…」
三人でコスプレをする。
という答えではないだろう事は、育郎にも想像できる。
思い悩む育郎へ、亜栖羽は自分の栗羊羹を一切れ分けて、育郎へと差し出す。
「オジサン、甘い物で~、糖分補給しましょ~♪」
笑顔で差し出された、細い竹箆(たけべら)の先へ挿された一口大の栗羊羹を、強面の視界が捉える。
「!」
黒い羊羹の表面は滑らかに艶々で、箆で切った断面が微妙にザラ付いて、マットブラックな色合い。
そして断面の半分は大きな栗で、黄色い実が適度に柔らかそうで、とても美味しそうだ。
(あっ、亜栖羽ちゃんがっ…あ~んを…っ!)
「あ、あの…先に、僕がっ、戴いてっ…いいの…っ?」
「はい♪」
育郎の問いに、亜栖羽はキラキラと、楽しそうな笑顔で応える。
「でっ、では…っ! ぃぃ戴きます…っ!」
恥ずかしくて嬉しい行為に、仁王像のような悩乱強面が、秋の熟し過ぎた柿の如くに、デロんと蕩けた。
「…あっ–ぁああああんん…っ! ぁむっ…んむっんむっんむ…でへへ♡」
水圧のキツい深海から水圧の無い海上へと釣り上げられたアンコウのように、青年の顔面がだらしなく蕩けて、上気に熟れる。
「ぉ、美味しいです…あ、亜栖羽ちゃんも…はい♡」
育郎の注文した栗餡最中を、やはり少女の一口大へと、竹箆で器用に綺麗にカットをして、竹箆で挿して両掌で差し上げる。
「あ、あ~ん…」
「あ~ん♡ んむんむ…んふふ~♪」
サクサクの最中とシットリした黄色い栗餡が、絶妙な甘味と快感と歯応えで、少女の口中を幸せで満たす。
「最中も 美味しいですね~♪」
「やっぱり 秋の味覚だよね~♪」
二人でお互いの和菓子を分け合って、温かく仄かな渋みの緑茶で、口の中の甘味を流した。
美味しそうに季節の和菓子を戴く少女の、幸せそうな笑顔が、青年にとって何よりのご馳走である。
「うふふ…♡」
と、幸せに浸っていたら。
「それで、オジサン~♪ 答え~、解りました~?」
「ハっ–そ、そうだったよね…っ!」
幸せな光景よりも、もっと幸せな現実世界へ帰還を果たすと、あらためて考える。
「う~ん…秋、衣装、コスプレ、お友達…っあ、もしかしてっ!」
全てのパーツが合わさった育郎の答えは。
「学校の文化祭の、出し物…とか…?」
亜栖羽の笑顔が、更にパっと明るく輝いた。
「わ~、当たりです~♪ オジサン、流石ですよね~♪ 私、次のヒント~、学校って、出そうと思ってました~♪」
「えへへ…♪」
褒められて嬉しくて恥ずかしい筋肉巨漢は、無駄に縮こまりかけていた。
~第六話 終わり~
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