☆第十一話 初めての場☆
駐車場へ車を進入させて、予約の札が立てられている駐車スペースで停車。
車から降りると、周囲の全てが大自然だ。
「すっご~いっ! 空と山と森と川しかっ、ないですね~♪」
亜栖羽は嬉しそうに楽しそうに、緑豊かな風景を堪能している。
スマフォを取り出して、景色や車や青年をパシャパシャと撮影。
「僕も キャンプ場は初めてだけど、なんだかすごく 落ち着く気がするよ」
育郎がそう感じるのは、野生の熊も腰を抜かさん程の強面巨漢だからとか、生物として野生っぽい感じだからとか、そういった理由ではない。
在宅プログラマー兼SF洋書翻訳という、超インドアワーカーだから、より一際の解放感を感じるのだ。
車の後部ドアを開けて、持参した荷物を担ぐ。
「あ、オジサ~ン、私も荷物 お持ちします~♪」
青年は少女へ「特に荷物とかなくて大丈夫」と伝えていたので、亜栖羽は小さなポシェットのみであった。
「ありがとう。僕の荷物はこのバッグは一つだから、大丈夫だよ♪ それじゃあ、受付けに行こうか」
「は~い♪」
片腕で背中へカバンを担いだ育郎の姿は、まるで、大きなエモノを仕留めたハンターの如くである。
そんな青年の写真も撮影されながら、亜栖羽と二人で、キャンプ場の受付け棟へ。
「ここだね」
ロッヂ風な二階建ての施設は、一階フロアが受付けや厨房で、二階フロアが喫茶室や休憩スペースらしい。
入口には立て看板も立てられていて、薪やレトルト食品など、キャンプ用品の販売もされていた。
左右開きの手動扉を潜って、受付けのカウンターへ。
「すみませーん」
『はーい』
育郎が声をかけると、奥から初老の男性が出て来た。
「いらぁあ…ぃいらっしゃい。えぇと…」
育郎を見て、一瞬戸惑ったものの、初老の管理人さんはすぐ思い出したように、対応をする。
「先日 予約をした、福生です」
「あぁ、はい。お待ちしておりました」
管理人氏がすぐに慣れたのは、育郎が予約をした際に、通話だけでなくカメラでのヤリトリもあったからだ。
その時に、育郎の強面と、背景から察する巨漢っぷりに驚いたものの、逆に来場の際の予想は出来ていた。
しかし実際に対面をしたら、筋肉巨漢の存在感は想像以上で、管理人氏は、このあたりには生息していない熊が来たのかと、一瞬驚かされたり。
そんな経緯で、早くも育郎に慣れた管理人氏は、ごく普通に接客を開始した。
「本日は、日帰りキャンプのご予約でしたね」
「はい」
「よろしくお願いしま~す♪」
と、巨漢の背後から明るい笑顔を見せた小柄な少女に、また管理人氏は驚かされる。
(…笑顔だし…この様子なら…うん)
犯罪性は無いと判断。
強面筋肉巨漢と小柄なJKという組み合わせなので、管理人氏の戸惑いも、しかたのない事だろう。
受付けから、予約のキャンプスペースへと、案内をされる二人。
「ぇえと…お食事のバーベキューと、テントもご予約でしたね」
「はい」
「テントですか~っ? 私~、テントって初めてです~っ♪」
「僕もだよ♪ 中で寝転がるの、楽しみだよ♪」
日帰りでも、テントを予約する客は珍しくない。
折角のキャンプなのだから、出来得る限りの満喫をしたいのは、誰でも同じであろう。
キャンプは初心者らしいカップルに、管理人氏もホッコリしたり。
山の中のキャンプ場は、育郎が子供の頃に友達と過ごした、川遊びの場に似ていた。
森と隣接をした河川敷は石と砂利が多く、幅のある浅い川が流れている。
(…上流へ登ったら、やっぱり 岩だらけの場所とか、あるのかな…ふふ)
とか、田舎の景色を回想したり。
周囲は森と山に囲まれていて、森の近くには水場やトイレが完備されていて、煉瓦で造成されたバーベキューなどの飲食設備も点在していた。
「食材のクーラーボックスは、本部の冷蔵庫でお預かりをしてますが、ご予約のテントなどは、こちらへ用意してございます」
杭とカラーロープで仕切られた「三番」のスペースに、大きなテントが畳んで用意してある。
ついでに、食材が収められたクーラーボックスは鍵付きタイプで、万が一にも野生の動物が明けられないような造りだと、二人は教わった。
食事をする時に、受付けでクーラーボックスと鍵を受け取るシステムだという。
それから、料理や焚火や食事に関する決まりも、レクチャーを受ける。
「–という感じで、よろしくお願いします」
「「はい」~い♪」
管理人氏が受付け棟へ戻ると、育郎は予約したスペースへと、荷物を降ろした。
~第十一話 終わり~
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